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85 モヤ遺跡制覇


「うっ……」


 気絶していたイングリットは体を起こし、ズキズキと痛む頭を手で抑える。


 手で抑えた頭には兜は無く、脇を見れば所々ヘコんだ状態の兜が地面に置かれていた。 


「気がついたか?」


「どれくらい気を失っていた?」


「30分くらいなのじゃ」


 イングリットの隣で座っていたシャルロッテから水の入ったコップを受け取り、それを一気に呷る。


 少々ぼやける視界に瞬きを繰り返しながら周囲を見ると他の者達も心配そうに見つめ返す。


「まだ動かない方が良いよ。腕はくっつけたけど、血が足りてないんじゃないかな」


 そう言ったクリフはイングリットに最後の1本であるポーションを渡して飲むように告げた。


 右手でポーションを受け取るとガントレットの肘から先が無く、生身の腕が露出している。


「あんまり記憶にねえ……」


「憤怒が最大値で発動したからねぇ。ひたすら相手をドツキまわしてたよ」


 腕を切られ、体を刺され、最後には頭突きを繰り返していた事を聞くとイングリットは頭痛の原因に納得した。


「お宝はあったか?」


「お主は……。安心するのじゃ。今メイメイが見ておる」


「はは。イングらしいけどね」


 死にかけたにも拘らず、最初に心配するのが己の体ではなくお宝の有無を気にする事にシャルロッテは溜息を漏らす。


 笑うクリフが指差した方向を見やるとメイメイが棺の中から装備品らしき物を取り出しながらフムフムと頷いている姿があった。


「これは~レジェンダリ~。こっちは~レア~。これは~……ゴミ」


 今回見つけたお宝を調べていたメイメイは、等級付きの物は傍に置き、装備品でもアイテムでもないただの『物』はポーイと放ってしまう。


「何している!? これは王家の紋章が入った書状入れだぞ!?」


 彼女の放り投げた物を慌てて拾い上げるマーレ。


 拾い上げた物は書状を丸めて入れておく筒だ。蓋をキュポンと音を鳴らしながら外し、中身を確認すると『第2代 幻獣王 死亡日……』と棺に収められていた者の事が書かれた書類だった。


「やはり王家の者か……」


 書類の中身を見たマーレは顔を険しくさせる。


 棺から這い出て来たミイラは全員、王族なのだろう。他の棺の中にも同じ物があるかどうか確認すれば同様の物が見つかった。


 中身を確認すると第2代から3代目の王と3代目の息子が棺に収められていた事が分かった。


 最後に現れた者の外見は完全に初代幻獣王。しかし、彼の名が記載された書類は見つからない。4つあった棺には初代が眠っていた物ではなかったようだ。


 であれば何故、最後に初代幻獣王の姿になったのか。何故、ジャハーム王家の者があのような化物になったのか。


 マーレは今回見た事を他の氏族長にどう伝えれば良いのか悩む。


「調査、終わり~」


 そう言ったメイメイは風呂敷の上に物を置き、それを抱えながらイングリット達の近くへ歩み寄る。


 彼女は動けないイングリットに見えるよう、近くで風呂敷を広げて見せた。


「今回は当たりだね~! レジェンダリーが5つ! 他はレアだけどまぁまぁ使える物が多いかなぁ~」


 レア等級の物は永久付与された能力が有用な品物が多い。これは単品としても使えるし、技巧の材料にもなるだろう。


 他にもレア金属で出来た装備品やアイテムがあるので、今回派手に壊れたイングリットの鎧を修理するに使えると説明した。


「最大の目玉はコレ!」


 メイメイがジャジャーンと掲げた物。それは初代幻獣王が着用していた鎧だ。


 兜以外の物が揃っており、全てが超レア合金であるホワイトオリハルコン製。付与されている能力も全ステータスアップ、鎧の重さを感じさせない重さ軽減能力、更に『縮地』という短距離を瞬間移動できる能力が付与されている。


