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幕間 逆襲の豚


 イングリット達が神殿ダンジョンを制覇した2日後。


 陽の光が届かず、常に暗く陰鬱な雰囲気を漂わせる常闇の森では2つの勢力がぶつかり合っていた。


「何なんだ! 何なんだよ!!」


 トレイル帝国第3魔法小隊の指揮を執るエルフ族の小隊長は太い木の幹に体を隠しながら相手への怨嗟を叫ぶ。


「何で魔法が効かないんだ!?」


 彼が焦る理由はただ1つ。


 今現在戦闘を繰り広げている魔獣集団の頭――オークキングにエルフ自慢の魔法が全く通用しないからだ。


 小隊長が上司から常闇の森に巣食うオークを殲滅せよ、という命令を受けたのは1週間前。


 1週間前に行った第一次攻撃の際は、範囲殲滅の如く魔法を連射しただけでオークを20以上も殺せた。そう。1週間前は圧勝だったのだ。


 だが、今はどうだろうか。


 1週間前と同じ戦術で挑めば余裕で終わる任務だと思っていたのに。


 今回はオーク集団の先頭で盾を構えるオークキング1匹に魔法が全て防がれる。否、防がれているのではなく無効化(・・・)されてしまっている。


「クソッ! クソッ!」


 魔法を無効化され、驚きと動揺を隠し切れずにいるうちにオーク集団の突撃が開始。雪崩のように押し寄せてきたオーク達に部下数名が殺されてしまった。


 何とか態勢を整えようと後方に下がったは良いものの、事態は好転していない。


 むしろ、追い詰められている状況。


「中級魔法を撃てるヤツは!?」


「もういません! さっきの攻撃で殺されました!」


 現在のエルフ達が主に使う魔法は初級魔法――イングリット達でいうところの第1~2階梯魔法。中級は第3階梯と同等――であり、初級魔法が通用しないのであれば中級魔法で、と思いついた小隊長であったが時既に遅し。


「いやあああ!!」


「ネリー!! ぎあああ!!」


 幹から顔を出して叫び声の方向を窺えば、1匹のオークが女性隊員の足を掴んで群れの奥に引き摺っていく様子が。


 その傍らでは引き摺られて行くネリーの恋人である男エルフがオークの持つ棍棒で腕を粉砕されている。


「ちくしょう! ちくしょう!」


「撃て! とにかく魔法を撃って蹴散らすんだ!」


 そこら中から聞こえる部下達の混乱した叫び声。最早、指揮を執る執らない以前に恐慌状態に陥ってしまっている。


 これでは統率を取るなど不可能だ。


「なんで……楽な任務のはずだっただろうが……」


 大混乱と断末魔が渦巻く中、小隊長は悲壮な表情を浮かべながら俯いてブツブツと呟く。

 

 何でこんな事に。街には帰りを待ってくれている妻もいるのに。もうすぐ子供が生まれるのに。


「こんな所で死ねる――」


 彼の決意は少しばかり遅かった。


 顔を上げ、決意を漂わせた表情を見せるも隠れている木の向こう側に立つのは盾と槍を持ったオークキング。


 オークキングが振り上げる槍のスピードがとんでもなく遅く見えるが、同時に自分の体も動かない。


 何故だろう? そう不思議に思っているうちに彼の視界は真っ暗になった。



-----



「ブモオオオオ!!」


「「「 ブモオオオオオ!!! 」」」


 自分達のテリトリーと主張する、常闇の森に侵入して来たエルフを残らず殲滅したオークキングは勝利の雄叫びを上げる。


 彼の雄叫びに呼応して、部下達であるオークも各々が持つ武器を掲げながら勝利を称えた。


 オークキングにとって、これは初めての大勝と言えるだろう。


 数匹の弱いオークは死んだが、それ以上にエサと繁殖用のメスを多数手に入れるという戦果。


 死んだオークは増やせば良い。仲間の死よりも、強力な魔法を使うエルフ相手に圧倒できたという結果自体が素晴らしいと彼は感じていた。


(ソレモ、魔族の王のオカゲ……!)


 彼は2日前に出会った強者――黒い鎧の男を思い出す。


 全身から滲み出る強者の匂い。決して油断していないという佇まい。一目見ただけでマズイと思える、禍々しい雰囲気の大盾。


 黒い鎧の男だけでなく、隣に控える2人も同等の王。3人の強者を同時に相手するなど自殺行為以上に愚かな事だ。


 あの時出会った魔族の王。今まで出会った事の無い種類の、エルフ以上に脅威を感じる――抵抗するだけ無駄だ、と瞬時に感じさせる程の相手。


 敵対しないで良かった。昔狩ったエルフが持っていた『本』という物でコミュニケーションというモノを学んでおいて良かった。


 オークキングはイングリットの姿を思い出しながらぶるりと体を震わせ、あの時にとった己の判断を内心で褒め称える。


「ブモ、ブモモ? (キング、どうしたんスか?)」


「ナンデモ、ナイ。魔族の王。盾、強イ」


「ブモモ! (そうっスね! その盾、マジパネーッス!)」


 ヒョコヒョコと寄ってきた部下がオークキングの持つ盾を見ながら手を叩いて称えた。


「ゼッタイに、アノ王達ト、テキタイ、スルナ」


 これだけ強力な装備を簡単に渡してくる相手だ。


 馬鹿な部下が手を出せば一瞬で殺されるだろう。それに加えて、自分達の群れを敵視されても困る……というか対処できない。


「ブモモ! ブモ? (敵対なんてしねーッスよ!! キングの言う、礼儀を持って接するってヤツですよね?)」

 

「ソウダ。ミカケタラ、オシエロ」


「ブモモ! (かしこまり~!)」


 オークキングは部下と話を終えると群れの中へと歩いて行く。


 群れが囲むのは捕まえた女性エルフと満身創痍で動く事も出来ない男性エルフ数名。


 エルフ達を囲むオークは口から涎を垂らし、キングの指示を今か今かと待つ。


 女性エルフ達はこれから自分の身に起こる出来事を想像して絶望の表情を浮かべながらひたすら泣き続け、男性のエルフはヒューヒューと細い呼吸をしながらもうすぐ訪れる死を既に受け入れていた。


 オークキングは自制が切れそうな部下達と戦利品であるエルフを一瞥した後に、群れ全体に指示を出す。


「エルフの、シタイ、アツメロ。オチテル、ブキモダ。カエッテ、ツギノ戦イニ、ソナエル!」


 今回殲滅したエルフ達が街に帰って来ないと分かれば、きっとまたエルフがやって来る。


 次は今回の倍は来るかもしれない。もっと多いかもしれない。


 魔族の王から貰った盾があれば勝てるかもしれないが油断はできない。


 次がやって来る前にオークを増やす。エルフの持っていた武器を鋭利に研ぐ。部下達に戦術を叩き込む。


 やる事は山積みだ。


 しかし、魔族の王は言っていた。エルフを少しでも良いから減らせ、と。減らせば敵対はしない、と。


 彼らと敵対すれば待っているのは確実な死。ならば、エルフを殺す方が生き残れる確率は高い。


 常闇の森で誕生したオークキング。彼は安息を手に入れる為に、これからもエルフと戦い続ける。


読んで下さりありがとうございます。


章の合間などに各勢力等の話を挟んでいこうかなと思ってます。

次回投稿は金曜日です。

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