3.
それから
先輩の奥さんは
電話を掛けて来なかった。
季節はいつの間にか
気違いみたいな
猛烈な暑さを過ぎて
朝晩が少し涼しく
感じられる時期になっていた。
残業した夜。
汗を掻いた体に
トラックの窓を全開にして走ると
夜風が涼しいってか寒い。
禍々しいオレンジ色の月が
東の低い空に浮かび上がってる。
少し欠けた大きな月だ。
(こんな月夜は
犯罪が多いんだよな…。)
↑
いや、それは満月の夜だと思うよ?
んな事、考えながら
走ってると
ダッシュボードに
転がしたガラケーが
点滅しながら鳴り出す。
「?はい?…猫宮ですが?」
「私です、美智子です。」
「あ。」
「もしかして猫さん、私の事、
登録して無いんですか?笑」
…うん、登録してません、
亡くなったとは言え、
先輩の奥さんの電話番号は
なんか登録しちゃいかん気がして
ケータイを肩と左耳に挟んで、
シフトチェエンジしながら
風の音が煩くて
上手く聞き取れないから
窓を閉める。
「あ、いえ、、笑
ご無沙汰でした、、、
…なんか有りましたか?」
「明日の夜は
何か予定が有りますか?
実は明日は
良太の誕生日なんですよ。
良太が猫さんに
会いたがってます、笑
もし宜しかったら
家に来て頂けませんか?
いきなりですけど、、笑」
…もう一人の自分が
行かない方がいいって言ってる、
ってか、一周忌過ぎた?
服喪期間って?
極、内輪で
子供の誕生日ぐらい、関係無い?
「もしもし?猫さん?」
「…あ、そーか、良太の誕生日かー、
うん、なら仕事、終わったら
電話しますね?」
おいおい、行くのかよ? 俺、、、
待ち合わせは以前会った
スーパーマーケットになった。
…何と無く、、、
微かな罪悪感の様な物を
抱え込んだ気がして
その晩は中々、寝付けなかった。
次の日の夕方、
単車を小屋から引っ張り出して
エンジンに火を点す。
今日は土曜日、
ちょっと前に乗ったばかりだし
エンジンは快調に
アイドリングを続ける。
てか、良太にこの単車を
見せてやりたいっw
先週、今までの
スリップオンマフラーから
スポーツタイプの
ストレートマフラーに変えたら
排気の抜けが良すぎるのか
時々、信号待ちで
エンストこくのが
玉に瑕だったが、、
排気音は最高に痺れるわーw
意味も無くついついアクセルを
吹かしたくなる。
↑
ご近所迷惑男。
…ちょっこっとキャブ弄って
ガソリン濃い目にしたら
エンストしないかなー?
↑
なんて作業をしてたら
約束の時間が迫っちまって
慌てて
待ち合わせのスーパーまで
単車を走らせた。
うん、
信号待ちでエンストしない。
お利口さんである。
ド満足だしっw
で…、、、
スーパーマーケットに着いた。
日没が近い。
俺は良太によく見える様にと
店舗入り口近くの駐輪場に
単車を停めた、
ここなら明るくて
単車がよく見える筈で有る。
?奥さんが一人で歩いて来た。
「こんばんは、、」
「あれ?良太は??」
「今、お風呂に入らせてます、笑」
ショックでそこにヘタリこんだ。
「笑、どーしました?」
「いえ、バイクを良太に
見せてやろうかと、笑」
「あら、すいません、
でもあの子、車とかバイクとか
あんまり興味無いみたいで、笑」
「え?そなの?涙」
「近頃はゲームばかりして、
私に怒られてばっかり。笑
あ、猫さんはビールでしたよね?
