第9話 その1
部室棟管理室のすぐ隣には、掲示板と部活札がある。
掲示板はその名の通りで、学校側の部活に対する告知事項や部活動への勧誘チラシなどが所狭しと貼られている。文芸部はその中でも小さなスペースしか使っていない。チラシそのものも簡素なものだ。新入部員が僕以外に入ってきているのか、とても心配になる。
そして部活札。鍵の貸し借りの状態を確認するもので、その都度職員さんがくるくる入れ替えてくれる。三階の部室まで行ったのに鍵が開いていなかったら、わざわざ一階まで降りてこないといけないのは面倒だろう。そういう意味で貸し借りの状態を可視化しているらしい。
放課後、授業が終わってまっすぐ部室棟に向かうと、文芸部の部活札は赤が向けられていた。これは鍵が貸し出されていないことを意味する。
宮原先輩がいないのは知っているけど、綴木先輩よりも先に来たわけだ。
僕がまっすぐ来ただけだから、そのうち先輩も来られるだろう。先に鍵を借りておこう。
思いの外すんなりと鍵を借りることができた。制服を着ていれば大丈夫なのかもしれないが、警備体制がずさんな気がしなくもない。学校の敷地内に関係者以外の人間がほとんど立ち入らないとはいえ、気になってしまうところだ。杞憂に終わるに越したことはない。
急ぐ必要はないので、ゆっくりと部室まで向かう。
時々すれ違う同級生は、僕のことを睨みこそしないが、細い目で見てくるようになっていた。
悪い噂は徐々に広まりつつあるらしい。このまま放置するわけにもいかないが、かといってどう対処すればいいのかもよくわからない。悩ましいものだ。
僕の方から関わっていないのもあるが、実害がないから対処しにくいのもありそうだ。もっと交流していかなければな……。
部室の中はとても物静かで、この世に僕一人しかいないんじゃないかと思わせられてしまう。
隣の部屋はどの部活も使用していないらしく、騒音が聞こえてくるようなこともない。まさに僕以外の音が何も聞こえないかのようだった。
扉とは真反対側の小さな窓からは、西陽がうっすらと差し込んでくる。オレンジ色がかったその光は部室全体を照らすことはなく、閑散とした部屋に彩りを添えていた。
秘密基地のような感覚だった。言いようのない優越感がこみ上げてくる。
誰もいないことにここまで気持ちの良さを感じるとは思わなかった。いつもは家の中で淡々と暮らしていたから、そんなことを思う余裕はなかったのだ。
昨日使ったのと同じ椅子に腰掛けて、リュックサックを長机の横に立てかける。
先輩が来るまでどうしようか。文芸部で学校の勉強というのは違う気がするけど、特に何も持って来ていない。こんなことなら、図書館で一冊くらい本を借りて来るべきだったかもしれない。どうせ家に帰っても新しい物語はないし。
エアコンはついていないはずなのに、なんだか暖かい。
日が差し込んでいる割に空気がこもっているからだろうけど、勉強で疲れた脳と体にはなんともいえない心地よさに変換されていく。
あぁ、そのまま眠ってしまいたい気分だ。すこし、うとうとと――





