1.
無し。
少し上の先輩に
赤ちゃんが生まれた頃、
遊びに行く度に
でっかくなってて
あんまり可愛らしーから
用も無いのに仕事帰りに
時々、寄ったりしてた。
俺が指を差し出すと
綿埃を握り締めた
ちっちゃな手を開いて
満面の笑顔で
俺の指を握り締める。
(か、、かーいーw/////)
その男の子は良太とゆー。
幼稚園の頃は
遊びに行くと
オモチャのピストルで
俺を撃つから
「うー!!やられたー!!」
って、腹を押さえて
苦しそうに痛そうに
念入りに死んでやると
もう、キャッキャキャッキャと
大喜びで
俺が先輩と飲みながら
話し込んでる最中にも
突然、ピストルで撃ってくるから
その度に念入りに死んでやって、
良太はママから
「ちょっと、良太っ!
猫のおじちゃんは
今、パパとお話、してるでしょ?
ダメよ、邪魔しちゃ?」
って先輩の奥さんに
怒られてた。
先輩との話に夢中になって
バーンっ!に気付かないと
何回も何回もバーン!バーン!
その内、泣きながら
バーンバーンって、、、
はっっと気付いて
超絶念入りに倒れて
白目をむいて痙攣しながら
「うー!!やられたー!!!」
ってやってやると
今、泣いてたのに
もう大笑いで
そのやられ方が
先輩と奥さんにもウケて
「猫は本とにおもしれーw」
「ごめんね、猫さん、
良太のせいでゆっくり飲めないね
でも私もウケたー!」
うっかり、プッって
オナラをしちゃった時は
直ぐに椅子から立ち上がり、
「あれ?今、何か変な音がしたぞ?」
って言いながら
天井を見上げ、壁を床を見て
テーブルの下を覗き込むと
良太はすかさず
俺に駆け寄り
ケタケタ笑いながら
俺の尻をペシペシ叩いて、
「ここだよっ!
おいちゃんのオナラぢゃん!w」
以来、このネタは
良太にパクられた様で
自分がオナラをすると
必ず俺の真似をしたそうだ、笑
…先輩は大酒飲みで
実はちょっと酒癖が悪くて
後から知った話だが、
俺と飲んでる時はいいんだが
俺が帰った後は
奥さんにクダを巻いて
大変だたらしい。
ある日、奥さんの顔に
アザがあって
何と無くピンとキタから
酔って奥さんに
手を出したのかって聞いたら
「おめーにゃ関係ねーだろ!!」
って
すごい剣幕で怒り出して
(あ、図星か…)
で、如何なる理由が有ろうとも
女に手を出すべきでは無いって
俺も酔ってたし先輩に意見したら
「なんだテメーはっ?
俺の女房と出来てんのか?!」
みたいに散々、絡まれて
二度と家に来るな、
みたいになっちゃって
最悪な気分だった。
そんなやり取りから
自然と足が遠退いてしまって
…でも良太が気になって。
ある日、仕事が早く終ったから
良太に小学校の入学のお祝いを
届けてやろうと
急に思い立ったんだ。
↑
実は現場でバラした
クズ鉄売ったら
意外と儲かったから。笑
会社員なら、
まだ普通に働いてる時間だから
先輩には会わずに良太の顔を見て
奥さんにお祝い渡して
帰ろうかな、って考えて。
小学校、一年なら
もう帰ってるかな?
桜並木で有名な堤防道路は
もうすっかり花は散って
やたら緑が青々としてて、、、
その堤防道路から程近い、
先輩の借家に寄ってみた。
予想に反して先輩は家に居たが
朝から飲んだくれて
寝てたから
奥さんが出て来た。
その顔には
右側のこめかみの所に
アザが有った。
気付かない振りして
入学祝いを渡すと
「猫さん、本とにありがとね、、
ありがたく頂いときます。
家の人ね、
何か飲み過ぎで体調崩して
今、働いてないのよ、
本とに困っちゃう、
病院行けって言っても
行かないし、
朝から飲んで暴れて…。」
そこまで言って
奥さんは、はっとした様に
会話を止めた。
「ただいまー。」
「お?良太か?
なんか又、でかくなったなー!」
「あっ!
猫のおいちゃんっ!!!
バーーン!!!笑」
「え?? うぐわー!!
不意打ちとは卑怯なりー!
