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碧眼の怪物  作者: 曼珠沙華
フィクションならよくありそうな話
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第8話 その2

 月曜日。

 雨は止んでいた。まだまだ雲が空に散っているけれど、ところどころで日差しが差し込むほどには回復している。

 今日、僕は進むべき道を進むために、その一歩を踏み出そうと考えていた。そんな大切な日だから、晴れてくれたことはとても嬉しかった。

 漫画的な表現なら、「天はこの私を祝福してくれている」なんて格好つけるところかもしれない。僕はそういうのはちょっと恥ずかしいのでやらないけど。


 朝食を摂る前に、学校に行くための準備をする。今日は万が一にも失敗して、自分の気分を落ち込ませたくない。いつもよりも念入りに持ち物の確認をした。

 朝食はきちんと頭が働くよう、残りわずかになったご飯を炊いて食べる。帰りに買い物に寄れば済む話だが、弁当に詰める分までは残っていなかった。コンビニかどこかで昼食は購入しておかないと。

 なんだかんだと言ってもやっておくことは多い。準備は万端にこなしたいけど、全部やりきるわけにもいかないし、取捨選択は悩ましいところだ。


一通りの準備を終えて、自分が緊張していることに気がついた。

 それもそうだ。事故から先、あまり人と関わった経験はないんだもの。沖田さんは本当に稀有な存在だったけど、あの時は偶然が重なった結果だった。今回は僕の方から進んで人と関わらなければならなから、状況はまるで違う。

「……行ってきます」

 その挨拶に返事はない。けれどそれでも良いのだと思いながら、僕は家を出ていった。



 通学路の途中に古い神社がある。いつ頃建てられたものなのかはわからず、今は管理する人がいないのか、ひどくボロボロの状態にある。

 以前大家さんに話を聞いたところ、昔はきちんと繁盛していたらしい。元来は豊穣と縁結びのご利益があるとのことで、昔は近所でも非常に賑わいのある場所だったそうだ。夏祭りになると、隣町からも人が殺到していたんだとか。

 しかし20年ほど前に夏祭りは廃止、今は詳しいことを知らないようで、それ以上の話を聞くことは叶わなかった。


 今日もやはりボロボロのままだ。土地の侵入を防ぐような鎖や看板はない。今でも神社として機能しているのかは限りなく怪しい。

 社に近づくが、何年も人間の手が入っていないことがうかがえる。賽銭箱も朽ち果てて、ほとんど銭の入っていない底が見えてしまう。けれどこんな状態でも5円玉ばかりなのは、縁結びの名残なのかもしれない。

 幸いにも本坪鈴ほんつぼすずは残っていた。しかし揺らすと今にも落ちてきそうなほど老朽化は激しい。あと一人分だけなら許されるだろうか。

 形式通り5円玉を賽銭箱に投げつけ、鈴を鳴らす。そして二礼二拍手一礼。

 いわゆる神頼みというやつだ。けれどプラシーボ効果なんてものもあるし、神様からの加護があろうとなかろうと、僕にとっては非常に有益だ。心の支えが増える機会は大事にしていきたい。


 人々の喧騒が行き交う街の中、神社には静謐が漂う。

 人が近づかないのも当然だな。ここまで老朽化していてはもう、神社として再建するのは不可能に近いだろう。人の心が離れてしまっているのが何よりも致命的だ。

 いずれ人々の記憶からも忘れ去られてしまうんだろう。ここに存在し続けているだけで、誰も目を向けはしない。

 たぶん、ここには神様はもういないのだろう。

「僕も沖田さんみたいに、忘れないでいたいな……」

 本当に覚えていられるかは知らないけど、頭の片隅に残ればいいな。そんなことを考えながら境内を出た。当然のように、何も起きない。

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