81 モヤ遺跡攻略 3
「今回は妾のせいじゃないのじゃ! 妾は止めたのじゃあ!」
罠のスイッチをまたしても『ポチッとな』してしまったシャルロッテは、イングリットに対して必死に弁明する。
「わかった……! わかったから揺するんじゃねえ……!」
体力増加などのバフ魔法を貰えない状況で、己の全スタミナを振り切って猛ダッシュしたイングリットは極度の疲労に加えて酸欠状態に陥っていた。
だというのに、弁明するシャルロッテは床で横になるイングリットの体をガクガクと揺らす。
イングリットは頭の中で脳が揺れているんじゃないか、と思えるくらいに眩暈を引き起こし最早吐きそうなくらい気持ちが悪くなっていた。
「違うのじゃあ! 信じて欲しいのじゃあ!」
「わか、った……! わかったから……!」
視界がぐわんぐわんと回る中、ようやく搾り出した小さなイングリットの声はシャルロッテの耳には届かない。
何度も止めろと言うが、シャルロッテは「違う違う」と言いながらイングリットの体を揺する。その様は最早、過去に受けたイングリットへの鬱憤を晴らしているかの如くである。
言っても聞かないシャルロッテへイングリットは最終手段を執る事に。
イングリットは震える手をシャルロッテの淫紋へと伸ばし、人差し指を強めに押しつけた。
「んお"っ!?」
ぐりぐりと押し付けられる人差し指の先からイングリットの魔力がシャルロッテの体内へと入り込み、快楽となって全身を駆け巡る。
泣き顔を浮かべていた彼女は一瞬でアヘ顔へと変貌し、体をビクンビクンと痙攣させながら床へと倒れこむ。
体をビクビクと小刻みに痙攣させたシャルロッテはいつも通り、股間から謎の液体を噴射して気絶した。
「お、おい……。シャルロッテが……」
「あ、気にしないで~。いつもの事だから~」
アヘ顔のまま気絶するシャルロッテを若干心配そうに指差すマーレ。
その問いに答えたメイメイは未だ気絶しているクリフの頬をペチペチと叩きながら応えた。
「いつもの事って……。どういう事をしているのだ……!?」
何か盛大に勘違いしたマーレは頬を赤らめながらゴクリと喉を鳴らす。
彼女は股間にある大きな山を両手で押さえながら、ピクピクと痙攣するシャルロッテをジッと見続けた。
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「全く、大変な目にあったね」
「本当なのじゃ」
気絶状態から復帰したクリフとシャルロッテは木のコップに注がれた飲み物を揃って口にする。
「テメェ等……誰が一番大変だったと思ってんだ」
一番の被害者は気絶したクリフを運び、疲労困憊な状態を更に悪化させるような仕打ちを受けたイングリットだろう。
彼が呟くと、クリフとシャルロッテは揃って顔を背けた。
「と、とにかく! この先がダンジョンマスターのフロアだね!」
クリフがコホンと咳払いを1つした後に告げる。
彼らの視線の先にはダンジョンマスターが待ち受けるであろう両開きの扉が。
「まぁ、ダンジョンマスターと呼ぶべきなのかは些か疑問であるがな」
ここが人工的に作られたダンジョンであるならば、扉の先にいるモノはダンジョンマスターと呼ぶべきなのか否か。
どちらにせよ、クエストの目標である楔と縛られた魂とやらは扉の先にあるだろう。
それらの前に立ちはだかるモノ――ダンジョンマスターと呼ぶよりも守護者と呼ぶ方が正しいのかもしれない。
「さて、そろそろ行くか」
クリフとシャルロッテが飲み物を飲み終えたのを見計らって、イングリットが立ち上がる。
最下層へ降りてきて2時間程度。休憩も済み、体力回復もバッチリ。準備万端だ。
イングリットに続いて他の者達も立ち上がり、武器を手に取って頷いた。
彼らはフロアに続く両開きの扉へと近づき、先頭のイングリットが扉を押し開く。
油の足りない扉はギギギと鈍い音を立てながら、ゆっくりと開かれた。
扉の先は予想通り広いフロア。奥には神殿ダンジョンにもあった祭壇と鎖に繋がれた一本の杭が地面に刺さっている。
あちらと違う箇所と言えば、祭壇の前には『4つの棺』が置かれている事だろうか。
< クエスト更新 >
『穢された魂を解放し、楔を破壊せよ』
イングリット達がフロアに足を踏み入れるとインベントリから飛び出してきた真実の鍵は空中にクエスト更新のメッセージを投影させる。
