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77 遺跡へ


 マーレが同行すると決まった翌日。


 イングリット達は待ち合わせの場所となっている、マーレと出会った酒場の前で待っていた。


「しっかし、暑いのじゃ」


「そうだねぇ。水は魔法で好きなだけ出せるから良いけど……魔法が使えない一部の亜人種族は死活問題だね」


 軒先の日陰で待つ一行だが、相変わらずジャハームは暑い。


 マーレと一旦別れてから服を売っている商店へ行き、ジャハームで流行の衣装である服――ビキニ上下にシースルーのヒラヒラを取り付けた踊り子衣装に着替えたシャルロッテ。


 スタイル抜群で容姿の整ったシャルロッテが着用するとセクシーさが倍増かつ、風通し抜群の衣装であるが降り注ぐ日差しの威力は緩和できない。


「でも、ジャハームの人達は普通にしてるよね~?」


 街行く人々を観察していると、額に汗を浮かべてはいるが然程苦しそうな表情を浮かべてはいない。


「昨日読んだ本に書いてあったけど、亜人は体毛で日光の影響をカットできるらしいよ。ダークエルフや一部の魔族も環境適応して大丈夫なんだとかなんとか」


「へぇ~」


「私達は辛いからね。耐性指輪を外さないようにね」


 ギンギラギンの直射日光の中でも問題無く活動できるのは一重に魔族と亜人の環境適応性能のおかげだとクリフは語る。


 神脈が枯れて砂漠地帯になってしまったが、長くこの土地に住み続ける種族達は過酷な環境に適応できるよう体の機能を変化させた。


 それは神達の視点から見れば進化ではなく『スキルの取得』だ。


 この土地に住む人々は本人の意思に問わず、過酷な環境下で生き残るという本能から『環境適応』というスキルを取得した、というのが真実である。


 故にダークエルフがビキニアーマーを着用していても肌は焼けないし、他の種族達が炎天下の中で仕事をしていても倒れる事も無い。


 対して魔王国生まれのシャルロッテとゲーム内から蘇ったイングリット達は『環境適応』スキルを取得していないので、ヘタをすれば倒れてそのまま死亡……というケースもあり得る。


