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幕間 旧アルベルト伯爵領


 旧魔王国領土・アルベルト伯爵領。


 元々は魔王国に所属するアルベルト伯爵――シャルロッテの父親が領主として治めていた土地であるが、今では人間族に支配されてしまっている。


 聖樹王国の命令を受けアルベルト伯爵領へ侵攻したのはファドナ皇国の皇都精鋭部隊である第1騎士団3番隊。


 皇国の第1騎士団は聖樹王国より下賜された勇者武器(・・・・)を扱う最強の聖戦士部隊とファドナ国内では最も名高い部隊であり、何時ぞやの砦防衛戦でイングリットが戦った聖なる槍を使用していたレオンと同等、それ以上の強者が隊長をしている部隊だ。


 王種族であり、ゲーム内で魂の強化を施された防御特化ガチガチタンクのイングリットでさえも一撃で大ダメージを受けてしまうような相手に『弱種族』と呼ばれる魔族が抗える訳も無く、アルベルト伯爵領は侵攻から1週間で全ての領地を占領されてしまった。


 そして、現在。


 ファドナ皇国の人間族に占領されてしまったアルベルト伯爵領地の中心地であり、シャルロッテの住んでいた伯爵邸のある街であるアルベルト伯爵街は魔王国魔王都への本格侵攻の為の足が架かり、前哨基地の役割を持つ場所に変化していた。


 皇都からやって来る補給物資の集積所、戦線を監視する騎士団員の交代要員が集う場所などと軍事的な利用は勿論の事、もう1つ重要な役割を持つ地点になっている。


 それは聖樹王国からの命令である――ある一定の力を持つ魔族と亜人を見つけて研究所(・・・)へ移送する事。


 アルベルト伯爵領地にいた生き残りの魔族と亜人達は人間とエルフに捕らえられ、この前哨基地へと一旦送られる。


 移送された者達はボロ切れのような洋服を与えられ、手錠と足枷を装着された後に前哨基地中心部に建造された収容所に集められ、人間の研究員が持つ掌サイズの機械を心臓に押し当てられる。


 この作業で規定された数値を超えた者は一旦ファドナ皇都へ送られ、聖樹王国内にある研究所へと届けられるのだ。


 一方、規定値を越えなかった者達は――


「ぎゃああああ!」


「もう許して……! 許して下さ……」


 収容所の地下にある拷問部屋で人間達のストレス発散をする為の道具へと墜ちる。


 血に染まった床。今にも死に絶えそうな者達の呻き声。


 窓も無い室内は血と汗が入り混じった匂いが充満し、卑しい者達の笑う姿がコンクリートの壁に影となって映し出される。


 ある魔族の男性は皇都から新しく届いた剣の試し斬りにと体中を斬られ、また別の者は捕獲した魔獣と戦えと強要されて見世物に。


 見目麗しい女性は騎士団の慰め者へとされ、反抗すればその場で陵辱された末に手足を切り取られて絶命。


 この世にある人間の醜悪な悪意全てが入り混じった坩堝。それが収容所地下の現状だ。


 そんな地獄のような場所を指揮・管理しながら部下達にストレス発散を推奨する人物こそ、アルベルト伯爵領地を侵攻して陥落させたファドナ皇国第1騎士団 3番隊隊長 アールスという男だった。


