第10話 その5
「直球に聞くけど、綴木さんとどういう関係?」
「……普通の先輩、後輩ってだけですよ。あの人とは最近知り合ったばかりですから」
「そっか、そっか……」
倉橋先輩はふぅ、と小さくため息を吐き出す。
「私ね、あの子のことが好きなの」
……そりゃあ、僕なんかには推測できないよな。
「僕が綴木先輩と仲が良いのを見て、彼女と勘違いしたとか、もしかしてそういうお話ですか?」
「詳しくは違うかな。今のは確認だけだから。まだ本題は話し終わってないよ」
同性愛者は現実には初めて見るな。こうして退治しても、気持ち悪いとかそういう差別的な意識は微塵も湧いてこない。強いて言えば「物珍しい」という感想が漏れ出してきそうな程度か。
特に何も思わない。それが結果だった。
「……変だと思うでしょう?」
「別に。僕も変な人間ですから」
そう。僕はもっと異常な人間だ。
自分のことをそう捉えているからこそ、同性愛なんて何も思えなかった。今目の前にいる倉橋先輩は普通の人に見えたし、それ以上の大きな感想も湧いてこない。
「やっぱり、そうなんだね」
「倉橋先輩はこれを狙っていたんでしょう。僕が変わった人間だから、理解されたかったとか。なんとなく推測できます」
「鋭いんだね」
「僕なんて、まだまだですよ」
このくらいは推測できる。沖田さんならもっと時間をかけなかっただろうけど、あの人と比較しても仕方がない。
そして同時に、理解されたいという感情が痛いほど理解できた。
僕もかつて同じ道を辿った。それは間違った道だったけれど、その瞬間に渇望していたのは紛れも無い事実だったから。
言うなれば、今の倉橋先輩は過去の自分のようだ。そう重なって見えてしまう。
「君の話を聞いてると思うんだよ。……バカにするつもりじゃないんだけど、あなたも」
「自由に吐き出してくださいよ」
「……ありがとう」
僕は聞き流すだけだ。倉橋先輩の人生に指図どころか、アドバイスだってする気にはなれない。
吐き出すということは、自分自身の気持ちに気づくことに他ならない。そうやって道を見つけられる。沖田さんと別れる時に理解したことの一つだ。僕の経験談だからこそ、間違い無いと言える。
ならばこそ僕は口を挟むべきじゃない。自分自身で道を見つけようとしているのなら、そのまま道を探させた方がいい。自らの力でそれを見つけ出せたのなら、それはきっと大きな勇気になる。
「小さい頃から、なんとなくはわかってたんだけどね。小学校の時に一度失敗して、そうやって《《おかしい》》ことをはっきりと理解しちゃった。今舞い上がってるんだよ?私みたいに変な人って、なかなか見つけられないからさ」
変といっても僕と倉橋先輩は、そのベクトルが大きく異なる。この人のは趣味嗜好であって、世間的には受け入れられていると思われている文化だ。溶け込むことができるまで時間はかからないだろう。
しかしこんなことを口走っても、お互いに何の得も生まない。当然黙ったままだ。
「いっつもそうだったなぁ。私と同じような人なんて、テレビの中でしか見ないんだもん。普通の人が受け入れてくれるかなんて、わかんないよね」
「まぁ、そうですね。世の中そんなものですよ。案外同じ人とは出くわさない」
倉橋先輩はかなり純粋な人だ。そして自分に自信がある。
前者はそう感じただけだが、後者は確かな推測ができた。僕が変な人だ、という自分の推測を強く信じている。もしそこに少しでも疑いがあれば、こんな風に背負い対面の相手に対して、大事な話を打ち明けられたりはしないだろう。
この人は弱いように見えて、僕とは違う。強い芯がまだ残っている。