うがぁぁぁー!!!!」
「かわらんなー!」
「こっちのセリフだわっw」
「おい!誰か来てんのか?」
「あ、先輩、猫ですっ」
「はぁ?なんだ?何しに来た?」
「いや、
良太の顔を見に来たんで。
仕事の途中なんで
これで失礼しますー。」
そん時は
まぁそれで帰ったんだが
それから俺は仕事の忙しさと
何と無く、
先輩の俺に対する不信感を感じて
先輩の奥さんや良太と
会いづらい気がして
益々、足が遠退いたんだ。
ある日、
仕事が早く終わって
コンビニに寄ろうとした。
梅雨の晴れ間の炎天下の歩道を
汗びっちょりの
小学生が歩いてたから
一時停止して
やり過ごしたら良太だった。
クラクションを鳴らしたら
良太と目が合った。
トラックを
コンビニの駐車場に停めて
下りると良太が近付いて来た。
右手をピストルの形にして
「バーン」ってやると
「逆ぢゃん!」って良太が笑う。
「アイス食うか?」
「うんっ」
二人でコンビニ入って、
「汝、
どれでも好きな物、選べ。」←神。
「マジで?なら
えーとえーとー、、これー。」
「ベビースターラーメン?笑
そんなんでいいんかよ?笑
アイスとかジュースは?」
…レジで
「Dpointカードは有りますか?」
「あ、はい。」
「これはTpointカードですね、笑」
「え?」
「おいちゃん、耳、悪いなー
ディーだよ、デー!!
今日、英語でやったよ!」
今時は小学生でも
英語の授業が有るらしい。
外へ出て店先の日影で
ベビースターラーメンを
コーラで流し込みながら
「な、父ちゃん、元気か?」
って聞くと
「パパ?」
「あ、おめーんとこはパパ、ママか。
なら、パパ。」
「パパはキライ。」
「…なんで?」
「ママを虐めりゅから。」
うわ、、、
聞かなきゃ良かった…
「パパ、仕事してんのか?」
「ううん、」
「パパ、体、どーなんだよ?」
「病院に行って
何日も泊まったよ。」
…入院?
「今は家にいる。」
「ふーん、ママは?」
「夜、お仕事してう。」
「…そかー。」
誰かの車の下から
エアコンの水が
駐車場のアスファルトに垂れて
小さな水溜まりを作るのを
何と無く眺めながら
俺と良太は
黙ってコーラを飲んだ。
俺がゲップを大袈裟にすると
良太は声を出さずに笑った。
それから又、少し経って
久々の仕事関係の
飲み会が有った。
職人仲間に営業マンも混じって
一次会から二次会の店を探して
皆でプラプラと
繁華街を歩いてた。
熱帯夜ってゆーのか
夜になってもムシムシする、、、
賑やかなネオンサインを避けて
路地に入ると
小さなビルの扉が開いて
そこからホステスさんと
客が出て来て。
客がホステスさんに
抱き付いた。
抱き合った二人は少しよろめいて
「ミニクラブなんちゃら」って
電飾看板に軽くぶつかる。
ホステスさんは
客をあしらいながら
タクシーを止めた。
一瞬、俺と目が合った。
…あ。
ホステスさんは
気まずそうに目を逸らして
客をタクシーに導く、
先輩の奥さんだった。
暫くして
先輩は亡くなった。
借家住まいだたから
通夜も葬儀も葬儀社で、した。
俺は仕事がどーしても休めなくて
通夜にしか行けなかった。
通夜の晩、
仕事帰りにトラックで大急ぎで、
その斎場に行くと
仲間逹が外でタバコを吸ってた。
「あ、猫、久し振り、」
「おー、ビックリしたわ、
先輩、そんなに悪かったんか?」
「いや、
酔っ払って風呂入って
溺れたって
親父さんから聞いたぜ。」
「…マジかーー、、、、」
奥さんと良太に
声を掛けたかったが
先輩の親御さんに
挨拶するのが精一杯で。
奥さんの顔には
化粧で誤魔化してるけど
アザが有った。
仲間内で俺以外に
気付いた奴は居るだろうか?
緊張して強張った顔の
奥さんと良太が
あんまし泣いてはいなかったのが
少し、不思議だったけど。
ただ
中秋の名月ってのが
妙に切なくて、、、
先輩との思い出とかより
残された良太と奥さんの事が
すごく気になった。
、