第10話 その6
「君なら理解してくれると思ったんだ。実際にこうして顔を合わせていると、それが正しかったって確信できる。その眼帯はファッションじゃないんだろう?」
「そのとおりです。昔事故に遭いまして、このようなことに」
今日は右瞳を見せられる体調ではない。眼帯の上から軽く手で抑えながら、倉橋先輩の問いに答えた。
「無理に喋らなくてもいいからね。私は共感っていうか……理解してもらいたくて、勝手に喋っているだけだから」
「その気持ちはよくわかりますよ。僕もかつて、似たような経験をしましたから」
「なら本当の意味で、君は人生の先輩だな。尊敬するよ」
もし心の底からそう思ってくれるのなら、嬉しいけど。
「倉橋先輩が綴木先輩のことが好き、っていうのはわかりました。そして僕に対する誤解も解け、悩みの共有もできた。これ以上何をお望みですか」
僕なりに何を求められているのかはすでに推測できている。それは本院に言葉にしてもらわなければならない。
「綴木さんに手を出さないで」
「出しませんよ」
「綴木さんと仲良くしてあげて」
「部活の中なら普通に接しますよ」
「……私に協力して」
「いいですよ」
その瞬間、倉橋先輩の表情は今にも泣き出しそうなほど崩れた。
やはり僕は慰めない。この人はきっと、自分で乗り越えられる人だから。
「――ごめんなさい」
「構いませんよ。気持ちがよくわかるって、さっき言ったばかりじゃないですか」
「そうよね。ありがとうね、本当に。ありがとうね……」
ショックのせいなのか、倉橋先輩はしばらく何も喋れなかったらしい。
他人に受け入れられるよりも、拒否されないかったという事実は本人には大きな進歩だったのかも知れない。僕が沖田さんに右瞳を見せた時、あの人もまた僕のことを拒否することはついになかった。
障害とは本人にとっては大きな壁のようにも感じられる。まともそうな人が一言を放つことが重要だと、多くの人は気がついていない。あるいは自分程度なんて……。そんなふうに自らを軽んじている。
どちらが上とか下ではなく、言葉そのものが重要なんだ。
そういう人にとって、そうでない人は眩しく見える。
正直な話、妙だとも思った。
初対面の僕にこんな話を打ち明けることは、非常にリスクが高い。自信という言葉で簡単に片付けてはならない。
けれど「頼られてしまった」事実に、しばらく酔っていたのかもしれない。
この人の裏にどんな思惑があるのか、完璧な推測など不可能だろう。僕は沖田さんとは違うのだから。
それでもいいか、と思ってしまった。
倉橋先輩は、その俯いていた顔をゆっくりと上げる。その瞳に涙は浮かんでいない。
「それで、協力というのは……?」
「ごめんなさい、今から説明するわ」
少し雰囲気が変わった。先ほどまでは普通の女子……いや、まだ僕のように男性じみた口調が残っているが、その喉から女性らしい艶やかな声色がその姿を覗かせる。
「簡単にいうなら、私の恋路を手伝って欲しいんだ」





