6 宝物は金髪美少女
「おほおおおお!」
扉を開け、短い廊下を進んで再び存在していた扉を開けると予想通り宝物庫だった。
イングリットの目の前には豪華な装飾がされた剣や鎧、宝箱いっぱいに収められた金貨や宝石付きのアクセサリー。
壁沿いにはマジックアイテムらしき道具や古い本が陳列されている。
金銀財宝が何より大好きなイングリットは目を輝かせ、宝の山に突撃した。
「やった! これだ! たまんねえなぁ!」
こういったお宝に出会い、我が物にするのが冒険者の醍醐味。
皇城の物? 魔族のイングリットには一切関係ない事だ。
「アハハ! アハハ!」
イングリットは宝物庫にあるお宝を手当たり次第インベントリに放り投げるように収納。
この世の春が来たとばかりに満面の笑みで我が物にしていく。
「この本はクリフの土産にしよう。アイツこういうの好きだしな!」
棚に並べられている古書も全て収納。
「このインゴット類やら武器はメイメイだな」
仲間への土産をしっかりと収めるが、自分好みの宝石やら金貨やらの光り物も忘れない。
「あれ? もう入らない?」
武器を立てかけている木製のケースからハルバードを掴んでインベントリに収めようとしたところで、ハルバードがインベントリに入らないという現象が起きた。
入れようとすると見えない壁のようなものに押し返される感触があって空間の歪みの中へ入っていかない。
「インベントリも限界があるのか。まぁ、そりゃそうか」
ゲーム内でもインベントリには収納限界があり、1/100 と表示されて100種類までしか収納できなかった。
恐らくだが、ゲーム内と同じ仕様で宝物庫の物を手当たり次第入れていたことで100種類に到達したのだろう。
「整理するのも面倒だし、これだけでいいや」
もう二度とここには来れないだろう。
だが、インベントリ内がウィンドウ化されて見えない状況で整理整頓するのは面倒臭い。
何を入れたか全く覚えていないが運良く手に入れられた物だし、と割り切ってイングリットの略奪は終了を迎えた。
これだけでいいや、と言う割には宝物庫の中身は半分以上インベントリにぶち込んでいて、残っているのは安そうなアクセサリーや装備類のみ。
マジックアイテムらしき物や能力付き装備、魔王国で使われている『紙幣』に高く換金できるであろう金貨銀貨の類は優先的に回収していた。
「傀儡効果が切れる前にオサラバしないと……ん?」
ゲーム内では効果時間30分となっていた傀儡状態。きっかり30分の効果があるかは不明だが、未だ警備していた重装騎士が突入して来ないので未だ効果は続いているのだろう。
それが切れる前に城を出ようと考えていたが宝物庫の奥にもう一枚鉄製の扉がある事に気付く。
「なるほど。奥に一番ヤバイお宝が眠ってるパターンだな?」
現在イングリットの頭に浮かんでいるモノは、主に人間プレイヤーが使っていた聖剣や聖槍やらのレア度が高い代物。
人間とエルフ贔屓の運営が実装した聖剣などを指す『聖なるシリーズ』は本当にぶっ壊れアイテムだったな、と苦い思い出を振り返る。
転生してステータスを強化していない魔族・亜人プレイヤーはレベルがカンスト状態であっても大体一撃で殺される。
何度も転生を繰り返して防御値をカンストさせたイングリットでさえ、黒鎧を装備していても4000を超えるダメージを受けるのだ。
そんな武器を持った者がうじゃうじゃいて複数人による同時攻撃を放てば、いくら自然治癒を持つイングリットでさえHPを全損して死んでしまう。
だが、幸いにもゲーム内で『聖なるシリーズ』を持ったプレイヤーは2人しかいなかった。
その2人――『勇者』と呼ばれる者と2人同時に戦った事もあったがクリフとメイメイがいれば、イングリットは死ぬ事無く倒すことができたのだ。
逆に言えば、2人がいない状態で『聖なるシリーズ』持ちの勇者複数人と出会ったら殺される可能性が高い。
聖なるシリーズを持った勇者が複数人いたらスタコラサッサと逃げるのが一番の対策だ。
だが1対1ならばアイテム類を駆使して泥仕合に持ち込めば死なない、という自信とプライドがイングリットにはあった。
ともあれ、イングリットは奥の扉に向かって中に入って行く。
キィ、と擦れるような音を立てながら扉を開けて、まず目の前に飛び込んできたのは明かりの少ない暗い廊下。
その廊下を進むと再び扉があり、扉を開けると次は地下へと続く螺旋階段だった。
「お宝の気配がビンビンするじゃないか」
暗くジメジメするような空気が充満し、下を覗けば結構深くまで階段は続いているようだ。
等間隔で壁に取り付けられている発光石が放つ光を頼りに螺旋階段を降りて行く。
コツコツ、と金属製のグリーブを鳴らしながら降りる事10分程。
ようやく一番下に到達し、あったのは何度目かの鉄製の扉だった。
イングリットは迷う事なく扉を開け、レアアイテムに心躍らせながら中へ入る。
が、中にあったのは――
「マジかよ」
ガランと広い部屋の中、部屋中央の床には大きな赤い魔法陣。
その魔法陣中央には天井から垂れる鎖に両手を縛られて拘束された、長い金色の髪がダラリと垂れた少女と思わしき者。
「アイテムじゃないのかよ……」
アイテムではなく、生物とわかると露骨にやる気を失くす。
螺旋階段を下った先というお約束的でこんなにも奥深くに配置された部屋ならば『聖なるシリーズ』があるのでは!? とドキドキしながら扉を開けたのに。
いや、待てよ。諦めるのはまだ早い。部屋の中にあるかもしれない、と部屋の入り口にある壁に取り付けられた発光石を壁からもぎ取って松明代わりに使いながら部屋の中を探索する。
が、イングリットの期待を裏切って部屋の中にアイテム類は無く、奥にもう一枚カギの掛かった扉があってカギを壊して先を覗けば、トンネルのような場所に続いているだけだった。
部屋の中にあるものと言えば部屋の中央で拘束される少女だけという結果に終わった。
「はー。ねえわ。アイテムねぇわ……」
聖なるシリーズが手に入れば自身の攻撃力の底上げになるかも、と期待したがイングリットの企みは消え失せた。
しかし、部屋の中央に拘束される少女を見てある事を思いつく。
(いや、待てよ。この女が武器になるパターンか……!?)
