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碧眼の怪物  作者: 曼珠沙華
第一章.その女、沖田総司曰く。
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第6話 その2

 昼過ぎで太陽も高く上っているというのに、街中には肌寒い春風が駆け巡っている。ゴールデンウィークを超えるまで、暖かな天気は訪れてくれないのだろうか。

「目的地はそう遠くはありません。歩きながら話しでもしましょう」

「わかりました」

 アスファルトを踏みしめる時のコツコツという足音が、時計の針が鳴る様を連想させる。それは刻々と別れの時間が迫っていることを暗示していた。

 3日間というのはあまりにも短すぎた。しかしそれ以上に、今日1日という日は僕にとって、大事なことの積み重なりで完成したようにも思える。

 本当ならもっと一緒にいたい。もっと一緒に語らいたい。けれどその願いを叶えてはならないとも同時に願ってしまう。

 僕に僕の進むべき道があるように、沖田さんには沖田さんの進むべき道がある。それらはきっと、もう決して交わったりはしない。こうして出会えたのは、神様が施してくれた奇跡だ。

 あまりにも、生きる世界が違う。

 もう、自分の腕時計を見られない。



「そういえばさっきは、『進むべき道が見えた』と。そう言っていましたよね」

「はい」

「そのことについて、詳しく話を聞かせていただけませんか」

「……はい」

 ただ頷く。気持ちはまだ沈んでない。まだ終わってなどいない。

「僕はずっと自分のことを豪快していました。沖田さんの推測のおかげで、なんとかそれに気がつくことができたんです。二年も悩み続けていたはずなのに、たった3日で解決されてしまいました」

 自嘲するしかない。眼帯で隠している右の瞳のように、何も見えていなかったのだ。なんとも愚かしい限りで、泣く余裕すらない。


 ピカソの逸話にこんなものがある。

 ある日ピカソのファンが一枚の紙を差し出し、これに簡単な絵を描いて欲しいとねだったそうだ。ピカソはその申し出を快く引き受け、30秒程度の絵を描いてやった。

 しかしピカソはその絵に数百万円の値段をつけた。いきなりのことにファンは怒り始めたが、その時ピカソはこう語ったのだという。

「この絵は確かに30秒で描いたが、これまで30年間描いてきたからこそこの絵がある。つまりこの絵の本当の価値は、30年と30秒ぶんのものがあるんだ」


 話の真偽はわからないが、このエピソードを聞いた僕は、「人生はあらゆる時間の積み重なりでできているんだ」と感じた。

 しかし沖田さんの推測のおかげで、僕の人生の積み重なりはあっけなく崩れ去ってしまった。当然自ら目を背け続けたことが原因なのだが。

 その結果、僕の中には新たな価値観が芽生えようとしている。


「ずっと諦めていました。僕はもうまともには生きられないんだろうって。人や環境の問題じゃなく、僕自身がダメなんだと」

 でもそうじゃない、そうではないのだと。沖田さんはそう語ってくれていたのかもしれない。

「一番ダメだったのは、諦めていた自分自身だったんだと思い知らされました。僕はこれから、自分の立っている状況を変えていかなければならない――進むべき道を、進まなければならない」

 そう決意した。

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