第8話 その1
あの後、僕は家に帰るや否や真っ先に眠った。沖田さんは今頃どうしてるんだろうとか、いつ本を読めばいいのかなとか、そんなことを考えながら布団を敷いて、すぐに眠った。
疲れていたのかもしれない。いや、疲れていたんだろう。
そのまま途中で目を覚ますことなく、僕は次の日を迎えた。
日曜日は、いつにも増して憂鬱だった。
昨日から雨は降り続き、暗い曇天を眺めながら朝目覚めるのは心地が悪かった。その1日の気分までもが暗くなってしまうような、そんな不安感を抱いてしまうからだ。
加えて沖田さんがもういない、という当たり前の事実にもショックを受けていた。
たかが三日間の付き合いだけれど、それでも沖田さんは当然のようにそこにいた。それが今日はもういない。その事実を再認すると同時に、私は二度寝してしまおうかという気持ちでいっぱいになった。
あれだけの啖呵を切っておきながら、なんて無責任なんだろうとも思う。しかし心の躁鬱が激しいのは元々のことだ。やはり悲しいものは、どう頑張ったって悲しい。その事実を変えることはできない。
結局二度寝には失敗して、30分ほど布団の中で眠るふりをしてから起き上がった。形だけでも眠ってみれば本当に眠れるんじゃないかと思っていたけど、あまりうまくいかないらしい。
そのまま冷蔵庫から朝食を見繕おうとしたが、沖田さんへのおもてなしで食材をほとんど使い切ってしまっていたのを忘れていた。本当なら沖田さんと別れた後に買い物に行くべきだったのだろうけど、忘れていてはどうしようもない。
仕方なくパンを焼き、何も塗らずにそのまま食べた。久々の食パンの味は、焦げのせいでとても苦く感じた。
それからの記憶はひどく曖昧だ。
沖田さんに薦められて購入した、あの二冊のライトノベルを読んだことは覚えている。けれど二冊とも長編小説ではないので、一時間足らずで両方とも読了してしまった。
読み終わった感想としては面白かった。沖田さんもそういう作品を選んでくれたのだろうけど、選別眼の鋭さを実感させられる。僕のこともはっきりと見抜いていたし。やはり底が知れない。
そして作品の中で、恋愛という言葉がいやに心の中にひっかかっていた。
僕も誰か好きな人を見つけたら、もっと女性らしい精神を備えられるのだろうか。今まで惚れた腫れたを身近に見たことはあっても、自分自身が経験したことはないから、その感覚ははっきりとは理解できていない。
こんな僕を好きになってくれる人がいるのなら――それ以上は考えないようにした。瞳のあたりがまた疼き出してしまいそうな気がしたから。
雨は止む気配を見せることなく、むしろ一層強くなった気さえする。こんな天気の中買い物に行く気にはなれなかった。
そのあとは適当な昼食をとって、夕食を食べて、眠った。
何を食べたのかははっきりと覚えていない。
昼食と夕食の間に何をしたかは思い出せない。多分ぼうっと過ごしていただけだろうけど。
けれどそこまで何もなかったのなら、きっと瞳が痛むこともなかったのだろう。単に感情を忘れ去ったように過ごしていたのか、僕の心が強くなったのかはわからないけど、その事実について考えることが薬になってくれたのかもしれない。
けれどはっきりとしたことを思い出したり、確かめたりするすべはもうない。すでに過ぎ去った1日だ。
しとしとと降る雨音の中眠ったことを、溺れるように夢の中で思い出した。