ありえる。
ゲーム内で読んだ本――サブストーリーテキストにも人間の勇者が武器になる少女と旅をし、魔王と戦う物語があった。
勇者が使う武器少女はめちゃくちゃ強く、剣や槍など形態まで自在に変えられる万能武器という扱い。
最終的には魔王に武器少女を寝取られて勇者はボコボコにされるのだが、魔王と対峙する前に戦った四天王を瞬殺していたな、とイングリットは本の内容を思い出す。
(なるほど。聖なるシリーズの正体は武器に変身する女か)
こうしちゃいられん、とイングリットは魔法陣の中へ向かおうとするが足を一歩踏み入れた瞬間、バチバチと稲妻が迸って魔法陣はイングリットの侵入を拒む。
が、イングリットは魔法超耐性持ち。生半可な魔法は効かない。
本来は足を踏み入れた瞬間に体が燃えるような稲妻であったが、魔法陣の放つ稲妻も体に当たる瞬間に無効化されてダメージは一切無し。
脳内に無機質な女性の声がアナウンスされないのが良い証拠だ。
余裕の足取りで少女の傍まで歩み寄り、少女を拘束する鎖を引っ張るが鎖は外れない。
「こういうのは大体魔法陣を壊せば解放されるパターンだろう」
以前、ダンジョンで同じようなギミックがあった時にクリフが解説していた気がするなぁと思い出し、インベントリから黒盾を取り出して黒盾下部の尖った部分を床に叩きつけて物理的に床ごと魔法陣を粉砕しようと試みる。
「ふん! ふん!」
ガン、ガン、と何度か叩きつけると石の床が割れて魔法陣を形成する円の模様が破壊された。
すると、天井から伸びていた鎖がジャラジャラと音を立てながら床に落ちて来て意識の無い少女は床へと崩れ落ちた。
床に倒れる少女に近寄り、回収する前に観察すると――
「こいつ、魔族じゃねえか」
長い金髪を生やした少女の頭には悪魔と思われるやや反った2本の角があり、背中にはコウモリのような小さい翼が生えていた。
さらには尻が半分以上見えているローライズなおぱんてぃから悪魔の尻尾が力なく垂れている。
よく見れば眠る少女の顔はとても容姿が整っていて、視線を下げれば自己主張の激しい大きな胸の膨らみを隠すビキニトップス、尻が半分以上見えているローライズなおぱんてぃ。
本人の趣味で着用しているならば、ビッチ型金髪悪魔美少女といった外見だった。
「うーん。生きてるっぽいな」
イングリットはガントレットを片方だけ外し、眠っている美少女の肌に触れれば人肌の温度が掌に伝わる。
そのまま胸に手を当てて大きな胸を押し潰しながら心臓の鼓動を調べると、生きている証拠である「ドクン、ドクン」という一定のリズムを刻む鼓動が感じ取れた。
そして何より彼女の胸にある大きな果実は柔らかい。
「ハラスメント制限も無いって、もう現実世界確定じゃないか?」
ゲーム内で女性キャラクターの胸や尻、男性キャラクターの局部など性的な部分に触れるのは『ハラスメント制限』というシステムで禁止されており、触れることはできない。
今まで体験してきた現実感のある五感の感触や生物の正しい死。たった今体験したハラスメント制限が無効化されている状況。
信じ難い事ではあるが、自分自身がいる場所は現実であると改めて確信できてしまった。
「どっちにしろ、2人と合流しなきゃな。あいつらと決めれば良いだろう」
現実であろうと、ゲームであろうと、イングリットがやりたい事は変わらない。
イングリットが目指すモノはパーティメンバーである2人も同じだからだ。
さて、あとは脱出するだけ。
しかし、結構な時間を掛けてしまったので上の2人は恐らく傀儡状態が解けているだろう。
「あっちのトンネルを進んでみるか」
イングリットは少女を脇に抱えて、奥にあった扉から出た後に部屋の壁からもぎ取った発光石で、暗い道を照らしながらトンネルを進んで行った。
金髪ヒロイン。
ハーレムの予定はありません。