「穢れた魂……」
イングリットは更新されたクエスト内容を見て嫌な予感が脳裏を過ぎる。
神殿ダンジョンで現れたのは『穢れ』を噴出する黒いイソギンチャクだった。ここが前回の神殿と同じ場所だとすれば――
考えが浮かんだ瞬間、フロアの奥にあった石の棺の蓋が右から順にボンと音を立てて吹き飛ぶ。
4つある石の棺から『ウウウ……』という苦悶に満ちた声が漏れ、姿を現したのはそれぞれ鎧やガントレッドなど、戦闘用装備を身につけた4人の獣人らしき者達。
らしき、と言わざるを得ない理由はそれぞれの頭に獣耳のような物体が生えているが、装備の隙間から見られる4体の体はどれも損傷したミイラのような状態だからだ。
辛うじて残る骨と皮や少々残った毛が獣耳であったり、尻尾の面影を残している。
「まさか……。あれは歴代の幻獣王様か!?」
棺から這い出て来た4体のミイラを見て、マーレが驚愕の叫び声を上げる。
「どういう事だ?」
「あの身に付けている装備……! ジャハーム王家に伝わる伝説の装備だと言われるモノに似ているんだ!」
4体のミイラが身に付ける装備――それはモヤ遺跡の謎と共に言い伝えられている『遺跡に眠る伝説の装備』の噂と同じ外見をしている。
モヤ遺跡に眠る伝説の装備の大半は既に失われてしまった古代技術によって製造された王家専用の装備の事を指す。
マーレは代々続く氏族長から言い伝えられてきた王家装備の逸話や外見などを聞いている為、それを身に付ける者が王族であるのではと推測した。
「当たりっぽい~! あれ、レジェンダリー級の装備だよ~!!」
マーレに続き、鑑定眼を起動したメイメイが鑑定結果を興奮気味に叫んだ。
モヤ遺跡に眠る王家に伝わる伝説の装備、王種族の残した強力な武器。それらは目の前にいるミイラが身に付けている者に違いない、とマーレ以外の4人は確信した。
『オオ……ウウ……』
呻き声を上げながらヨタヨタと歩く4体のミイラ。
その内、1体が骨と皮だけになった手をイングリット達へ伸ばす。
『オオ……オオオオオ……』
4体のミイラは苦しむような呻き声と共に、それぞれ手をイングリット達へ伸ばす。それはどこか助けを求めているように見えた。
そして、4体のミイラは既に無くなっている瞳から黒い涙を流す。
黒い涙はゴポリ、ゴポリと滝のように流れて彼らの体を伝う。
『オオ……オオオオオオ!!!』
4体のミイラは瞳から流れ出た黒い涙に全身が染まる。
すると、雄叫びを上げながら手で頭を押さえたりと苦しむ様子を見せた。
「おい、嫌な予感がするぞッ! 全員構えろ!!」
イングリットは大盾を構えて4体のミイラを注視しながら、後方にいる4人へ指示を出した。
『オオオオオオオ!!!』
イングリット声と同時に4体のミイラは室内に絶叫を響かせる。
すると、彼らの体を覆う黒い液体はボコボコと沸騰するような音を立てて膨張していく。
膨張した黒い液体は肉となり、4体のミイラをそれぞれ変貌させる。
まず最初に形造ったのは2体。片腕が異様に膨れ上がった者。両腕の肉が膨張してハンマーのようになった者。
次に姿を現したのは完全な人型へと変化した者。しかしながら、その体のサイズはイングリットの2倍はあろう巨大な体躯と狼のような頭を持つ。
3体はミイラ状態の時に身につけていた装備をそのままに、赤くヌメヌメとした血が滴っているような肉を身に宿す。
そして、最後の1体はビキビキと黒い体を硬化させていき、枝分かれした木のような大剣へと変貌した。
歪なモノに変貌した4体は、体から黒いモヤ――穢れを噴出させる。
4体のミイラが成り果てた姿にイングリット達は心当たりがある。それはゲーム内にも、神殿ダンジョンにもいた存在。
「おいおい……。デキソコナイになりやがった」
穢れを纏い、辛うじて人の姿をした人ならざる者――デキソコナイと呼ばれた最悪の人型魔獣。
『オオオオオッ!!』
イングリット達がデキソコナイの登場に呆気に取られていると、狼の頭をした巨大なデキソコナイは床に転がる枝分かれした剣を拾い上げて吼える。
「……ッ! 来るぞ!!」
狼顔の巨大なデキソコナイは拾い上げた剣をイングリットへ向けて振り下ろした。
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次回更新は水曜日です。




