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76 酒場にて 2


「少々、よろしいか」


 そう声を掛けてきた痴女はイングリット達の姿を改めて見回す。


 一方でイングリット達は突然話しかけられたのもあるが、目の前に現れた男性を相手にするお仕事に従事しているであろうサキュバス並みの痴女に少しばかり唖然としてしまう。


(痴女だ……)


(痴女なのじゃ……)


(すごい、本当に生えてる)


(ダークエルフはあれが私服なのかな~?)


 我に返った一行はテーブルに顔を寄せ合って、ヒソヒソと感想を小さく呟きあった。 


 一通り感想を呟き合うとイングリットが咳払いを1つ。その後、代表して痴女に返答を返す。


「何か、用か?」


「ああ、私はマーレ。君達は魔王国から来たのか?」


「そうだが……」


「やはりか! 私は魔王国に興味があってな。話を聞かせてくれないか?」


 目の前に現れた痴女の名はマーレ。彼女曰く、彼女はジャハームに所属する傭兵だと言う。


 そう。彼女はダークエルフの氏族長である女戦士マーレ。彼女なりに考え、身分を隠して接触する事にしたのだ。


 彼女は容赦無く空いている席に座ると、人間とエルフに侵攻されている自国を守護するべく他国はどのように防衛しているのか聞いて己を高めたいのだ、というのがイングリット達に話しかけた理由だと語った。


 てっきり、一発いくらでどう? 的な客引きかと思っていたイングリットだったが以外にもまとも(?)な理由に警戒心が少々薄れた。


「俺達は傭兵じゃないぞ」


 だが、彼女の要望に応える事は出来ないだろう。何故なら、イングリット達は傭兵ではなく冒険者だからだ。


「ほう? しかし、君は立派な鎧を身に着けているではないか」


「俺達は傭兵ではなく冒険者だ。大陸戦争には参加していない。この国にも冒険にやって来た」


「ふぅむ……」


 マーレは親書にあった通り、王種族は冒険者を語っていると記載されていたのを思い出す。


 冒険者は随分と昔に存在していた――神話戦争時代に存在していた傭兵の前身となる職業だ。王種族の中でも冒険者は大変人気な職業だったと歴史書で学んだ事がある。


 冒険者という身分、親書に書かれていた3人の王種族の身形……目の前にいる3人は全て一致する。そうなると、横に座る美少女が貴族の娘か、と推測した。


 だが、まだ王種族を騙る狼藉者という線も捨てきれない。


 マーレは依然と警戒心を強めながらイングリット達へ質問を続けた。


「冒険者という職業はもう既に存在しないだろう? 冒険者とは何をするのだ? 戦争に参加せずに冒険だけをするのか?」


 腕を組みながら矢継ぎ早に質問を投げかけるマーレにイングリットは面倒臭そうな表情を一瞬浮かべるが、マーレから目的地の情報が引き出せるかもしれないと感じて丁寧に対応した。


「冒険者は未知を探求する。ダンジョンの攻略、世界の謎を解き明かす……大陸戦争なんて参加してたら時間が無いだろ。戦争はやりたいヤツがやってりゃ良い。俺達は知らん」


 過去の歴史書では王種族とは、戦争で他の種族達を率いて先頭に立っていた偉大なる強者達だ。


 国の命運など知らない、というイングリットの発言は王種族とはあるまじき発言。


 マーレは少しムッとした表情を浮かべてしまうが質問を続ける。


「国がどうなっても良いのか? 国が無くなってしまえば冒険など続けられないのでは?」


「別に国が無くなろうが生きてはいける。人間とエルフが戦いを仕掛けてくるならば蹴散らせば良い」


 歴史書には王種族という存在は立派な戦士のように描かれているが、それは外から見ていた現在生き残っている種族達が抱いていた偶像に過ぎない。


 王種族の中には街を治めながら領民の為に、と戦った者もいるがそんな存在は一握り。


 本来、王種族というのはイングリットのような自己中心的で快楽主義者が多いのだ。神話戦争に参加したのも神からの命令に従ったのではなく、己の財産や安寧が奪われるから戦ったに過ぎない。


(何なのだ! コイツは! 王種族とはまるで違う!)


 ジャハームを守る為に戦った過去の王に憧れ、敬愛するマーレにとって『王種族の印象』が崩れる裏切りのようなモノであるが現実は非情だ。


 しかし、イングリット達にもそれを証明する手立てはない。


 イングリットの発言を聞いて、テーブルの上で拳を強く握りながら怒りを顕わにするマーレを納得させる事はできないのだ。


 だが、先程の発言をマーレは脳内で反芻させていると『人間とエルフなど蹴散らせば良い』という簡単に言ってのける態度に引っ掛かる。


 彼女と対峙する黒い鎧の男は自然に、当たり前のように言ってのけた。


 マーレがこの世に生まれ落ちて100年弱。氏族長になり、様々な者達と対峙してきた。


 嘘をつく者、事実を誇張して語る者……強気な発言をする者など様々な人物を見てきたが、イングリット程に『信じられない事』を自然と言う人物は見た事が無い。


(王種族を騙る狼藉者と断罪するのはまだ早いか……?)


