第9話 その6
倉庫に到着すると、先に鍵を開けていた日向先輩がダンボールの箱をせっせと入り口まで運んでいた。
「首尾はどう?」
「全部取り出せそうだよ。こっちが部誌で、この二箱縦に積んであるのがコピー用紙。あとこれが作文用紙で――」
「ちょっと待ってください、これ三人で運ぶんですか!?」
僕だってリハビリの甲斐もあって力は戻っているけど、二階までの往復路をダンボールを担いでいけるかは相当怪しい。いや、一箱ならまだなんとかなるだろうけど、何度も往復するのは絶対に無理だ。体力には自信がない。
しかしここには六箱の段ボールが並べられている。これを女手だけで運ぶのはさすがに……。紙束が中に詰まっていることを考えると、一箱あたりの重量もそれなりのものになるだろう。
「あー大丈夫大丈夫。半分くらいは私が運ぶから」
「日向先輩がですか?」
「うん、ほらこんな感じで」
そう言うと縦に重なった段ボール箱をひょいっと持ち上げてしまう。まるで重力がかかっていないかのような持ち上げ方だった、今のは……。
「どうせ閉めたんでしょ。鍵貸してー」
しかも器用に人差し指と中指をくいくいと動かしている。それでいて全くバランスを崩すことなく、段ボール箱を支え続けているのだから恐ろしい。
「わかったわよ。先にお願いね」
綴木先輩もさも当然のような顔をして、鍵を手渡していた。
「じゃ行ってくるねー!」
まるで水を得た魚のようだ、という表現が似つかわしい。日向先輩は箱を担いだまま、走り去っていくかのように早足で運んでいった。
「日向先輩って、スポーツでもされてるんですか?」
「私が知ってる限りは文芸部と生徒会の……庶務だったかしら?それだけだと思うけど」
「とんでもない怪力ですね、あれは」
「それもあの子の取り柄みたいなものよ。私たちも運んでしまいましょう」
「あぁ、そうですね。運びますか……」
想像していた通り、かなり重たい。これを部室に運ぶので精一杯になりそうだ。というか二箱目を運ぶ頃には握力が確実にすり減っている。無理だ。
よろめくほどではないとはいえ、自分の細い胴で支えるように運ぶしかない。
これはなんというか、文芸部に入部して最初の活動が力仕事になるとは思わなかった。
「あー、疲れた……」
「お疲れー!」
結局僕と綴木先輩はそれぞれ一箱運んだが、日向先輩は僕たちが部室に到達するよりも先に、四箱を運んでしまった。フィジカル面に経験値を割きすぎではなかろうか。
「さすがにちょっと、きついです……疲れました」
「私もこんなに重い荷物は久々に持ったわ。寮の荷物搬入の時以来かしら」
あぁ、そういうことか。そりゃあ服やら日用品を担いでいる経験があるのだから、僕よりは楽に運べただろう。
「っていうか綴木先輩は寮生なんですね」
「えぇ、そうよ。私って遠方からこの学校を選んだからね。下宿だとどうしてもお金がかかっちゃうし」
この学校の人気の高さを改めて思い知らされる。
本当にこんなところに僕はよく受かったな……。経済上の理由を盾に特待生になったのはいいけれど、これから成績上位者の席を保持し続けられるか不安だ。
まずは5月の月末定期試験だが、文芸部に入ったとはいえ勉強の手を抜くわけにもいかない。部活動ってこんなに大変だったんだなぁ。サッカー部で6年やってたあいつがとても偉い人間に見えてくる。





