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69 言い訳


 クリフの魔法によって一瞬で家無きパーティへと変貌したイングリット達。


 現在、彼らは家の跡地前で取り調べを受けている最中であった。


「あ~。それで、家が突然爆発したと?」


「そうだ」


 彼らを取り調べるのは魔王軍4将のレガド。


 魔王都内部で巨大な火柱が立ち上ったのを見た彼は「遂に人間とエルフが魔王都に侵入したか」と大いに焦った。


 王である魔王を安全な部屋へ避難させ、大量の護衛をつけてから大急ぎで現場へ急行してみれば……現場の爆心地にいたのは例の4人組。


 イングリットの姿を見て少々怯んでしまったレガドだが、見てみぬ振りはできない。


 意を決して話しかけてみれば、イングリットの口から最初に飛び出した言葉は「ガス爆発した」だった。


 イングリットお得意の大嘘である。


 基本的に攻撃性のある魔法を街の中で使用するのは禁止されている。使用すれば禁固刑、被害があれば死刑という事もあり得る。


 今回、周囲の物や人に被害は無かったようだが使用したのがバレれば逮捕は間違いなし。


 シャルロッテが顔を真っ青にしながら3人に説明した後に「どうしよう、どうしよう」と頭を抱えていると、イングリットが「今回は俺に任せろ」と言い出したのが事の次第である。


 そんな経緯でぶっ飛んだ大嘘を受け取ったレガド。彼はガス爆発なんて単語は今まで生きてきた中で一度も聞いた事がない。


 勿論、言っているイングリットも実際にガス爆発は見た事がない。


 ゲーム内テキストにあった『異世界事故シリーズ』というストーリーには全く関係無いテキストで『ガス爆発』の項目を読み、覚えていただけだ。


「いいか? もう一度説明するぞ? 地面の下には可燃性のガスというのが埋まっていてな? 火をつけると爆発を起こすんだ。家の地下からガスが漏れていたのだろう。ガスってのは無色透明だから……わからんね?」


