第6話 その4
時間が経つにつれて、心臓の鼓動が激しくなっていく。けれど意識を失った時とは何かが違っていた。
やはり腕時計を見る勇気はなかった。時間感覚が狂いそうだ。一時間、二時間くらい経ってしまうんじゃないかと思うくらいの時間を感じる。きっと現実ではまだそんなに経っていないんだろうけれど。
僕は心臓が破裂しそうになるたび、深呼吸をする。そうすれば少しだけ気持ちが落ち着いてくれたからだ。
そうやって何度めかの深呼吸を終えた頃、沖田さんは約束通り戻ってきた。
花屋の角からその顔を出した沖田さんは、悲しそうな顔をしない。
「用事は終わったんですか?」
待ちわびていたかのようにその言葉を口にする。
「えぇ、あっさりと終わってしまいました」
安堵なのか苦笑なのか、どちらともとれないような笑顔を浮かべてそう話す。僕はいまどんな表情をしているのだろう?自分の心を制御できない醜い自分がただただ恥ずかしい。
「――とある組織がやんちゃを起こしましてね。私はそれを戒めるために、暫くの間出勤していました」
「え?」
沖田さんの突然の語りに、そんな間抜けた声を出してしまう。それでも沖田さんはその舌を動かすことを止めなかった。
「組織の人たちもさすがに懲りてくれたはずだったんですがね……。優秀な人物を私の家に派遣して、ドカン。なんてことをしてくれちゃったわけですよ」
守秘義務か何かがあることはすぐに察することができた。だから節々の用語をぼかすようにしているのだろう。
ドカン、という擬音には心当たりがある。沖田さんの家が吹っ飛んだ話は前に聞いたが、おぼろげながら話が見えてきた。簡単に約するなら怨恨、というところだろう。
「もしかして今回の用事っていうのは――」
そこまでいったところで、沖田さんに手で口を遮られる。
「私が語ります。あなたは何も言わない方がいい」
口調が変わったということは、僕には理解できないが大事なことなのだろう。
「続けます。そんなことをされたらまたもや戒めなければなりません。私は今回も同様に出勤したわけなのですが……。残念ながら彼はすでに覚悟を決めていたようです」
覚悟……自殺の暗喩だろうか。いずれにせよ沖田さんの語るところを見るに、組織とやらの末路は嫌が応にも想像できてしまう。何かしらやらかした結果なのだろうが、それでも往生際の悪い。
あぁ、さっきの意味がわかった。
沖田さんは、僕が関わってはならないということを言いたかったのだ。
……やはり、生きている世界が違いすぎる。





