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75 酒場にて 1


 ジャハーム獣王国王都に入場したイングリット達は宿を決めた後に4人で街を散策しに出かけた。


 散策中、一番に思い浮かぶ感想は魔王国との比較だ。


 魔王国と比べてこの国の環境は劣悪と言える。


 まず、気候だけは安定している魔王国と違ってジャハームは年中暑い。更に周辺は砂漠という事もあって街中に吹く風には砂が含まれているので油断すれば口の中はジャリジャリになってしまう。


 それは人だけでなく、建築物でも同様だ。折角、綺麗に塗装したにも拘らず塗装が乾く前に砂が付着して何とも言い難いガッカリ感に見舞われる。


 故にジャハームの建築様式は素材の質感を100%出した物が殆ど。


 建築に使われる素材と建築方法の詳しい内訳を述べるとすれば、石をブロック状にして積み上げた家、大岩を切り抜いた家、地面に穴を掘る(一部種族のみ)だろう。


 最も多いのは石をブロック状にした家屋で、魔王国のように木造建築やコンクリートを使用した家は全く存在しない。


 木造建築用の木材を国内で入手できない、というのもあるが唯一木材の生産量がある魔王国から輸入すると希少性から金額がとんでもない事になってしまうからだ。


 その為、ドリアードのような木に根付かなければ生きていけない種族はジャングルが無くなった時点で魔王国へ移住してしまった。今は1人としてジャハームには住んでいないし、今後訪れる事も無いだろう。


 ジャハームに住む8割が獣人であり、残りはケンタウロスや一部の二本足を持った魔族だ。


 特に多いのはコボルト、ケットシー、ミノタウロス族。その3種に加えてジャハームを管理する3氏族の種族が占めている。


 街の形は入場門から一直線に宮殿まで伸びた大通りがあり、その両脇に店や家屋が建築されている形だ。


 大通りのやや宮殿寄りの位置にオアシスがあり、人々の憩いの広場であると同時に住民の命を握る貴重な水源だが、このオアシスの水も自由に使用できる訳ではない。


 その理由である『年々水量が減ってきている』という事。


 オアシスの管理は3氏族が行っており、現在水を汲めるのは3日に一度だけという制限がかけられている。


 水量が減ってきているという事実は国民に対して非公開となっているが、聡い者は既に気がついているだろう。


 その為、ジャハームで一番儲かる商売と言えば水魔法を使って水を販売する事だ。


 魔法を使うには魔力が必要で、王種族でありゲーム内で鍛えたイングリット達と比べれば現代の魔法使いの魔力総量はかなり低い。


 魔法を使える種族を多く囲み、かつ、水魔法が使える者を確保できた商会がジャハームの市場を制するのだ。


 街を散策するイングリット達も大きな建物で店を構える商会が水を販売している事に気付いてシャルロッテに理由を聞いた後に、水1リットルの販売価格が5000エイルと言われて驚愕の表情を浮かべていた。


 主食であるサボテンステーキと根性芋焼き等が一食1000エイル。5食分に相当する価格であるのだから驚くのも無理はない。


 因みに魔王国は水魔法が使える種族や魔法を使える種族が多く住む為、価格は抑えられているし魔王都の近くにある森には川が流れている。


 その川の水を街中に引き込んでいるので水には苦労していない。


 加えてダンジョンも出現してダンジョン内の水源から水を得る事が出来るので今後も苦労する事は無いと言えるだろう。


 年中暑く、深刻な水不足。それがジャハームの特徴だ。


 と、言ってもそれらはイングリット達に対して然程苦ではない。

 