 マーレはそれなりに人を見る目があると自分で思っている。その彼女が先程の発言を受けて「本当なのかも?」と多少は信じてしまうくらいに自然体だった。


「次はこちらから質問をして良いか?」


 彼女が悩んでいると次はイングリットが質問を投げかける。


「この国の東にある遺跡。それに心当たりはあるか?」

 

「東にある遺跡……? モヤ遺跡の事か?」


「モヤ遺跡……。東にある遺跡はそこだけか? 他にあると聞いた事は?」


「いや、東にある遺跡と言われればモヤ遺跡しか聞いた事が無い。というよりも、この国にある遺跡というモノはモヤ遺跡以外存在しない」


 モヤ遺跡。神話時代に幻獣族が建築した旧王都の象徴ともなっていた巨大な建物。ジャハームに住む者ならば誰でも知るこの国のシンボルだ。


 人間からの侵攻が続く中、モヤ遺跡に眠るとされる伝説級の武器を求めて学者達が赴いたが成果は出ず。


 しかし、諦めきれずに他の場所にも遺跡があるかもしれないと学者達が国内を探し回ったがそれらしい建築物は見つからなかったという報告書をマーレは氏族長になってから見た事がある。


 当時、国内にいた学者達が総出で探したものの見つからなかったのだから他には存在しないのだろう、という結論に至った事を思い出す。


「その遺跡は神に纏わる場所か?」


「神? ああ、この国を治めていた幻獣王が王族の墓と神を称える神殿としての用途も持たせていたはずだが」


 マーレ曰く、モヤ遺跡の地下には王族の墓があり、上層は二神を称える神殿としての機能を持たせた施設だと言う。


 それを聞いたイングリット達は顔を見合わせた。


「これは決まりじゃないか?」


「神を称える場所、東にある唯一の遺跡。そこで間違いなさそうだね」


「また近くにいけば鍵のログが更新されるんじゃないかな~?」


「確かに。前もそうじゃったのう」


 ウンウン、と頷きあう4人。


「なんだかアッサリと見つかったね」


「まぁな。……マーレと言ったか。助かった。ありがとう」


 突然話し合いを始めた4人を見ているだけのマーレだったが、イングリットから顔を向けられて礼をされると「あ、ああ。どういたしまして……」と事態を把握できないものの条件反射で言葉を口にしてしまう。


 何故急にこの国にある遺跡の事を聞いたのだろうか。疑問を抱くマーレだったが魔王国から来た4将の1人であるソーンの言葉を思い出す。


『王種族の目的は枯れた大地の復興と推測されている』


 モヤ遺跡はこの国にある最大の謎が眠る建築物であり、幻獣王が使用していたとされる伝説級の武器が眠る場所。


 もしかして、本当に?


 ハッとなったマーレは彼らの言う意味を慌てて問う。


「モ、モヤ遺跡に行くのか? あそこは入り口が封印されてて入れないぞ!?」


 座っていた椅子から勢い良く立ち上がり、テーブルに両手を着いて前のめりになりながらイングリットへ詰め掛ける。


「ん? まぁ、行ってみりゃわかんだろ。どうせ封印って言っても前みたいな解錠ギミックだろう」


 目の前にマーレの美しく整った容姿がアップになり、形の良い胸がぷるるんと震えるがイングリットは冷静に言ってのける。


「あー。あり得る。魔法的な封印だったら私が解除すれば良いだけだし」


 クリフもイングリットと同様、簡単にモノを述べるではないか。


 2人の自然体なやり取りに、4人を疑っていたマーレの脳内は混乱状態に陥る。


(この者達のごく自然に言ってのける自信はなんだ……? まさか、本当に……?)


 自分の目の前にいる者達は本当に王種族なのかも? でも確証がない……。と、どう判断して良いか分からない。


 そうなった時、マーレが取る行動は1つだ。


「モヤ遺跡まで私も付いていって良いか?」


 己の目で見て確かめる。


 何とも直球で脳筋的な判断であるが、この即時即決な判断力こそが彼女が戦場で生き残ってきた秘訣でもあるし、強みでもある。


「は? お前、戦えるのか?」


 クエストの目的地はダンジョンになっている可能性が高い。それは前回の神殿を見ても予想される答えだ。


 故に、次の目的地であるモヤ遺跡もダンジョン化して凶悪な魔獣がいる可能性は否定できない。


「馬鹿にするな! 私はこの国で一番強いのだぞ!?」


 氏族長という身分を隠して接触しているにも拘らず、マーレのこの発言は危険極まりない。


 イングリット達がこの世界の情勢に疎い故に「ふ~ん」で済むのだ。ただ、シャルロッテだけは「この国で一番強い?」と首を傾げていた。 


「いや、でも危ないよ?」


 クリフの発言は彼女の為を想ってのものであったが、マーレの眉間にある皺は余計に深くなる。


「馬鹿にするなと言っている!!」


 ドン、とテーブルを叩きプライドを傷つけられた怒りを顕わにするマーレ。


 クリフは「困ったな」と苦笑いを浮かべた。


 もうこうなっては彼女は引かないだろう、と4人の抱く感想が一致する。


「何があっても自己責任。こちらの指示には絶対に従ってもらう。この条件を飲むなら連れてってやろう」


「ああ、分かった!」


「臨時パーティか~。久々だな~」


 イングリット達のパーティに臨時で加わったマーレ。


 目的地は東にあるモヤ遺跡。


「…………」


 別のテーブル席でイングリット達のやり取りを聞いていた1人の男は、イングリット達を一瞥するとそっと外へ出て行った。


読んで下さりありがとうございます。

アレもコレもって詰め込みすぎてテンポ悪い気がする。


次回投稿は土曜日です。

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