ちょっと買い物、いいですか?」
「え?あ、、、」
「私、家では飲まないもので
家にはアルコールが
何にも無いんですよ、笑」
そう言いながら
奥さんが店に入って行くから
何と無く付いてったが、
「てか、飲むのはいいけど、
帰り、どーしよー?」
「私が送って行きますよ?」
「いや、バイクをね、笑」
「あー、バイクをねー、
私が乗って行きましょうか?」
「あ、そか、奥さん、バイクの免許、
有りますもんねっw」
「ええ、私が乗って
猫さんを送って行きます、笑」
「じゃあ、家に着いたら
俺がここまで奥さんを
又、送って来ますね?」
「ちょーw
それじゃ意味、無いーwww」
奥さんは随分と明るくて
なんだか少し安心した。
不思議と昨夜感じた
妙な罪悪感が薄れて行く…
ビールを買って
奥さんの軽自動車に
乗せてもらい
スーパーから程近い
アパートに着いた。
外壁には雨のシミが付いたような
正直、綺麗とは
言い難いとこだったが。
木造二階建ての
一階の一番奥の部屋だった。
玄関脇には婦人自転車と
小さなマウンテンバイクが、
多分、良太の自転車だろう。
玄関開ける前に、
「良太、絶対、ピストル持って
待ち構えてますよね?笑」
「さあ、どーだか?
…開けますよ?? 笑」
「あれ???」
「良太っ!
猫さん来たわよ?
あー、又、ゲームしてー、、
ちゃんと服、着なさいってっ!」
「なんだよ、良太、
ちと寂しいぢゃんかよーw」
「あっ!猫のおいちゃんっ!」
良太は母親から渡された服を
奪い取る様にして
玄関に近付きながら
服を着ながら、、
「バーンっ!」
って右手をピストルの形にして
俺を撃つ。
俺は左手で
ピストルの弾を掴んで
床に捨てる仕草をしながら
「弾筋は見切ったっ!
北斗弾握り黙殺拳っ!!
アタタタタタターカメハメハー!」
「なんだよーそれーwww」
↑
新しい展開が
少年にウケた様です。笑
さて
そんなこんなで
細やかなお誕生会が始まって
電気を暗くして良太と俺が
ハッピバースデーを歌って
わざと最後の音程を俺が外して、笑
小さなケーキの蝋燭を
良太が吹き消して。
電気が点いてから
俺は良太に小遣いを渡した。
「良太、おいちゃんさ、
良太に何、買っていいか、
プレゼント解んなくてさー。
これで、今度、
ママと好きなもん買え。」
「ありまとーw」
「あら、どーもすいませーん、」
「いえ、大した金額じゃ無いんで、
汗))))))))」
「まー、なんだなー
誕生日ってのは
大体、毎年、
おんなじ頃に来るから
不思議だよなー、
おいちゃんの誕生日も
毎年、大体、秋に来るんだせー?」
「マジでー?」
「当たり前でしょ?笑
良太に変な事、教えないで、笑」
…それから俺と奥さんは
ビールを飲み、、、
↑
え?奥さん、送ってくれるんじゃ?笑
良太が一生懸命話す
学校や友達やゲームの話を聞き、
実は良太が一人で
風呂に入るようになったのは
ごく最近からって話も聞いた。
俺は慎重に話題を選び
先輩の事は避けたが
不思議と奥さんや良太から
その話題に触れる事は無かった。
良太がアクビをし出したので
ふと時計を見ると
結構な時間だたから、
「さあ、良太、
おいちゃん、帰るぜ?」
「えーらめらよー
泊まってけばーー、、、、」
「え?無理だし。笑」
「猫さん、
私、飲んじゃいましたね、笑」
「ええ、
しかも結構な勢いで
1ミリの迷いも無く、(爆)」
「…さあ、良太、
猫さんにおやすみなさいして?」
そう言うと
奥さんは良太を促して
別室に連れて行く、
「おいちゃん、おやつみなー。」
「おー、おやつみなー、
またなー。」
タバコを手にして
玄関の扉を開けると
「どちらへ?」
「あ、ちょっとタバコを、」
「換気扇の前で吸って下されば、」
「いや、外でして来ますよ、笑」
…あ、
男が来てるのを
ご近所さんに見られたら?
「やっぱり
換気扇の前で吸います。笑」
俺は換気扇の前でタバコを
吸わせてもらい、
…勧められるままに
ビールを飲んだ。
、