第4話 その6
「では次は私の番ですね」
「はい、お願いします」
「といってもいい本がなかなかなくてですね……」
カゴの中から一冊の本が取り出される。その表紙を見て、背筋が凍りつきそうになった。
『こんな私でも好きになってくれますか?』
見ればわかる、それはライトノベルだ。ジャンルは恋愛ものだろう。
そして可愛らしいヒロインが表紙一面に描かれている。しかしその女の子が問題だった。
左右で瞳の色が違う――オッドアイの少女だった。
「えっと、これは……」
狼狽しすぎてうまく声を出せない。
「これは、あなたにとって必要なものですよ」
手が震えそうになるのを必死に抑え込み、その書籍を受け取る。
沖田さんの言葉に間違いはない。これは僕に必要な書籍だ。心の中ではそれを認めている。
「せっかく沖田さんが選んでくださいましたから、僕も買わせていただきますね……」
動揺はとっくに悟られてしまっているだろう。それでも隠さねばと思い、バレバレの演技を続ける。
吐き気はない。痛みが襲ってくるような兆候もない。それがわずかばかりの救いだ。
「……どうして、これを?」
自分でもわかりきっている。それでも質問せざるを得なかった。
「ご飯でも食べながらゆっくり話しましょうか。その方が栞の気も紛れるんじゃないですか?」
「そうですね、そうですね……」
希望の芽が膨らむ、そんな音が聞こえた。





