第7話 その1
『なんとなく』。便利な言葉だと思う。
僕は感覚的に物事を捉えようとする、癖みたいなものがあるんだと思う。だから理由や理屈よりも先に、『なんとなく』感じ取ってしまうのだと思う。
これは便利なように見えるかもしれないが、実際のところは壊滅的なまでに使い勝手が悪い。理由や理屈を自分で説明できないというのは、相手に何かを伝えようとするときに困ってしまう。説明できないものを人は信じ難いからだ。
ましてや僕は、小説家になりたいという夢を選んでしまった。小児病的な発想なのは仕方がない。たいていの子供は、大人になるにつれて現実へ進んでいくか、大人になっても幼さの残る夢を引きずり続けるかなんだから。
精神的に病みまくっている僕には、今思えば非常に荷の重い話だ。小説には感情表現が求められる。人間は感情で行動する生き物だから、小説家は心理学者以上に感情を理解していないといけない――気がする。
登場人物の心理は必要不可欠なものだ。作者がキャラクターを動かすのではなく、キャラクターの心が物語を動かしていく。そんな理想を抱いてしまう。
しかし結局は僕の夢の道であって、こういうのは現実から見ればまだまだ程遠い着地点なのだ。想像の範疇にないことの方がたくさんある。今はまだ、この程度の想像で終わらせておこう。
閑話休題。
なぜこんな話を挟んだのかというと、僕はなんとなく察してしまっていた。沖田さんと出会ってしまったことは、僕の人生にとって大事な分岐点になることを。これから荒波の時代が来る、そんな予感がしたのだ。
こんな脆弱な精神のままそれを乗り切るのは難しいだろう。けれど予感してしまったからには、そこから逃げるわけにもいかない。僕はすでに、逃げ続けていた自分の選択に終止符を打ったのだから。これ以上は逃げられない。
ならばせめて、沖田さんとの出会いを大事にしたい。沖田さんとの記憶を大事にしたい。そしてこの三日間の大切な思い出を共有して、生きたい。
そう思えば思うほどに、別れることの寂しさは募っていく。けれどもうそれは避けられない事実だ。
だから沖田さんに、僕のことを忘れられなくしてやろう。これから先僕のことを節々で思い出すような、そんな強烈な思い出を作ってやろう。
そんなちゃちな決心で、僕は花屋へと足を運び入れるのだった。