「アイツが瞬間移動してたのはこれか」


「そうだね~。移動距離に制限はあるけど、ステータスに関係なく最大スピードを出せる能力~。能力のクールタイムは1分~」


 移動制限があるものの、目にも止まらぬ速さで1分毎に急接近できるのは驚異的な能力と言える。そのまま装備しても良し、技巧に組み込んでも良しと使用の幅は広い。


「こっちもホワイトオリハルコンなんだけど合金を製作する際の手順が雑なのか、不純物が混じってるんだよね~。能力もステータスアップだけ~。でもレア合金だから使い道はあるかな~」


 次にメイメイが取り出したのはレジェンダリーではあるが、他の物と見劣りしてしまう物。こちらは自立していたデキソコナイ3匹が装備していた胸当て3つだ。


 こちらは能力面でも合金の精度でも鎧に劣る。使い道は溶かして別の形に作り直すか、既存装備のコーティングに使うくらいだろうか。


「最後にこれ~」


 最後に持って見せたのはオリハルコン製の大槌。銘を『トーニュ・ハンマー』と言うらしい。


 イングリットとクリフは「トールじゃないんだ……」と小さく呟いていたが、シャルロッテは首を傾げるのみ。


「トーニュ・ハンマーだと!?」


 しかし、その銘に大きく反応したのはマーレ。


「知っているのか?」


「あ、ああ。2代目の幻獣王様が使用していたと言い伝えられている伝説の武器だ」


 トーニュ・ハンマー。それは槌の先端から伝導性バツグンな白い液体を出し、それを浴びた者へ槌を叩きつけた際に電撃を浴びせるという『トーニュの雷』という能力が付与された武器。


