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78 モヤ遺跡内部への入り口


「お~。見えた~。あれがモヤ遺跡か~」


 キャビンの窓から前方の景色を覗き見るメイメイの目に映るのは石ブロックで組まれた巨大なピラミッド。


 ピラミッドと言っても頂点付近は三角形のように尖がっている訳ではなく、頂上には神殿と思われる施設がドカンと乗っかっている形だ。


 正面には巨大な門らしきモノが設置され、その門は硬く閉ざされている。


「そうだ。あれこそがジャハーム獣王国に残る最大の謎であり、最大のシンボル。モヤ遺跡だ!」


 メイメイの脇から同じく覗き見るマーレが風で暴れる長い髪を押さえながら叫ぶ。


「あー、何となく分かっちゃった」


 反対側の窓からピラミッドを見ていたクリフは、目の前にある巨大な建築物を見て小さく呟いた。


「ん? どういう事じゃ?」


 クリフと同じ窓から外を見ていたシャルロッテが彼の呟きを拾う。


「あれねぇ。一番下に門があるでしょ? あれ、フェイクなんだよ」


「そうなのか?」


「うん。まぁ、行けば分かるよ」


 疑問符を浮かべるシャルロッテであるが、今までも『謎』に直面すると彼らの言う通りに道が開いてきた。


 今回もどうやら内部へ入る方法に心当たりがある様子。


 成り行きを見守ろうと彼女が心の中で決めていると、御者台に乗るイングリットはピラミッドの近くにラプトル車を停車させた。


「さて、魔獣避けの鈴も設置したし。餌と水も設置したし準備完了だな」


 イングリットは神殿ダンジョンの時と同じようにこの場で待機するラプトル達の世話を終えると4人の傍へと近づく。


「上だろう?」


「上だねえ」


 イングリットはピラミットの上部を見つめるクリフの隣に並ぶと、彼と同じように顔を上げる。


「じゃあ行くぞ」


 先頭を歩き始めたイングリットは正面にある門へとは向かわず、ピラミッドの側面にある階段へと向かう。


「ん? そっちは神殿への階段だぞ? 門は正面だ」


 彼らの行動に案の定疑問を感じたマーレが問うとイングリットとクリフは同時に首を振る。


「あの門はフェイクだ。開かない」


「本当の入り口は上の神殿にあるんだよ」


「何だって!? し、しかし、学者達が神殿内部は隅々まで調査したはずだぞ!?」


 マーレの言う通り、ジャハームの者達は長きに渡ってこの建築物を調査してきた。


 毎年1回は新たな推測と予想をした学者達が必ず調査団を結成して遺跡に赴き、内部への侵入を試みるが全て失敗。


 当然、ピラミット上部にある神殿だけ調査しないなんて事は無い。何年も何回も調査してきたはずだ。


 しかし、イングリット達は『神殿に入り口がある』という事実をまるで知っているかのような自然な足取りで階段を登っていく。


(道中の戦闘といい、入り口の事といい……。やはり、彼らは王種族なのか)


 このモヤ遺跡に来るのは初めてだ、と言うにも拘らず一目見ただけで入り口の謎を解いたかのような自信を見せるだけでなく、ここまでの道中に遭遇した魔獣との戦闘もマーレにとっては衝撃な光景だった。


 ラプトル車目掛けて複数の魔獣が群れになって襲い掛かってくれば、強力な魔法を使って一瞬に灰へと化し。


 野営中に夜の闇に紛れて近づく魔獣がいれば黒い盾を一振りしただけで吹き飛ばす。


 極めつけは、どこからともなく取り出した大きなハンマーらしき武器を軽々振って凶悪なAランク魔獣の脳天を一撃粉砕して見せるのだ。


 マーレは呆気に取られるだけで1度も背中の大剣を抜く事が無かった。


 あの圧倒的な戦闘を思い出しただけでも身震いを起こしてしまいそうになる。


 魔王国4将の1人が持ってきた戦闘記録は虚偽ではなく真実だったのだ、と今更ながらに身を持って体験してしまった。


 そうなってしまえばマーレの心の中には『この3人は王種族では?』という確信がどんどんと大きくなっていく。というよりも、もう疑いようがないとすら思っていた。


「……シャルロッテ。君は魔王国の貴族で普通なんだよな?」


 マーレは階段を登りながら隣にいるシャルロッテへ問いかける。


 王種族に同行している、という理由で共に行動しているシャルロッテすらも常軌を逸脱する能力を見せていた。


 なんたって彼女は呪いを使って相手の動きを遅くして王種族達をサポートしているのだ。


 本人は普通の貴族令嬢として振舞っているが、マーレからしてみれば十分に『強者』と言えるだろう。むしろ、本当にただの貴族令嬢なの? と今でも疑っているくらいだ。


 シャルロッテだけは『こちら側』だと思っていたのに予想外の裏切りを受けるという、マーレには惨い仕打ちである。


「??? 妾は普通なのじゃ……?」


 突然の意味不明な問いかけにシャルロッテは疑問符を頭の上に浮かべながら首を傾げる。


「……うむ。君は可愛いな。食べてしまいたい」


「ひょえ!? 妾はノーマルなのじゃ!」


「そうか。私は男も女もどちらもイケる。メイメイも可愛くてたまらない」


 道中の戦闘風景を見て、更には普通の貴族令嬢だと思っていたシャルロッテすらも『普通』ではないと知ってしまい、国で一番強いというダークエルフ氏族長のプライドが粉々になってしまった。