 それにジャハームに来てよかったと思える部分もあった。


 それは――


「あの踊り子みたいな衣装いいね。シャルちゃんとメイも着ようよ!」


「おい! 見ろ! ビキニアーマーだぞ!?」


 街に住む人々の服装である。


 人は暑ければ脱ぐのだ。直射日光を浴びて肌が焼けようとも脱がなければやっていけない。


 その為、日焼けした人がほとんであるが服装の開放感は魔王国以上にあった。


 清楚な女性はワンピース。ちょっとハジケてシャツと短パンもしくはスカート、私を見ろとばかりのビキニ上下に装飾品やシースルーなヒラヒラを纏った踊り子衣装。


 魔獣を退治したり戦争に駆り出される女性の傭兵はなんとビキニアーマーを着用している者までいるじゃないか。


 美少女を着せ替え人形にして見て楽しむのが大好きなクリフ、ビキニアーマー派の中核を成すイングリットはテンションアゲアゲだ。


「指を指すのをやめんか! 落ち着くのじゃ! メイ! 離れて迷子になるでないぞ!?」 


 イングリットとクリフのはしゃぎようはまるで初めて都会に来た田舎者だ。


 同行しているシャルロッテは周囲の者達から寄せられる生暖かい視線に気付いて顔を真っ赤に染める。


「へぇ~。こっちは鉄に少量のミスリルが含まれてるんだ~」


「お、嬢ちゃん詳しいねえ! こっちは最近取れたヤツで――」


 メイメイはジャハーム住民の洋服よりも露店で売っている鉱石に夢中。露店商のコボルトおじさんと和気藹々としていた。


 3者バラバラに「あれは? これは?」となってしまってシャルロッテ1人では纏めきれない。


「情報収集に行くのじゃろ!? はよう、オアシス広場に行くのじゃ!」


「そうだった、そうだった」


「ビキニアーマー派なのでつい」


「鉱石を知れば、その土地の事がわかるのに~」


「お腹も空いたのじゃ。はよう行こう」


 溜息を漏らすシャルロッテを先頭に一行はオアシスを囲むように商業施設が建ち並ぶ『オアシス広場』へと歩いて行った。



-----



「いらっしゃいませ~。お好きなお席にどうぞー!」


 オアシス広場にある石造りで出来た酒場に入店すると元気良く出迎えてくれたのはミノタウロス族のウェイトレス。


 フリフリのエプロンを身に纏い、鉄のトレイを持ったウェイトレスはイングリット達を一目見てニコリと微笑みながらテーブル席の方へ手を向けた。


 店内はギラギラとした陽の光を遮断している為、少々暗いがその分室温は外よりは涼しい。


 イングリット達は空いている席に着席し、テーブルの上にあったメニュー表を手に取る。


 記載されているメニューは至って簡単だ。


 料理はサボテンステーキ、根性芋、魔獣肉のみ。しかしながら酒場というだけあって飲み物は充実している様子。


 特にイングリットの目を惹きつけたのは『白濁り酒』という酒とサテュロスミルクならぬミノタウロスミルク。


 魔王国には無かった地元特有の飲み物に興味を抱いたイングリット達は早速ウェイトレスを呼んだ。


「この白濁り酒ってのは?」


「オアシスに生えているアオンの実を蒸留した酒にミノタウロスミルクで割ったお酒です。飲みやすくて美味しいですよ!」


「そうか。それじゃあ、これを1つ。ミノタウロスミルクを3つ。あとはオススメの料理を3人分頼む」


「ありがとうございまーす!」


 ウェイトレスはペコリとお辞儀した後に酒場のマスターが立つカウンターへと向かって行った。 


「さて、情報か……。遺跡というワードがあったからな。地元民に聞いてみるしかないよな」


「そうだね。遺跡が複数あったら厄介だけど、特に有名な場所があればそこから行ってみるしかないかな?」


「聞くうちに何かヒントになる情報があれば良いんだけど~……」


「前の神殿ダンジョンは神に纏わる場所であったじゃろ? 今回もそういった場所ではないのか?」


 4人は顔を合わせてウンウンと悩む。


 情報収集をする事には変わらないが、正解の場所が分からない。


 現在手持ちにあるヒントは『東にある遺跡』というワードだけだ。


 方角と遺跡というワードだけで地元民がピンと来る場所が1つだけならば話は早いのだが……。


 とにかく人からの情報と本屋でこの国の歴史書などを購入して、遺跡について調査しなければならないと結論付けた時イングリット達のテーブルへ歩み寄って声を掛けてきた者が現れた。


「少々、よろしいか」


 話し合っていた4人は声の主へ一斉に視線を向ける。


 褐色の肌に尖った耳。男からしてみれば丁度良いと言う者が多数であろう胸をビキニで隠し、モデルのようなスタイルの腹筋とヘソ出し。


 惜し気もなくキュッと括れた腰を見せつけ、引き締まりながらも肉付きの良い尻を隠す気も無いようなミニスカート。


 そのミニスカートからは妖艶なTバックの下着がチラチラと見えながらももっこりと膨らんでいる。


 誰がどう見ても噂の第3の性別を持ったダークエルフの女性。


 とんでもねえ痴女がイングリット達の前に現れたのだった。 


読んで下さりありがとうございます。

予定していた水曜日に投稿できそうになかったので前倒し。


次回は木曜日です。

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