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71 国境管理所


 面倒な姫ちゃんに絡まれたイングリット達が魔王都を出発したのは4日前の事。


 今回目指す場所は魔王国の東側にある亜人の国ジャハーム。


 元々はジャングルだったが神脈の枯渇から砂漠へと変貌してしまった土地にある国だ。


 魔王都からラプトル車を東に走らせているが、前回のように商人組合の馬車が襲われているようなハプニングにも遭遇せず、ここまで順調な旅路。


「国境管理所が見えて来たのじゃ」


 一行の視界には魔王国と亜人の国の境目を示す『国境管理所』と名付けられた石作りの建物が見える。


 嘗て神話戦争で共に戦った魔族と亜人は今も尚同盟が結ばれており、共に侵略を防ぐ仲だ。


 神話戦争時代よりも前からの名残で、国と国の間には明確な国境線が引かれているが両国の国民は自由に行き来できる資格を持っている。


 ただし、国を行き来する際は国境管理所を通らなければならない決まりになっており、これは入国した者の管理と入国者の生存確認――『いつまで生きていたか』という記録を取る為だ。


 両国共に外では凶悪な魔獣が生息する。国や商人組合、傭兵組合が定めた比較的(・・・)安全な道を通らなければ危険を伴うというのが常識だ。 


 それでも完璧な安全は保証されない。特に不慣れな隣国へ足を踏み入れる際「情報収集不足で危険な道を行ってしまった」なんてケースも多い。


 人気の無い道で魔獣に襲われ、撃退できなければ待つのは死。そして、魔獣の胃袋への直行便だ。


 故に国境を超える際は『国境を超えた日まで、この人は生きてました』という最低限の管理が必要と両国で定められている。 


 これがあればどちら側の国で死亡したか最低限の情報は得られ、希望の薄い捜索が出来るからだ。


 特に商人のような大型の馬車を運転する者は、荷台に詰まれている荷物の確認や検査、万が一魔獣に襲われて荷を失った際に受ける保証金の為に荷物の登録があるので時間がかなり掛かる。


「すげえ列が見えるんだが……」


 国境管理所は全部で3箇所存在し、魔王都から一番近い西の管理所は交通量が最も多い場所。


 それ故に徒歩移動の者でも待ち時間を含めて通過に最低12時間。荷馬車持ちの商人だと最悪2日も拘束されてしまう。


 イングリット達のように早く目的地に行きたい者は西の管理所を通らなければならないが、他の街で商売をしながらジャハームを目指す行商人等は魔王国南西、もしくは最南端にある管理所を目指すのが通常だ。