 彼の見た目は痩せた体に気弱そうな顔つき。丸いメガネをかけた一見人畜無害そうな風貌。


 しかしながら、その外見とは裏腹に彼の中には醜悪な悪意が詰まりに詰まっている。


「ぐ、ぐうう、ぐ、ふ、あ……」


 今、彼の目の前には収容所の床に這い蹲る魔族の女性。彼女は下半身を焼かれ、黒炭の状態になってしまっている。


 それでもまだ息があるのはアールスとの約束があるからだ。


「おお。よく生きていますね!」


 アールスは苦悶の声を上げながら必死に死ぬまいと耐える魔族の女性をニタニタと見下ろしながらパチパチパチ、と心の篭った拍手を送る。


「やく……そ、ぐ……」


「ん? 約束?」


「むす、こ……。私の……。むす……かえし……て……」


 女性がアールスと交わした約束は「拷問に耐え、生き残ったら捕らえた息子を魔王国へ返す」という内容だ。


 彼女がアールスや騎士団員へ必死に懇願し、取り付けた約束。


 この約束を取り付ける為に憎き人間達の慰め物に何度もなったし、床に落ちた汚物さえ啜ってみせた。


 屈辱に次ぐ屈辱の末、ようやくアールスと約束を交わして相手の要望である火炙り拷問にも耐えてみせたのだ。


「ああ、息子。貴方の息子か。大丈夫。覚えているよ」


 ニコリと笑うアールスは、自身の背後にある暗く先の見えない場所へと歩いて行く。


 愛しい息子だけは助かる。そう思った女性は消えかかる命を気力で繋ぎとめながらも少々の安堵を浮かべた。


 が――


「君の息子はしっかりと魔王国へ返そう」


 アールスはそう言いながら片手で持てるサイズの麻袋を持ち、女性の目の前で麻袋を逆さにした。


「ちゃんと返しますよ。魔族の砦に行った際には投げて返してあげよう」


 麻袋の口からゴトリと床に落ちたのは青年だったであろう魔族の頭部。 


「あああ……。ああああああ!!??」


 床に転がったのは必死に守ろうとしていた愛する息子の頭部。 


 女性は這い蹲りながら息子の頭部を両手で抱えながら、枯れ果てた涙を流す。


「ヒャハハハ!! そうそう!! その表情!! その鳴き声!! 最高だよ!! ヒャハアハハアア!!」


 アールスは念願かなったとばかりに腹を抱えて泣き喚く女性を見下しながら笑い出す。


 弱き者が自分達に必死に懇願し、叶うと思ったら裏切られる。そんなシーンを再現できたらさぞ面白いだろうと数日前から計画していた。


 その計画が遂に実り、自分の目の前で繰り広げられている。なんと最高の瞬間なのだろうかとアールスは笑いが止まらない。


 この計画の〆は――


「ヒャハハハ! 馬鹿なヤツだ!! お前!! みたいな!! 汚い種族が!! 人間様と口を交わせるものかよ!!」


 息子の頭を抱えて泣く女性の腹部を何度も何度も踏み付けて、彼女が絶命するまで魔族に対しての罵詈雑言をぶつけ続ける。


「ふうぅ。次はどう遊ぼうか」


 女性が絶命し、アールスが額に浮かんだ汗をハンカチで拭いていると背後から扉を叩く音が聞こえて返事をした後に振り返る。


 入室してきたのは同じ部隊の副長であり、彼の手には丸まった1枚の紙が握られていた。


「隊長。皇都からの指令が届きました」


「はい。ご苦労様」


 アールスはその場で受け取り、丸まった指令書を広げて読み始める。


「ふふ、ふふふ」


「指令書にはなんと?」


 指令書の中身を読みながら薄気味悪い笑い声を上げたアールスは問いかけてきた部下へ顔を向ける。


「ふふ。遂に来ました。戦争ですよ。戦争。魔族の土地を奪えとの命令です。今回は2万を使って半分(・・)は奪えとの事です」


「ようやくですか。そろそろ捕らえていた魔族と亜人の数も少なくなっているので助かりますね」


「ええ。なるべく生け捕りにしましょう。こんな楽しみは前線にいないと味わえないですからね」


 脳内に浮かぶ楽しい計画(・・・・・)に思いを馳せ、ベロリと舌舐めずりをするアールス。


 2人は笑いながら作戦会議室へと向かって行った。


 魔王国とファドナ皇国。北東戦線が開かれる時は近い。


読んで下さりありがとうございます。


次回投稿は日曜日です。

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