第7話 その3
次は僕の番だ。最後の僕の番だ。
沖田さんの心遣いに泥を塗るようだけれど、僕は僕自身の目的のための花を贈る。
けれど僕のためでもあり、真心を尽くしてくださった沖田さんのためにも、強い意志を見せなければならないと思った。心の弱いままの自分ではいられない。
だから汚い方法と言われてしまうかもしれないけれど、僕はあくまでも自分勝手に振る舞いたかった。……沖田さんの目にどう映るかはわからない。
買った鉢植えを沖田さんに手渡す。
「……美しい青色の花ですね。もしかして新撰組の、浅葱の袴をイメージしたんですか?」
あぁ、確かにこの花の色はあれに近しい。幾分かこちらの方が紫がかったようにも感じるけれど、想起させるには十分な色合いだ。
「ごめんなさい、僕は色ではなくて花言葉で花を選んだんです。そういう意図を汲み取れなくて、ごめんなさい」
「いいんですよ。花を選ぶ理由なんて千差万別で構わないんです。その人に想いを伝えられれば、それで十分じゃないですか」
優しい人だ。僕がこれから勝手なことをしようと画策しているというのに。
「その花は、勿忘草っていうんです」
「ワスレナグサ、ですか。初めて聞く名です」
店員さんに聞いたところによると、勿忘草は明治時代に園芸業者が輸入したのが始まりだそうだ。昨日調べた沖田さんの没年は慶応4(1868)年。沖田さんが知らないとしても無理はない。
「花にはそれぞれ、花言葉っていうのがあるのを知っていますか?」
「話には聞いたことがあります。具体的にどの花にどんな言葉があるかまではわかりませんが」
「勿忘草の花言葉は『私を忘れないで』なんです」
これは願望にすぎない。叶う保証なんてどこにもないけれど、僕は今日その努力をする。沖田さんの記憶に僕のことを焼きつかせてみせる。
そんな想いを伝えるための武器には、上等なことこの上ないでしょう?
今だけ、一人称を変える。
「私はもう一つの道を見つけました。沖田さんみたいに優しくて、強い人になりたい。立派に胸を張れる、一人前の女性になってみたいんです」
これは進むべき道ではなく、僕が進みたい道だ。
他人を思いやるような心の余裕を持つことは難しいことだ常に空気を読み続け、場に配慮し、行動し続けなければならない。今の僕はそれができるほどの心の余裕を持ち合わせていない。
けれどそれでも目指したいと思った。僕もこうなりたいと思ってしまった。
「私は沖田さんのことを尊敬しています。たった三日間、沖田さんの表面的なものしか僕は知らないのかもしれない。けれどそれでも、僕はあなたを尊敬したいと心から思いました!」
「……私はそこまでできた人間ではありませんよ」
弱々しい返事は、これまでの沖田さんが見せなかった表情だ。何か負い目があるのか、よほど僕の言葉が応えているらしい。
それでも止められない。僕はこのラストチャンスに、思いを伝えることを決心したんだ。
「それでも私はあなたを目指してみます。次にあなたとあった時は、見違えるような姿になって見せます。だから、だから――」
そこで一瞬、酸素の供給が停止する。息ができない。
これを伝えたときが本当の終わりだと、本能が理解して無理やり止めたのだろう。けれどもう遅い。僕はもうこの道を選んでしまった。どれだけ脳がストッパーをかけようとも、その歩みを止めるわけにはいかない。
息を吸うことができない。肺に力を入れ、体に残ったわずかな空気を吐き出そうとする。
「――僕を、忘れないでください」
脳が諦めてしまったのか、それを言い切ると同時にまた呼吸が再開される。ぜぇぜぇという荒々しい息とともに、酸素が体中へと行き渡る感覚が身に沁みた。





