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碧眼の怪物  作者: 曼珠沙華
第一章.その女、沖田総司曰く。
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第5話 その4

 あっ。

「初版の発行日からまだ一年経っていません。雑に計算しても三ヶ月ごとに増版されていることになります。そして栞の2巻は一ヶ月後に出版された初版でした」

 刊行ペースとはそういうことか、語弊を生むような言い方をしたのは沖田さんだが、僕の察しの悪さも今ようやく理解できた。

「3巻、4巻もどうようです。どちらも前巻から二ヶ月後に出版されている初版を栞は持っていました。どちらも現在は三版が出回っているようでしたけどね」

「まぁ、一気に買ったってことはないでしょうね」

 これで解決だ。いくら何でも、半年間全部が初版のままなんてのはありえない。

 それにスパンの短さを鑑みれば、作品が人気だからこそこうしたペースが保たれていることは予想がつく。

 しかしこれらの情報を集め、推測する。これを一人でやってのけるのは尋常じゃない。やはり沖田さんは、僕のことを理解しているのだろう。

 期待が風船のように膨らんでいくのが、容易に想像できた。


「しかしあなたは他の小説と比べるとあまり繰り返しては読んでいない様子でした。単純に面白くないとか、飽きたという理由なら毎回毎回買う必要はないですから、他の理由が浮上してきます」

 一息つけるかのように水を飲み干す。僕もそれにつられてコップに手を伸ばした。

「そしてオッドアイの女の子たち。これは栞自身のこだわりというかなんというか……。まぁ断言できるのは、それを目当てにしていたというのは火を見るよりも明らかです」

 もしそうでないとしても、火のないところに煙は立たないのだ。その違いは僕が自覚してるかどうか、という問題に充てられるだけだけど。

「そしてあなたは右の碧眼に強烈な劣等感コンプレックスを抱えていた。薬の服用が必要ということは、常人の比ではないほどの――そう、トラウマにも近い存在でしょう。それならば尚更、架空の世界にオッドアイを求める理由は限られてくる」

 まるで推理小説を読んでいるかのようだ。さしずめ僕は犯人役、あるいは被疑者の一人とでも形容するべきだろうか。

 ドキドキする。心臓の鼓動は早く、大きく響く。そうだ、これこそが――



 その時、僕の中に一つの疑念が生まれた。

 本当に僕は、他人に理解されることを望んでいたのか?という根本的な疑問が、突如として脳内を支配したのだ。


 今思えば、納得しているように見えるものの、はっきりとした理由が見当たらない。

 「誰にも話さなかった」、「本心を隠していた」。そんなものは普通、理解されたい人間が取るべき行動ではない。

 確かにこの瞳に劣等感コンプレックスを持っている。そしてそれは他人のから見ても明らかだろう。それであればなぜ、真実を伝えることに努めない?

 もし僕がそう行動したのなら、少なくとも学校で言われのない噂が流れたり、変な見られ方をされながら揶揄されることもなかっただろう。本当の意味で理解されなくとも、悪化することはなかったはずだ。

 しかし間違いを間違いのまま放置し続けたのは、他でもない僕自身だ。それはなぜだ?


 心臓の鼓動が早く、大きく響くのがわかる。

 そう、これは沖田さんの推測だけではなく、僕自身も核心に近づこうとしている。

 それは自分自身ですら気がつけなかった――あるいは、本心が無意識のうちに隠し続けていた真実だ。それに今触れようとしている人間は、二人いる。

 心臓の鼓動が早く、大きく響くのがわかる。

 ならばなぜ隠し続けていたのか。その理由を推測するのは簡単なことだ。今まで真実だと思っていた事柄を反転してやればいい。そうすればはっきりと見えてくる。

 心臓の鼓動が早く、大きく響くのがわかる。

「栞、あなたは――」

 そうだ、僕は――


「そのヒロインたちに、憧れていたんじゃないですか?」

 その本心に気づかれたくなかった。そうなんだろう?

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