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碧眼の怪物  作者: 曼珠沙華
フィクションならよくありそうな話
43/91

第8話 その5

「お茶どうぞ」

「ありがとうございます」

 いつ席を立っていたんだろう。綴木先輩はいつのまにかお茶を人数分用意していた。

「いただきます」

 そう短く宣言してからお茶を飲む。

 ……美味しいものだ。他人にお茶を煎れてもらうのはいつぶりだろう。

 お茶そのものの味の良し悪しは僕にはわからないが、心が温まる感じがしてほっとする。

 思えばお茶にはリラックス効果があるといわれている。僕の緊張を解きほぐすには最適な飲み物だろう。心にも体にも沁み渡っていく。

「本当においしいです。ありがとうございます」

 こういう時こそ、感謝の気持ちをきちんと言葉にしないと。沖田さんといたときは動揺ばかりであまり口にしていなかったから、これからは気を付けていきたい。


「そっか、読むよりも書く方に興味があるんだね」

「はい、といってもまだどんなものを書くかは決まってないです。こう、書きたいって言う気持ちが漠然とあるので……」

「大丈夫。うちの部誌は基本的に何を書いても良いことになってるんだ。普通の小説以外でも、ライトノベルだったり、エッセイだったり、特殊なものだと戦国武将の解説を載せた先輩もいたかな」

 文章ならなんでもオッケー、みたいな方針なのだろうか。初心者どころかまともに物語を紡いだことのない僕にとってはありがたい話だ。



 僕が文芸部に入部しようと思ったのにはいくつか理由がある。

 一つ、先述の通り僕はまだ筆をとったことがない。小説家になろうという道を進む前にまずはスキルを磨かなければならない。おそらく高校にいる間に身につくものではないだろう。まずはきちんとそういった技術を自分で学び習得する。その時間が必要だと考えた。

 二つ、文芸誌に自分の作品を掲載すれば、少なくとも先輩方からの評価をいただくことができる。また同じ学生で読んだ人がいればさらに感想をもらうこともあるだろう。独学は突っ走りすぎる危険性があるから、自分の作品の評価や感想を他人から受け取ることで、少しずつ修正していく。

 三つ、部活動に入れば確実に他の部員と交流する必要に迫られる。これから先人と触れ合う機会があるだろうが、今の所高校に友達がいない僕にとってこれは厳しい状況だ。同じ趣味――文芸部なら読書――を持った人ならまだ比較的話しやすいし、会う機会も必然的に多くなってくる。

 と、まぁこんなところだ。


 高校一年生から夢の道を進むのは、スタートが遅すぎる気がしなくもない。世間の人々はいつ頃自分の夢を自覚し、叶えようとするかどうかの岐路に突き当たったのだろうか?

 少なくとも事故以前は、漠然どころか曖昧模糊としていた夢だ。当然決まった形などなく、ふわふわと雲のようなものが頭の中に浮かんでいた。

 僕はこの不定形の何かを、粘土をこねるように形にしていかなければならない。

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