 マーレは未だ混乱しているのだろう。でなければ、こんな突然に性なる言葉を爆発させるはずがない。


 もしくは考えるのを止めたかのどちらかだ。


「メイなら良いが、妾はノーマルなのじゃ!」


 突然のカミングアウトにシャルロッテはメイメイを生贄に捧げた。  


「いや、僕もノーマル……あれ? どっちだろう~?」


 この世界に来た事で、可愛い男の子から可愛い女の子に変わってしまったメイメイはどちらが正しいのか分からず首を傾げた。



-----



 イングリット達のラプトル車が停車しているのを遺跡の周囲にある大岩の影から見ていた盗賊団達。


 彼らは腰に挿しているサーベルに触れながらラプトル車から降りてくるクリフ達へ視線を向け続ける。


「親分、ヤっちまいますかい?」


「おう……。いや、待て!」


 親分がGOサインを出した瞬間、親分の頭にある犬耳がピコピコと震え、大岩の影から飛び出そうとした部下達を慌てて手で制する。


 部下達は「おっとっと」と前のめりになりながらも足を踏ん張らせて飛び出そうとした勢いを殺した。


「アイツ等、遺跡の内部に入るとか言ってやがる。やはり、入り口を見つけたのは本当なのかもしれん。少し様子を見るぞ」


「へい親分!」



-----



「気付いてる?」


「ああ。後ろのだろ?」


 階段を登りきり、神殿の奥にあった神を祭る祭壇へと歩み寄ったクリフとイングリットは後ろを振り返らずに会話を交わした。


「尾行かな?」


「ダンジョンアタックがかち合ったんじゃないか?」


 ダンジョンの攻略に優先権や占有権などは存在しない。


 その場にあるダンジョンを攻略するのは個人の自由であり、如何なる理由があろうともダンジョンを攻略しようとする者に対して制止を促すのはマナー違反だ。


 ゲーム内マナーに則り、イングリットとクリフは背後から自分達の行動を監視する存在に気付きながらも無視し続けた。


「さて、入り口のギミックはこれね」


 クリフは祭壇に置いてある底面が丸い台座に乗った二神の小さな石像を持ち上げてイングリットへ手渡す。


 次に机の側面左右をゴンゴンと手で叩くと、机の側面がパシュッという空気が抜ける音を立てながら丸い穴の空いた台座が飛び出した。


「この穴に石像を設置して、と」


 机の側面から出て来た台座の穴に左右に1つずつ石像をセット。そして、石像を持ってグルグルと回し始める。


「おお! 天板にマークが出て来たのじゃ!」


 グルグルと石像を回すと机の天板の中心部がゴゴゴと音を立てながら変形し始める。


 最初は歪なマークであったがクリフが石像をハンドルのように回し続けると、次第に歪なマークは二神が両手を合わせて向かい合う柄に変化した。


 二神の絵が完全な状態で完成すると祭壇の背後にあった壁に切れ目が入り、ゆっくりと半分にスライドしてマンホールのような下へと降りる入り口が姿を現した。


「なんと……。このような仕掛けが……」


 長い間解けなかった謎が解明された瞬間に立ち会ったマーレは感動と驚きが入り混じった表情を浮かべる。


 そんなマーレを余所にプレイヤーであるイングリット達3人の手元には、インベントリから飛び出してきた真実の鍵が握られていた。


 < クエスト地点に到着:クエスト内容の更新 >


 < 墓所に縛られている魂の解放 及び 楔の破壊 >


「クエストがスムーズに進んで何よりだ」


「確かに。目的地をひたすら探す事がなくて良かったね」


「魂の解放ってなんだろう~?」


 久しぶりに更新されたクエスト内容には前回同様に『楔の破壊』が表示されており、それに加えて今回は別の目的も表示されている。


 どういう内容なのだろうか、と3人はそれぞれ予想をするがやる事は変わらない。


「とにかく、下に行くか」


「お~!」


 先頭を行くイングリットが早速マンホールに設置された梯子に足を掛ける。


 イングリット達の2度目となるダンジョンアタックがこうして始まった。


読んで下さりありがとうございます。

次回は木曜日です。

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