 メイメイ曰く、他の能力は付与されていないがユニーク能力でオンリーワンな武器だとの事。


「使えるか?」


「ユニーク能力だからね~……。この槌をどうにかするのは難しいかな~」


 ユニーク能力は付与された物に対してしか発揮できない事が多い。つまり、メイメイの技巧技術を用いて別の物へ組み込んでも100% 能力を発揮できない可能性が高い。


 トーニュ・ハンマーはトーニュ・ハンマーのままで使用するのがベストという事だ。


「じゃあ、これはマーレにやるよ。お前、伝説の武器とやらを探してたんだろ」


「良いのか!? い、いや、しかし……私は……」


 マーレはイングリットの申し出を受けようか悩む。 


 自分は足手まといだった。ジャハーム1の戦士を自負しながら、それはただの驕りであると今回で確信してしまったのだ。


 デキソコナイが現れた際は一歩も動けず、その場にへたり込んでしまっただけ。そんな自分が『報酬』を受け取って良いものか……。


「どんな事があったにせよ、ゲストであろうと一緒に冒険したからにはパーティ内で等分がルールだ。報酬の分配は揉め事の種だからな」


「わ、わかった……」


 イングリットに言われ、罪悪感を感じながらも受け取る事に決めたマーレ。


「じゃあ、この胸当ても1つどうぞ~」


「わ、わかった……」


 メイメイにオマケと付けられた胸当ても受け取り、マーレの腕にはジャハーム獣王国の伝説装備が2つ。


 彼女はジャハームの伝説というずっしりとした重みに口元を引く付かせた。


「しかし、ここは神殿ダンジョンと違ってジャハームの管理地なのじゃろ? 妾達が貰って良いのか?」


「あ、ああ。構わないだろう。元々、入り口が分からなかったし、ジャハーム軍ではここまで辿り着けなかっただろうしな……」


 シャルロッテの言葉にマーレが返答を返した。これはどちらの言い分も正しい。


 ジャハーム国内にある遺跡は全てジャハームという国の物。本来であれば見つけた物を他人が個人所有するのは認められていない。


 しかし、マーレが言ったようにジャハームの者が入り口を見つけて内部に侵入したとしても、A等級魔獣が闊歩する遺跡を探索して最奥まで辿り着くのは難しかっただろう。


 最終フロアまで辿り着いたところで――あのデキソコナイがいるのだ。あんな化物が相手ではジャハーム軍全軍で相手にしようが全滅は必至。 


 マーレが抱える伝説の装備を得る事が出来たのも、目の前にいる王種族達がいたからこそ。彼らが『伝説』を手にするのは当然のように思えた。


 特に最後に見せたイングリットと初代幻獣王との戦闘は壮絶な戦いだった。まさに王と王の戦闘と言っても過言ではない。


 あの戦闘だけでなく、イングリットの素顔を見るに過去に消えた王種族『竜人族』であると確信できる。でなければ、初代幻獣王と互角以上に戦う理由が見つからない。


 クリフやメイメイも別の王種族なのだろう、と今では確信している。故に『王』が『王』の物を持つのは納得できる。


 それに――


(彼女も……特別な何か(・・)なのだろう)


 マーレは最後にシャルロッテを見つめる。


 3人の王種族に同行し、王種族達と遜色無い力を行使する少女。彼女が特別な何かでなければ、王と共に同じ道を進むのは難しい。


(何にせよ、伝説の装備を2つ得られたのは大きい)


 国を運営する氏族の長として伝説とされる強力な装備品を2つも持ち帰る事が出来るのも十分な成果と言えるだろう。


 自分の見た事、譲ってもらった装備品を他の氏族長に見せれば納得させられるはずだ。


「残りは棺の中にあった宝石類と装飾品、エイル金貨と銀貨だね~」


 エイル金貨・銀貨は現在のエイル紙幣に変わる前に流通していたモノ。現状は神脈が枯渇して天然資源が取れなくなってしまっているので紙に切り替えたが、神話戦争当時は貨幣が流通されていたのだ。


「換金用だな」


「これらは換金するのか?」


 イングリットの言葉にマーレが大量の金銀貨や装飾品を指差しながら問う。


「ああ。持ってても使えないしな。紙幣に換えて等分だ。ジャハームで換金できる場所、知ってるか? 無ければ現物を等分だな」


 マーレは腕を組みながら少し考える。


 目の前にある大量の財宝。ジャハームにも魔王国同様に商人組合があるが、そこを使っても全てを換金できないだろう。


 となると、他の氏族長に訳を話して商人組合と3氏族が協力して紙幣を用意するしかない。


 幸いにも最も多い金銀は使用用途が広い。装飾品もジャハーム国内にいる豪商が欲しいと手を上げるだろう。


 国の利益として考えれば全て引き取りたいところである。


「少し時間をくれないか。アテはあるが全て換金するには時間が掛かる。獣王都に戻ったら目録を作って訪ねてみよう。それまで預かっててくれ」


「ああ、それでいい」


「じゃあ、仕舞いま~す」


 メイメイは風呂敷を畳み、それをインベントリへ突っ込んだ。


「さて、祭壇を壊して帰るか」


「そうじゃな。帰ってゆっくりしたいのじゃ」


「しばらくはジャハームに滞在だし、ジャハーム文化を楽しんでリフレッシュしようか」


 ふぅ、と安堵を息を漏らしながら話し合うクリフとシャルロッテ。


「ならば、私が街を案内しよう。オススメの店を紹介するぞ」


「壊れたイングの鎧を直したいから工房借りられないかな~」


「そっちもアテがある。任せてくれ」


 マーレはニコリと笑みを浮かべながらジャハームを楽しみたいという3人へ提案した。


「んじゃ、さっさとやるか」


 十分動けるまでに回復したイングリットは立ち上がり、兜を脇に抱えながら祭壇へと近づいて行った。


読んで下さりありがとうございます。

明日、仕事で1日予定が入ったの前倒し。


仕事の都合で前後するかもしれませんが、次回は恐らく金曜日になると思います。

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