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碧眼の怪物  作者: 曼珠沙華
第一章.その女、沖田総司曰く。
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第7話 その4

 ――あぁ、終わるんだな。

 特別な三日間だった。きっと何があろうとも、僕がこの三日間を忘れることはないだろう。そして沖田さんの姿を、胸の中に秘めて生きていく。

 僕が憧れるべき人はこの人だった。

 あのライトノベルのヒロインたちには非はなかった。彼女たちには花があったけれど、それは僕からは失われて久しかった。それだけのことだ。住む次元が違いすぎたのだ。


「……いいでしょう、佐々木栞。あなたのことは、この沖田総司の胸中にしかと刻み込みました」

 僕に喝を入れるように、その言葉が響く。

 僕はそれに返事ができない。まるで声が出せない。

 ……やっぱり、寂しいものは寂しいのだ。いくら決心したと自分で思っていても、その事実からは逃げられない。

「また会う日まで、楽しみにしています」


 眼帯を外す。あの碧眼をもう一度、沖田さんの前に堂々と晒したかった。

「沖田さん、僕には特別な運命や能力はないかもしれないって言いましたよね」

 なぜか声が出た。その文言はよどみなく、口から流れるように吐き出される。

「けれど、僕にはあるんです。特別なものが」

 これを《《使った》》のは、病室で始めて目を覚ました時だった。何も知らないはずなのに、なぜかそのことを脳ははっきりと理解していた。……なぜ開花したのかは今でもわからない。

 それっきりだ。これを《《使う》》には、相手と両目を合わせなければならない、という条件がついていた。右瞳を見せたくなかったこともあって、この存在は常に僕の中で憚られるべきものとして存在していた。

 けれど最後に、沖田さんを驚かせるために使うのならいいだろう。


「この瞳を見てください」

 沖田さんと目が合う。それが合図だ。

「目が、離せないでしょう?」

「……どうやらそのようですね。あなたの瞳から、目が逃れられない」

 両目を合わせて発動したら最後、相手は僕の瞳から目を逸らすことができない。当然のように自分から逸らすような行動をとることもできなくなる。これが僕の、秘められた能力だった。

 花はない。ライトノベルならせいぜい足止めに使われればマシ、程度のものだろう。けれどそれでも、特別に思えるものがあった。ヒロインたちに憧れたのは、これのせいもあるのかもしれない――


「僕は能力これを、『目を合わせる能力』と名付けました。他人と目と目を合わせる。ただそれだけですけど、特別な能力です」

 それだけ言い放って、目を伏せる。こちらから意識すれば勝手に能力は解除される。沖田さんのあたふたと動揺する姿が、閉じた瞼の裏に浮かんだ。

 けれどそう簡単にはいかないのが沖田さんだ。眼帯を再度装着し、その左目に光が差し込む頃には、沖田さんは堂々とそこに立っていた。

「もう、何も言わないでください。それだけです」


 これで、本当の終わりだ。


「……栞、また会いましょう」

 瞬きをした瞬間、沖田さんの姿は跡形もなく消え去った。

 全てを伝えきることができた……そう思う。

 こんな退廃した精神でよくやった。今日は自分を思いっきり褒めてやりたい。そんな気分に浸れるほど清々しいものが残った。


 ぽつり、ぽつりと雨が降る。天気予報は外れなかった。急いで傍の傘をさし、手毬花をビニールで覆って鞄の中に入れる。

 結局沖田さんを傘の中に入れることはなかった。今頃濡れながら街を歩いているのか、どこかの軒下に避難しているのか。どちらの沖田さんもすぐに想像がつく。ということは、きっとどちらでもないのだろう。


 謎は謎のまま。沖田さんは謎のまま終わった。

 僕はゆっくりと、家路へと戻っていた。新たな日常を踏みしめるかのように。

これにて第一部「その女、沖田総司曰く。」終幕となります。

これまでの感想など送っていただければ幸いです。

続く第二部も何卒宜しくお願いいたします。

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