第0話 その2
路地裏の空気は、春先なのも手伝って冷え込んでいた。
足音は反響して、一人分が何人もいるかのように重複していく。立ち止まれば一点して静寂が流れ、僕の荒々しい吐息だけが残る。
ここには、誰もいない。
「また、か……」
それは二度目の痛みだった。ぶり返すことは稀ではない。休憩時間を設けられているような気がするから、どうかと聞かれれば大嫌いだ。
しかもさっきのと比べて、今度の痛みは一回り以上大きいらしい。
「あぁ、あああああっ、あぁっ……!」
痛みに耐えきれずに、唸り声をあげながら食いしばる。
それでも頭の中は、一見すれば冷静なままだ。心を落ち着かせなければ痛みは治らない。心因性の痛みというものは、心が病んでいるときほど悪くなりやすいからだ。二年の付き合いで脳は完全に覚えてしまった。
それでも痛みに耐性がついたわけではない。痛いものは痛いだけだ。そこから容易に逃れる術があるわけではない。
「はーっ、はーっ……ふーっ!」
だめだ、これは耐えられない時の痛みだ。なんとなくだが感覚でわかる。
耐えられないというのは、痛みが治まるまでに時間がかかりすぎるような状態のことだ。こういう場合は薬を飲まないと、時間がかかりすぎて仕方がない。
なにより何十分、何時間と激痛に耐えられるほど、まだ僕の精神は治りきっていない。
……見えない。痛みで涙が溢れて、何も見えない!
ここまでの激痛に襲われるのは久々だ。非常にまずい状態になった。
カバンの中に腕を入れて、手探りで錠剤を探すが見つからない。プラスチックのケースにいれているものなのだが、筆箱やクリアファイルと感触が似通っていて、うまく判別がつかないのだ。
誰か人が通れば――そう考えてハッとする。人が通らないことを目論んで、裏路地を通って家に帰っていたことを思い出したからだ。