「えぇ……あの、そんな話聞いた事が……」


「は? マジ言ってんの? 最近の常識だぞ?」


「えぇ……」  


 最早勢いだけで押すイングリット。それを受けて困惑するレガド。


 レガドもレガドで王種族の者に強く言えない。


 内心どうすりゃいいんだ、と思いながらシャルロッテへチラチラと視線を向けるが、先程からシャルロッテは目が合わないように視線を反らしたままだ。 


 もう魔王軍4将なんて肩書きはどうでも良いから助けて欲しい。家の資金を一括で支払って、ようやく解放されたと思ったらコレだ。彼が泣きそうになるのも無理はない。


 一方で、別の者に取り調べを受けているクリフ。


 クリフを取り調べているのは魔王軍4将の1人であるアリク。レガドに加えて今回はトンガリ帽子を被った老人アリクも一緒に現場に現れたのだ。


 トンガリ帽子を被っている事から分かるようにアリクは魔法使いであって、レガドのように前線で戦うような種族ではない。


 後方から魔法を撃ちながら指揮を執る指揮官タイプ。そして、世界を創造した2神の事や神話戦争で死亡してしまった王種族の事を研究する学者でもある。


 彼は普段王城の図書室や自身の研究室で過去の歴史を研究しつつ、魔王のアドバイザーとして執務室を行ったり来たりするのが日課だ。


 それ故に街の警備等はレガドとエキドナが担当していおり、アリクは基本的に干渉しない。問題を見つければ2人に報告する程度で外に出る事も稀な存在。


 しかし、そんな彼が珍しくもレガドと共に事件現場へやって来たと言うと――


 魔王城にある自身の研究室に取り付けられた窓から見えた巨大な火柱と鳴り響く轟音。彼はそれがすぐさま魔法によるモノだと理解した。


 魔王都内で発生した大規模な魔法の発現。これは確かに問題だ。だが、彼が一番最初に思った事は『なんて強力な魔法なんだ』という感想。


 そして、魔法において魔王国内で一番と自負していた自分が扱う魔法よりも、遥かに超える魔法をその目で見てしまった。


 誰が、どんな魔法を使ったのか。どんな術式構成をすれば発動できるのか。研究者故なのか危機感よりも興味と探究心が前面に出てしまったのだ。


 大魔法と呼べる規模の魔法を使った者に会ってみたい。話をしてみたい。この時、彼の頭には『王種族が使ったのかも』という推測はスッポリと抜け落ちていた。


 そして廊下で遭遇したレガドと合流し、現場へ赴いてみれば――


「なんだ、この魔法残滓は……!」


 魔王軍4将のアリク。彼が4将となった理由は、魔法使いとしての力量と深い知識力だけではない。


 彼は魔法の痕跡や使用した魔法の残滓――その場で魔法が使われたか否か。使用された魔法の規模――が見える特殊な目を持っていた。


 魔法を瞬時に解析できるクリフの『魔導眼』の下位互換と言うべき魔眼。それを生まれつき持っていたのもアリクが4将へと至った理由の1つ。


 そして、魔眼持ちのアリクが現場で目にしたのは想像を遥かに超える魔力残滓。


 己が扱う魔法――最大で第3階梯に相当する――よりも倍以上に残る魔力残滓は、この場で使われた魔法が如何に強力かというのを物語る。


 クリフは苦もせずぽんぽこと第6階梯を使用しているが、アリクにしてみれば化物クラスと言えるだろう。


 驚愕に身を震わせていれば、隣にいたレガドから「王種族の方々です」と声が掛けられ、ようやく顔を上げてみればそこには強力なポーションを作る青年。


 レガドとエキドナからの報告で古代魔法を使うと聞いていたが、ここまで強力な大魔法を使うとは思ってもみなかった。


 否、想像できなかったのだ。


 魔王によって『干渉するなかれ』という言葉も忘れ、魔法を発動した事で体に残滓を纏うクリフへと近づくアリク。


「少しお話をよろしいですかな!?」


「ひえ!?」


 老人が鼻息を荒くし、勢いよく近づいて来る。クリフが恐怖を覚えてもおかしくはない。


「この魔法! 貴方様がお使いに!?」


 干渉するなかれ。しかし、この老人は熱い探究心故にその事を忘れている。


 止めるべき立場にあるレガドはイングリットの相手をしているので、彼を止める者は誰もいない。


「ち、違います」


 一方でクリフは街中で攻撃魔法の使用は禁止という事をシャルロッテより聞いている為、違うとしか言いようがない状態だ。


「いえ! 貴方様でしょう!?」


「ち、違いますから!」


「そうに違いないんです!! あー! 使った魔法の事を教えてくれたら全部不問にするんだけどなー!!」


 何としても古代大魔法の詳細を知りたいアリクは己の権威すら武器にしてやろうという覚悟だ。


 一方でクリフは「このお爺さんヤバイ。自白させる気か!?」と疑ってしまう。


 魔法の探求というある意味、同類な2人はただ只管に平行線な会話を続けるのみだった。


「だからよォ! ガス爆発なんだよ!? 分かる!?」


「いえ、そのような事は聞いた覚えがなく……」


 そしてアリクとクリフの隣ではイングリットとレガドの攻防が続く。


 埒が明かないと判断したイングリットは次なるカードを切った。


「そういやぁよォ。街で聞いたんだけどォ~。黒い鎧のヤツがレガド様に歯向かったから~? 傭兵組合と商人組合が制裁をしてるらしいじゃん?」


「え!?」


 実際に商人組合本部では換金が出来なかった。信用証すらも無効になった。


 メイメイが作業している3日間、イングリットは独自に街の人や組合に加入している商会の者に聞き込みを行ったのだ。

 

 いつもの鎧を着用していたら応えてはくれなかっただろう。だが、その3日間は目立つ黒い鎧は修理中。素顔を晒し、街の者が着るような普段着で生活していたのが功を奏した。


 現代には存在しない竜人族というイングリットを「あれは何て種族だろう?」と誰もが不思議そうに見つめるが、制裁対象とは見られない。


 情報をすんなりと聞けた訳だ。


 ケケケ、と兜の中で笑いながらイングリットはレガドの肩に腕を回して顔を近づける。


「商人組合のカエル野郎は俺の物に手を出そうとするしよォ~? うちのシャルにもイヤらしい視線を向けてたぜェ~? レガド様に歯向かったせいでよォ~?」


「…………」


 商人組合のカエル。そう言われてレガドの頭の中に思い浮かぶのは1人しかいない。


 心の中で「あの強欲クソカエル野郎!!」と盛大に罵る。


「迷惑掛けちゃったねぇ。ごめんねぇ~?」


 魔王軍4将レガド。詰みである。


「ガス爆発、あるよね?」


「はい。聞いた事があります」


 詰んだレガドはそう言って頷く他無かった。


「家、無くなっちゃったね」


「そうじゃな……。また夢見る羊亭じゃな……」


 話し込む4人とは少し離れた場所で、メイメイとシャルロッテのコンビはポツンと立ちながら小さく呟く。


「グエーグエー」


「グエゥゥ」


 爆発の瞬間にダッシュで逃げて被害を免れたラプトル2頭も、遠い目を浮かべるメイメイとシャルロッテに顔を向けながら憐れむように鳴いた。


読んで下さりありがとうございます。

次回の投稿は日曜日です。

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