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73 ジャハーム獣王都


 イングリットが操るラプトル車の目の前には背の高い石造りの城壁と鉄製の門が聳え立つ。


 国境管理所で渡された地図に悪戦苦闘しながらもようやくジャハームの王都であるジャハーム獣王都へと到着した。


 高く聳え立つ城壁の向こう側は見えないが獣王都の周辺は道中の砂漠路と同様に砂漠で囲まれていて殺風景。


 門の前には4人の軍人がおり、徒歩で訪れた者や馬車で訪れた者達を例外無く検査する様子が見られる。


 2列で構成された入場審査列は国境管理所以上に長蛇の列になっており、日中のギラギラと照らす直射日光に晒されながらも根気良く待つしかないのは自明の理と言えるだろう。


「このクソ長げえ列を並ぶのかよ……」


 いくら暑さを感じない機能が鎧に備わっていようとも、長蛇の列を一目見れば「ああ、夕方まで入れないな」と諦め交じりの溜息が漏れる。


「貴族枠ですぐ入れないの?」


「魔王国じゃないからダメなのじゃ。ジャハームの3氏族の者なら顔パスなのじゃろうが……」


 キャビンの窓から列を覗き見るクリフとシャルロッテが貴族パワーでゴリ押しできないかを話し合うが、魔王国貴族の威光も外国には通用しないとシャルロッテが語る。


「3氏族ってなに~?」


 話の中で出てきた3氏族というワードにメイメイが可愛らしく首を傾げながら問う。


「3氏族というのは、ジャハームを支配する3種族のことなのじゃ」


 旧王都からオアシスに移設されたジャハーム獣王国の現在は3種の亜人種族がトップに立って運営をする合議制を採用する国家である。


 元々は幻獣種がトップに君臨する王政であったが、神話戦争で魔王国同様に王とその部下は全滅してしまった。


 残された亜人達の中でも勢力数の多かった3種――ダークエルフ、オセロメー、クー・シー族の3種族が王の席を引き継いでいる状態だ。


 この3種族を詳しく説明すると、オセロメーとは虎の見た目を持った獣人。クー・シーは犬型でありウルフ系の種族である。


 最後に一番異質と言えるダークエルフであるが、ダークエルフは厳密に言えば妖精種族にカテゴライズされる。


 何故、獣人が支配していた亜人の国で妖精種族であるダークエルフが混じっているのかというと、元々ダークエルフは旧ジャハーム獣王国のすぐ近くで暮らしていた。


 北の白いエルフは魔法が得意、南の黒いエルフは脳筋一直線、と戦い方や考え方も真逆を行く。


 神話戦争時代ではダークエルフは亜人達と共に大陸南を防衛し、亜人と共にダークエルフは亜人達と最後まで戦い抜いた種族。


 一方で北西に住む白いエルフ――トレイル帝国は早々に人間に下ってしまった。


 その歴史があるからこそ、亜人達や魔族達からもエルフと同様の見た目をしているにも拘らず差別等を受けない立場を確立しているのだ。


 余談であるが、ダークエルフにエルフと同じなどと感想を述べると「あんな軟弱種族と一緒にするな!」とガチキレされる。


 同じ妖精種族の恥さらし、というのがダークエルフが持つエルフへの感情だ。


「へぇ~。ダークエルフか~」


「ダークエルフはエルフと同じ見た目だよね? という事は美男美女が多いのかな?」


 アンシエイル・オンラインの中でもダークエルフのNPCが街中に配置されている事があった。


 エルフ同様に容姿に秀でたキャラクターモデリングであった事をメイメイとクリフは思い出す。


「そうじゃのう。ダークエルフは美女(・・)が多い。といっても、ジャハームから出たがらないようで魔王国で姿を見るのは稀じゃがな」


「美少女はいるかなぁ。ゲヘヘ」


 ダークエルフが最も優先するのは『誇り』だ。亜人達と共にジャハームの土地を防衛したという歴史と誇りを大事にする。


 それ故に、守護する土地から離れる事は稀だ。


 そしてダークエルフの一番の特徴は――


「美少女……というか、ダークエルフは女性しかおらんのじゃぞ?」


「え?」


 シャルロッテが首を傾げながら零した言葉にクリフが固まる。


「ダークエルフは女性しかおらぬ。女性同士で子を成すのじゃぞ? 知らぬのか?」


「えっ?」


 そう。ダークエルフの一番の特徴は性別が女性しか存在しない事。トレイル帝国に住む白いエルフと違い、男性が存在しない種族なのだ。


「ど、ど、ど、どうやって子供を作るの!?」


 雄と雌。おしべとめしべ。これはほとんどの生き物が繁殖する為にある人体の違い(・・)だろう。だが、ダークエルフにはそれが無い。


 つまり――


「え、そ、その……。ダ、ダークエルフは、は、生えておるのじゃ」


 女性であるにも拘らず、男性のアレが生えている。しかしながら女性のアレも存在する。


 オスとメスという2種類に分類されない、第3の性別。


 ダークエルフ。それは即ち、ふたなりである。


「マジ!? すげええええ!!??」


 まさかアンシエイル・オンライン内に存在した『異世界同人誌』なるテキストにしか登場しない存在が現実にいるのだ。


 美少女なのに股間にはドギツイビッグマグナムが生えるというアンバランスな形態。一定の人口数を獲得する特殊ジャンルと言えようふたなり。


 美少女好きのクリフもこの事実には驚愕せざるを得ない。


「会いたい! 見たい!」


 まるで異世界の住人に会えるかの如く、クリフは目をキラキラと輝かせながら叫ぶ。


「お、落ち着くのじゃ! 街中でダークエルフを見ても指摘してはならんぞ!? セクハラになるのじゃ!!」


 鼻息を荒くしながら興奮しきりのクリフに、ドン引きしながらシャルロッテは言い聞かせる。


 一方、御者台に座るイングリットは――


「あ、あの。お連れさん、めちゃくちゃ叫んでますが?」


「ああ。病気なんだ。気にしないでくれ……」


 情報収集のついでに雑談をしていた列の隣に並ぶ獣人歩行者にめちゃくちゃ訝しがる目線を向けられていた。


読んで下さりありがとうございます。


次回投稿は月曜日です。

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