 魔王国内を南下しながら商売と仕入れを行い、南からジャハームへ入国。そこから北に向かいながら魔王国内で仕入れた物を売って行く。


 帰りはゆっくり西の管理所を抜けて愛しき魔王国へというのが行商人界のトレンドルートと言えるだろう。


「大丈夫なのじゃ。妾達にはこれがある」


 目の前にある大行列を回避する手段。それがシャルロッテが魔王より預かった書状だ。


 身分を保証する証明書――特に最高権力者からのお墨付きがあれば検査を受けずとも通過できる。


「列の右側を進むのじゃ。先にある窓口で言えば別門を開けて貰えるのじゃ」


「了解」


 御者を務めるイングリットはシャルロッテの言葉通りに長蛇の列を横目にラプトル車を進める。


 検査を待つ者達の視線がイングリット達の乗るラプトル車に集まる中、管理所脇に設置された窓口の前に到着するとシャルロッテがキャビンの中から外へ。


 一緒に行くよ、と言ったクリフと共に窓口へと歩み寄り中にいる管理所に駐屯する軍人へと声を掛ける。


「妾はアルベルト家の次女。シャルロッテ・アルベトルトなのじゃ。ジャハームへ向かいたい」


 シャルロッテはそう言いながら手に持っていた書状を軍人へ渡す。


 突然現れたシャルロッテの言葉を受け、軍人は少々怪訝そうな表情を浮かべながら手渡された書状に目を通す。


 彼は書状の内容を目で追っていく内に、顔つきはどんどんと真剣なモノへと変わってく。


 全てに目を通した軍人は書状を丁寧にシャルロッテへと返すと窓口横にあるドアから外へと出て来て敬礼をした。


「拝見させて頂きました。今すぐに門を開けますので少々お待ち下さい。――おい! こちらの方をお通しする! 開門せよ!」


 男性の軍人は国境管理所にある小さな門の近くで立つ者へ声を掛けると、2人の軍人が追加で現れて重厚な両開きの門を押して開ける。


「こちらをお通り下さい。先にジャハーム側の管理所があります。そちらでも同様の書状を見せれば問題無く通過できるはずですので」


「助かったのじゃ。ありがとう」


 シャルロッテは礼を述べた後に再びラプトル車へ戻る。


 御者のイングリットに軍人が言っていた事を伝えると、ラプトル車は門を通過して行く。


 国境管理所は国境の丁度真上に建設されている。故にイングリット達が門を通過した瞬間、地面は荒野から砂漠へと変わった。


 強靭な足を持つラプトルは砂漠地帯でも問題無く走行できる。足元の感触が変わったからか、歩く際にグエグエと鳴き声を挙げていたがそれが治まる頃にはジャハーム側の管理所へ到着する。


「こんにちわ。こちら側を通過する方がいるのは珍しいですね。魔王国の貴族様ですか?」


 管理所に到着するや否や魔王国側と同じデザインの窓口部屋から出て来たのは犬耳を生やした軍人の青年。


 人懐っこそうな笑顔を浮かべるコボルト族の青年軍人はジャハーム国軍の半袖制服を着用しながら、御者台に座るイングリットへフレンドリーに声を掛けてきた。


「ああ」


 イングリットが返答を返している間にシャルロッテがキャビンから再び姿を現す。


「魔王国の貴族、伯爵位のシャルロッテ・アルベルトなのじゃ」


 魔王国側と同様、魔王のサインが入った書状をコボルト青年に見せる。


 書状の中身と書かれたサインが誰の者かを確認した青年はギョッと驚き、シャルロッテの顔と書状を何度も行き来して少々混乱する様子を見せた。


「凄いですね。魔王様の直筆……」


「問題ないじゃろうか?」


「あ、はい! 失礼しました! 問題ごさいません!」


 コボルト青年は書状をシャルロッテへ返した後にジャハーム流の敬礼を慌ててして見せる。


「ジャハームへの入国は初めてですか?」


「うむ。初めてなのじゃ」


 青年の問いにシャルロッテは素直に頷く。


 すると、青年は少々お待ち下さいと言った後に窓口のある部屋へ戻って一枚の紙を持って戻って来た。


「こちらはジャハーム獣王都までの砂漠路を示した地図です。道には目印となる削られた岩がありますので、それを頼りに進んで下さいね。道から外れると魔獣の縄張りがあるので注意して下さい」


 彼から手渡された地図にはジャハーム獣王都までを示した砂漠の道――砂漠路の絵が描かれていた。砂漠路の所々には赤い点が記されており、これが目印となる岩だと説明を受ける。


「それと……最近、ジャハーム国内で盗賊団が出没しております。商人の馬車がいくつか襲われる報告が上がってきてますので通行人には注意して下さい」


「盗賊団?」


「ええ。商人の積荷を襲ったり、人質を取って身代金を請求してきたりと金目当ての犯罪集団です。殺された者もいるとの報告もあります。我々も砂漠路を警邏したりしているのですが……未だ調査中でして……」


 コボルト青年は顔を伏せがちに申し訳ないです、と零す。


「そうか。魔王国もじゃが、ジャハームも大変じゃな」


「はは……。全くです。魔王国は魔王都近郊にダンジョンが出現したと聞きました。羨ましい限りですね」


 敵国から侵略を受けながらも明るいニュースがつい最近あった魔王国と比べて、亜人の国自体にこれといったモノは無い。


 あるのは侵略と砂漠、いつ枯れるか分からないオアシス。それに加えて盗賊団まで現れれば、隣国を羨ましがるのも当然だろう。


「とにかく、ご注意下さいね。旅の安全を二神にお祈り申し上げます」


「うむ。ありがとう」


 ジャハーム国内で起きている騒動の情報を少しばかり得て、イングリット達は亜人の国へ入国した。 


読んで下さりありがとうございます。

次回投稿は木曜日です。

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