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碧眼の怪物  作者: 曼珠沙華
フィクションならよくありそうな話
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第8話 その4

 入口の前に立つと、心臓の鼓動が高まっていくのをはっきりと感じ取れる。沖田さんの推測を聞いていた時ほどではないが、それでもやはり恐れてしまうものだ。

 安心しろ、今日は発作は起こらないはずだ。リラックス、リラックスが大事なんだ。安心しろ。

 暗示にどれほどの効果が期待できるかはわからない。僕は今までそうやって心を落ち着かせて来たけど、実際に落ち着けたのはレアケースだ。

 それでも僕は意識する。何もないよりはマシだから。


 ドアの横にはクギを無理やり折り曲げたフックのようなものがあり、そこには部活動名を示したタグがかけられている。その中にははっきりと、『文芸部』という活字が入れられていた。

 意を決して、ドアを軽く二回、コンコンとノックする。

『はーい』

 金属製のドアだが、さほど大したものではないんだろう。閉じた状態でも中からの男性らしき声ははっきりと聞こえた。部屋が小さいのもそうだが、防音設備には気を回していないようだ。必要になりそうな部の数を考えれば、まぁ必要ないだろうが。


「失礼します」

 面接のように短かな定型文を口にして、意を決してドアを開けた。

「いらっしゃい」

「えっと、宜しくお願いします」

 部室内には男女一人ずつ、ネクタイの色からして男子は三年生、女子は二年生というところだろうか。

「文芸部にようこそ。見学か入部希望者かな?」

「入部希望です。部活動一覧のチラシから見つけて……」

「一年の初めに渡されるやつね。そっか、それはよかったよ」

 物腰柔らかそうな人だ。見た目、というか眼帯からして面倒そうな相手だろうに、嫌な顔せず優しい対応をしてくれている。この人は信用できそうだ。

 女子の方も、さっきまで読んでいただろう本に栞を挟んで、椅子を用意し始めていた。

 部室内は簡素なもので、いくつかの文庫本が収められている本棚と、横に立てかけられた10脚もないであろうパイプ椅子に、コの字型に並べられた長机三つ、部屋の隅にもう一つ。あとはポットと緑茶らしい箱や急須が無造作に置かれている。

 特別設備が必要な部活ではないし、このくらいが妥当なんだろう。

「とりあえず座ってください。軽く部の説明でもしますから」

「すみません、ありがとうございます」

 僕が用意された椅子に座ると、それを見計らってから二人も椅子に座った。


「それじゃあまずは自己紹介から行こうか。俺は三年の宮原雄大みやはらゆうだいです。一応年長ってことで部長をやらせてもらってます。よろしくね」

「同じく文芸部で、副部長の綴木椛つづき もみじです、よろしく」

「一年生の佐々木栞です。お二人ともよろしくお願いします」

 学級内で初めにやった自己紹介の時よりははきはき話せたように感じる。あの時は僕もかなり気が落ち込んでいた頃だったから、かなり酷いものだった。あんまり思い出したくない記憶だ。

「佐々木さんはどうして文芸部うちに?」

「えっと、小説とかに興味があって、文芸部は毎年部誌を作ってるそうですから」

 部誌については説明欄に書いていたし、先生に聞けば簡単な概要にくらいなら教えてくれた。事前にいくつかの情報は得ている。


 しかし、部員が少なすぎやしないだろうか……?

 構想によれば、部として認められるのは部員が六人以上いて、なおかつその活動内容や活動指針が適切であると判断された場合のみだ。

 同好会は人数が足りないか、学校に正式に認可されてはいないものが該当する。部室が用意されなかったり、学校側から活動予算が下りなかったりするのだが、それでも部活動一覧に名前を掲載されることはある。

 文芸部は正式に『部』としてその名前を残している。しかしここには僕を除いて2名しかいない。本の数も少なすぎるし、椅子も日常使いされていないことも見えた。何か良からぬ予感がする。

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