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碧眼の怪物  作者: 曼珠沙華
Prologue
2/91

第0話 その1

 佐々木栞。高校一年生女子。それが僕のパラメータ。

 二年前はどこにでもいるような、普通の女の子だった。過去形なのは、さっきまでの醜態を見ていれば理解してもらえるだろうか。


 中学二年の夏、交通事故で両親を亡くした。僕自身も一ヶ月近く生死の境を彷徨ったらしく、次に目を覚ました時、腕や足を動かす筋力は残っていなかった。

 正直な話、今でもまだ両親が亡くなった事実を受け入れられていない。いや、理解はしている。それでも荒唐無稽というか、どうにも何を信じていいのやら、はっきりとわからない。

 僕からすれば、長い間眠っていただけだった。その間に両親がいなくなった。その程度の事実としてしか、現実を認識できていない。あまりにも突然な話だったのだ。

 精神科の先生には生き残った罪悪感(サバイバーズ・ギルト)について懇々と説かれたけれど、こんな有様で到底受け入れられるはずもなかった。そもそも罪悪感そんなものなど微塵も抱いていないのだから。


 一年間の休学を経て、リハビリに勤しんだ。自分の体を自分の思うように動かせないことは、精神的にも身体的にも疲労と苦痛が襲い続けた。

 結果として腕や足は満足に動かせるようになり、特に身体に麻痺が残ることもなく体調は回復した。


 しかし右目には大きな大きな後遺症が残った。

 まず視力の低下。くっきりと見える左目に対して、右目は常にもやがかかったような景色が映るばかりだった。

 そして黒い瞳は碧色に変色した。虹彩異色症、世間一般的にはオッドアイと呼ばれる症状だ。これが一番辛かった。

 いままで気にすることなく付き合ってきた右目だけが、突如異変に侵された気持ち悪さは例えようがない。碧色は僕の心に異物として突き刺さり、他人に見せることは憚られた。


 事故の代償は高校生になっても響き続けた。

 他人に触れることを避けるように、両親の遺産を元に一人暮らしを始めた。施設の人は誰もが僕の瞳を知っていて、なじられることこそなかったが、僕の方から他人に接することがどうしてもできなかったからだ。

 そして友達はできなかった。事情を知らなければ「年上の同級生」というレッテルはマイナスポイントになるし、何より眼帯は気持ち悪がられた。もっと事故のことについて話せばよかったと、今更後悔してもあまりにも遅すぎた。

 もっとも、話すことを恐れた僕自身に責任がある。


 もはや出会いなどなく、僕の人生から色彩は失われつつあった。

 ただ死のうとは思わない。それはもったいない気がするから。けれど強く生きる実感もわかない。

 吉田松陰の「生きながら死んでいる者がいる」とは、今の僕にふさわしい言葉なのだろう。

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