第0話 その3
失敗した。
「はぁっ、はぁっ、うぅぅっ……!」
指先は未だ、ピルケースを探し当てるには至らない。
焦れば焦るほど、精神は消耗していく。つまりは痛みが長引くだけだ。しかし急がなければ痛みは緩和されない。一体どうすれば……。とにかく探すしか方法は――
「大丈夫ですか?」
それは女の子の声だった。
「すみません、薬を探していて。緑色のピルケースなんですけど、探してもらえませんか?」
息を切らさず、明瞭に。最後まではっきりと伝えることを意識してなんとか言葉を綴る。
これほどまでに苦労したのも久しぶりのことだ。入院中はしょっちゅう看護師さんに手伝ってもらった、苦い記憶が脳裏に浮かび上がる。
「薬ですか、お任せ下さい」
女の子もカバンの中に腕を入れたようで、ちょうど僕の腕とぶつかった。それを機に、邪魔しないよう自分の腕は引っ込める。
「ありました。一回ぶんですよね」
1分と経たないうちに女の子は探し出す。
「ありがとう、ございます……」
左手を前に出すと、確かに薬を乗せられた感覚が伝わってきた。ここまでくればもう安心だ。
勢いよく錠剤を飲み込んで、痛みに耐えるためにその場にうずくまった。
薬といっても1、2分程度ですぐに痛みが治まるわけではない。それに今回はいつもとは違う、鈍い痛みだった。
その分の時間が遅れたのか、痛みで時間感覚が狂っていたのか。それは明確ではないが痛みが治まるまでには、薬を飲んでから体感で10分以上経過するのを待たなければならなかった。
痛みは徐々に収まってくるので、5分くらいが経過した頃にはかなり気も落ち着いていた。それもこれも、快く薬を探してくれた女の子のおかげだ。
痛みであふれた涙をぬぐい、顔を上げる。
待っていてくれていたのか、少女はすぐ目の前で僕の目線に合わせるように、膝をつけていた。
「すみません、ありがとうございます。本当に助かりました」
「いえいえ、お気になさらないでください。私はたまたま通りがかっただけですから」
涙がきちんと晴れ、ようやく少女の姿がはっきりと左目に映る。
なんとも可愛らしい顔立ちで、もし僕が男なら惚れていたかもしれない。そのくらいの美少女だ。アイドルグループに混ざっても目立ちそうなくらい。
それとはまた別に、大正時代の女学校を思わせる、まるでタイムスリップしてきたかのような服装も印象的だ。
総括すると、一昔前の時代にいそうな美人といったところか。
唐突に我に帰る。完璧に見とれてしまっていたようだ。
「お名前をお聞きしてよろしいですか?」
「私ですか?私はですね――」
直後、僕はその名前に驚愕させられることになる。その名は現代にまで語り継がれ続け、伝説の一つとして君臨するものだったからだ。
そしてなによりもまず、荒唐無稽だった。
「沖田総司です」





