幕間 聖樹王国
汚れ1つ無く白く美しい外観。内部は国の象徴である聖樹のような、美しく力強い緑色の葉を模した意匠が散りばめられたベリオン聖樹王国王城。
王城の中、4階のフロア一画にある大会議室には10人以上が座れる巨大な円卓が設置され、そこには国のトップと重鎮達が揃って顔を合わせていた。
大会議室の窓から見えるのは真っ青な空と輝かしい太陽。そして、4階の窓から覗いたとしても見上げる程、天まで伸びる巨大な大樹。
窓に映る景色を背景にしながら円卓に座るのはベリオン聖樹王国の王女と彼女の父である現王。
「それで、キプロイ卿。報告というのは?」
2人は国を支える部下の1人に呼ばれて大会議室までやって来た。
王女と王が思い思いの日々を過ごしている中、政治関連で部下に呼ばれるという事は聖樹王国が大陸1の強国となってからは珍しい出来事だ。
特に軍の管理を預かる軍務大臣からの誘いとなれば尚更。
その証拠に王女であるクリスティーナは現状が理解できないという表情を浮かべながら可愛らしく首をチョコンと傾げながら問う。
「はい。王女殿下。まずはご足労頂き、誠に申し訳なく。大事になる前に、陛下と殿下にご報告するべきだと判断致しました」
聖樹王国軍務大臣という重要なポストに就くキプロイ・シダは席から起立した後に王と王女に頭を下げる。その後に他にも集まっている別部署の大臣達にも頭を下げた。
「良い。報告というのは大事だ。早速だが内容を頼む」
王であるキュリオは頭を下げたキプロイに手の平を向けながら制して先を急がせると、キプロイは返事をしながら頷き報告を始める。
「はい。先程、観測所から塞き止めていた神脈が一部解放されたと報告がありました」
キプロイが告げると他の大臣達は短くながらも驚く。
神脈の封鎖。これは人間達が神に召喚され、この世界の神とその神に仕える魔族と亜人族を駆逐する為に500年以上前に行った特殊作戦。
所謂、神話戦争で敵勢力の力を削ぐ為に人間勢力が戦争初期に行った作戦だ。
作戦は上手く成功し、相手の力をジワジワと削り取る事に成功。その末に敵勢力の大半を討ち、神すらも撃退したのだ。
その結果、人間達は大きな繁栄を手に入れ、八方塞りになった魔族や亜人が何か大きな行動を起こす事もなかった。
今までは。
男神陣営にとっては偉大な一歩。人間勢力にとっては敵勢力に反抗されたという事だ。
「ふむ。そうか」
「それだけですか?」
が、キュリオとクリスティーナは表情を変えない。
むしろ、だからなんだ? といった感じを見せる。
「神脈を1つ解放されただけではないですか?」
王女は続けてキプロイに問う。
「はい。確かにそうです。ですが、封鎖装置の守護者と装置を壊した者が相手に現れたという事。これが一番重要な事かと思い、報告させて頂きました」
人間勢力も男神を撃退したからといって、諸手を挙げて繁栄を謳歌してきた訳ではない。
神話戦争時代に使っていた兵器を投入し、封鎖地点を守護させてきた。
兵器自体は今に比べて古い型になるものの、神話戦争時代に戦っていた相手に対しても猛威を振るった物だ。
故に現状衰退し続ける敵勢力が簡単に突破できるような代物ではない。
「なるほど。どこの封鎖地点だ?」
「はい。陛下。トレイル帝国南部の森にある場所です」
王も相手が簡単に巻き返しを図れる事など微塵にも考えていない。兵器を1つ破壊した程度で自国の国防が揺るぐ事などあり得ないと知っているからだ。
しかも場所を聞けば僻地も僻地。しょうがなく養っている相手の国にある場所ではないか。
王は全く、と言いながら溜息を零す。
「確か初期の実験施設が併設された場所でしたか」
白髪交じりの黒髪と口ひげを携え、ヨレヨレの白衣を着用した男性――聖樹王国の研究機関トップの男であるトッド・マツイがキプロイの横から口を開いた。