 そこで対策としてクリフが取り出したのが『炎耐性アップ』の指輪だ。


 これを物は試しと指に装着してみるとアラ不思議。先程まで地獄の如く感じていた気温が適温へと変化するではないか。


 指輪の等級もレア等級とそこまで貴重な物ではない。クリフのインベントリ内に4つあったのでシャルロッテとメイメイに渡して装着させている。


 イングリットは鎧のエアコン機能があるので装着していない。


「すまない。待たせたな」


 クリフ達が会話に花を咲かせていると約束の時間ピッタリにマーレの声が聞こえてきた。


 彼女は程好い大きさの胸をぶるるんと震わせる黒いビキニアーマーを着用し、腕には金属製のガントレット、膝まであるグリーブとニーソックスを履いての登場。 


 背中には大剣を担ぎ、風貌からはパワーファイターだというのが一目見て分かる。


「ふむ。悪くない」


 褐色の肌に黒いビキニアーマー。ビキニアーマー派閥筆頭のイングリットは顎に手を当てながらマーレの姿をまじまじと見つめる。


 見た目はイングリットの言うように(一部の趣向を持つ者にとっては)悪くない。


 ただ、装備品としてだけ見ればレア等級程度の物だろう。何か特別な材料や能力を持っているならば、既にメイメイが騒いでてもおかしくない。


「そうだろう。私の戦装束だ」


 しかし、装備等級なんて知らない彼女はイングリットの言葉を素直に受け入れ、腰に手を当てながら胸を張って見せた。


 股間が少々膨らんでいるのが気になるところであるが、彼女達ダークエルフからしてみれば些細な事なのだろう。


「じゃあ向かうか。ラプトル車に乗れ。道案内は任せるぞ」


「承知した」



-----



「あれですぜ、親分」


 イングリット達がジャハーム獣王都を出発し、入場門から出た時。


 東に向かう一行のラプトル車を指差す男の姿が。


 指差す男はイングリット達が酒場でマーレとモヤ遺跡の話を隣のテーブルで盗み聞きしていた者。


 そう、彼は酒場でモヤ遺跡へ向かうとされる者達を探していた盗賊団の一員だった。


「ようし、モヤ遺跡まで先回りするぞ」


「へい!」


 部下の指差すラプトル車の御者台には見るからに護衛者と思われる鎧の男が見える。


 黒いフルプレートを着用している男の雰囲気は遠目から見ても猛者の風格が滲み出ているではないか。


 だが、親分と呼ばれたコボルト族の男はチラリと背後へ視線を向ける。


 彼の背後には商会の馬車に偽装した盗賊団達。しかも、こちらの数は30人以上だ。


 いくら1人の猛者がいようとも、この数の暴力があれば負けるはずがない。


「へへへ。話じゃあ、見た目の良い女もいるらしいじゃねえか。あの黒い鎧を奪うのも良いな」


 親分はベロリと舌舐めずりをしながら東へ向かって行くラプトル車を睨みつける。


「お前等! 出発だ!! 先回りするからな!! 裏砂漠路を一気に駆け抜けるぞ!」


「「「 へい !! 」」」



-----


 出発当日の夕方、目的地であるモヤ遺跡まで丁度半分の地点まで進んだイングリット達。


 野営を行う場所を探していると砂漠路の道端に壊れた馬車を発見。マーレが少し気になると言うので調査の為にイングリットはラプトル車を停車させた。


「魔獣に食われているな……」


 馬車を引いていたのは馬らしき生物。らしき、と言わざるを得ないのは体の大半が魔獣に食われており、馬の足と思われる物体が辛うじて残っていたからだった。


「荷台も壊れているし、乗っていた人物も見当たらないな」


 イングリットが周囲に何も隔てる物が無い、見通しの良い砂漠路をキョロキョロと探すも人影は無い。 


 そもそも、馬らしき物体が食われてから1日半くらいだろうか。生き残っていたとしたら獣王都へ引き返しているだろう。


 しかしながら、ここから獣王都まで徒歩では2日程度は掛かる。ほぼ直線になっている砂漠路で、それらしき者達とすれ違っていないという事は……。


「荷台の残骸に何か挟まっているな」


 イングリットが拾い上げたのは1枚の紙きれ。断片的であるが『モヤ遺跡の入り口が』という文字が読み取れる。


 他の箇所にもモヤ遺跡に関しての記述が書かれているようで、襲われた者は学者か何かだったのだろう。


「魔獣に襲われちゃったみたいだね。その割には痕跡が無いけど……」


「最近、この辺りはサンドスコーピオンが出没するとの情報を聞いた事がある。奴等は獲物を麻痺させ、砂の中に引きずり込むんだ」


「げぇ……。虫かぁ……」


 サンドスコーピオンとは砂漠に出没する大型のサソリだ。マーレの話では極めて凶暴かつ狡猾な魔獣で傭兵組合ではAランク相当の魔獣として認定されている。


 ゲーム内では中級者が経験値を稼ぐ為の中型魔獣という位置付け。4人パーティで連戦すると経験値とドロップ品が美味いと評判の魔獣だった。


 マーレの話を聞くだけで嫌悪感を表すほどの昆虫系魔獣に対して苦手なクリフの事もあってイングリット達がサンドスコーピオン狩りをした事は無いが。


「この辺りでの野営は危険だな。もう少し先に行くと大岩があったはずだ。そこで野営を――」


 と、マーレが提案をしていると地面に広がる砂がサラサラと揺れる。


 その揺れは次第に大きくなり、身を揺する大きな振動と共に巨大な砂の柱が地面から飛び出した。


「サンドスコーピオンだ!!」


 マーレが空から降り注ぐ砂を手でガードしながら地面から飛び出した巨大な物体の正体を叫ぶ。


 砂の地面から飛び出してきた巨大なサソリはキチキチキチと嫌な音を鳴らしながらイングリット達を獲物としてロックオンするが――


「いやああ!! 虫ィィィィッ!!」


 相変わらず虫を見ただけで攻撃魔法を条件反射的に使用してしまうクリフ。


 今回使用されたのは第6階梯の光魔法であるシャイニング・レイ。


 神殿ダンジョンのイソギンチャク相手にも使用した高火力のビームがサンドスコーピオンに向けられて発射された。


 圧縮された光の熱はサンドスコーピオンの右半身を消し飛ばし、視界の遥か先まで延びて行く。


 当然、サンドスコーピオンは何が起きたか分からぬまま即死。巨大な図体は力無く地面に落ちて動かなくなった。 


「…………」


 一方、背中の大剣を抜こうと手を伸ばしていたマーレはパラパラと砂が舞い落ちているにも拘らず口をパクパクさせる。


「うわぁ~。即死だぁ~」


 魔法を食らって体をズグズグに溶かすサンドスコーピオンをつま先でチョンチョンと触るメイメイ。


「キモ! キモォ! 私に見せないで!!」


 クリフはサンドスコーピオンの死体から顔を逸らしながら「ウエエ!」と()()く。


「これが犯人だったんだろ。さっさと先に行くぞ」


 イングリットはたった今起こった事を気にもせず御者台へ座り直し、4人をキャビンの中へ入るよう促した。


「…………」


「これくらい、気にしたらダメなのじゃ」


 未だ目を見開いてイングリット達とサンドスコーピオンの死体に顔を行ったり来たりさせるマーレに、シャルロッテは慈しむような笑みを浮かべて呟いた。


読んで下さりありがとうございます。

次回投稿は火曜日です。

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