「当時、兵器開発の一環で生物兵器を研究してた場所ですよ」
「ああ! あの場所!」
トッドの発言にクリスティーナも合点がいったようだ。ようやく場所が分かったとばかりに笑顔を浮かべる。
「初期も初期の研究ですね。だが、今の礎となった研究です。あそこに残した兵器は不出来ながらも当時一番強力だったモノなんですがねぇ」
トッドはしみじみと当時を噛み締めながら何度も頷く。
「う~ん。初期の兵器を破壊する者ですか。……生き残りかしら?」
当時の戦争相手が生き残っていれば面倒だ。そう、厄介ではなく面倒。わざわざ自分達が腰を上げて動く程でもなく、かといって放置しっぱなしも問題。その程度の事。
どうしようか、とクリスティーナが悩んでいると横に座るキュリオが口を開く。
「まぁ、確かにキプロイ卿の言う通り、僻地の封鎖地点であろうが我が国の兵器を破壊したというのも事実か。南に一当てして炙り出すのも良かろう」
「そうですわね。そんな相手がいるなら是非、欲しいわ」
即判断を下した父の顔を見ながら頬をほんのり赤く染めるクリスティーナはとびきりの笑顔を父へ向ける。
その笑顔を受けたキュリオも穏やかな笑顔を浮かべて娘の頭を撫でた。
「では、ファドナにやらせてみましょうか。そろそろレプリカの性能確認もしたいのでは?」
キプロイは横に座るトッドへ視線を向けると彼はパチンと指を鳴らして頷く。
「おお! そうでした! この前、レプリカの改良をするか否か議題に上がってましたな! 忘れておりました! はっはっは!」
レプリカの1本が魔族の男に奪われたという件をファドナに駐留する教導官から報告を受け、レプリカの性能に疑問が上がっていたのをトッドは言われて思い出す。
そんな彼にキプロイは「自分のハマっている研究以外にも目を向けて下さいよ」と小言を漏らすが言うだけ無駄なのも知っている。
「では、その件の取り纏めはキプロイ卿に任せる。決まったら報告を上げるように。本日は以上か?」
「はい。陛下……あ、そうでした。王女殿下。勇者達はどうしておりますか?」
キプロイが終わり際に確認しようと思っていた事を思い出し、担当であるクリスティーナに問う。
「ええ。問題ありませんよ。何やら楽しそうな話し合いを連日行っているようです」
「そうでしたか。あの御方もご満足を?」
キプロイがそう問うとクリスティーナは満面の笑みで頷く。
「ええ。大満足だそうです」
クリスティーナがそう告げると大会議室にいた全員が本日一番の「おおっ」と歓声を上げる。
「やはり異世界召喚は良いですね。もっと大量に呼べるよう改良をお願いしますね」
クリスティーナがトッドの顔を見ながら微笑むと、彼も笑顔でお任せ下さいと言った後に笑顔で頷いた。
「勇者は今後どうお使いになる予定で?」
キプロイが手帳とペンを取り出して追加の質問をするとクリスティーナは可愛らしく頬に指を当てながら少々悩む。
「数名が魔族と戦いたいって言ってますので、私としては魔族や亜人と戦わせてみたいんですよね。面白そうですし。あとは~……1人か2人は手元に残して遊びたいと思ってます。今後、邪魔になりそうな2人は早々に退場して頂きましょう。今日これからにでも対処する予定です」
あの御方からも追加を仰せつかっておりますし、と最後に付け加えて今後の予定をキプロイへ告げる。
キプロイもクリスティーナの言葉をしっかりと手帳にメモする。
「かしこまりました。では、ファドナの件あたりで1人名程使ってみますか」
「それが良いかもしれませんわね」
クリスティーナはニコリと微笑む。
彼女の微笑みに釣られて他の者達も笑みを浮かべるが、それは第三者が見ればとても邪悪に思える微笑だった。
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