表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/306

60 初ドロップ


「ゴ、ゴッド級……」


「マジかよ……」


 メイメイの鑑定によって、金ピカオークからドロップしたアイテムは幻とも言えるゴッド級と判明。


 イングリット達が持つ最高等級であるレジェンダリーよりも1つ上であるゴッド等級のアイテムは、長年プレイヤーとして冒険をしてきた3人でも見るのは初めてだ。


 あまりの唐突なアイテムドロップに言葉を失っていた2人はゴクリと喉を鳴らした。


 その後にアイテムを鑑定したメイメイへと揃って視線を向ける。 


「メ、メイ。これはどんな効果を持ったアイテムなんだ?」


 四角い箱に蛇口が付いている、という大層ふざけた外見であるが、それでもゴッド級はゴッド級。


 イングリットの装備する黒い鎧である『憤怒の鎧』やクリフの持つ『魔導杖』メイメイが作り上げた技巧装備よりも上だ。


 レジェンダリーであるそれらは特殊な効果や機能を持った装備品で、通常の装備品とは一線を画す逸品。


 ゴッド等級のアイテムとは、それ以上の代物なのだ。イングリット達が緊張するのも無理はない。


 ともあれ、今回のアイテムは見た目からして装備品ではないのは確実。


 特に目を引くのは蛇口だ。


 蛇口 = 水が出る と誰もが連想するだろう。イングリットとクリフも例に漏れず、何かしらの液体が出るアイテムなのでは、と考えている。


 ゴッド級なのだから、ただ水が無限に出るという程度なんて事はないだろう。


 例えば上級ポーションが出る。例えば体力も状態異常も全て一瞬で完治するエリクサーが出てくる……なんて考えながら期待を膨らませていた。


「このアイテムの効果は――」


 満を持して、アイテム鑑定スキルを持ったメイメイの口から飛び出した言葉は―― 


「焼肉のタレが無限に出てくる……だってさ~」


 上級ポーションでもないっ……! エリクサーでもないっ……!


「えっ」


「えっ」


 液体は液体でも焼肉のタレっ……! まさかの料理アイテムっ……!


 これがクソゲと言われたアンシエイル・オンラインの真骨頂っ……!


「焼肉のタレじゃと!?」


 イングリットとクリフが口を半開きにしながら放心する中、唯一喜び驚くのは焼肉のタレ中毒者であるシャルロッテだ。


「しかも出てくる甘口~」


 メイメイがシャルロッテからゴッド級アイテム――無限焼肉のタレマシーンを受け取った後に蛇口を捻るとだばだばと茶色い液体が出る。


 シャルロッテはその無限に流れ出る液体を指先で掬い、口に運ぶ。 


「甘口なのじゃ!! 本当に甘口なのじゃ!! しかも銘柄はエバランじゃぞ!? む!? 違うのじゃ! エバランはエバランでも深みが違うのじゃ!!」


 中毒者たるシャルロッテは一舐めしただけでタレに含まれる複雑な味を舌で読み取ると複数あるタレの銘柄(色々な製造元がドロップする)を正確に当てて叫んだ。


 しかも彼女の言う通り、このゴッド級アイテムから流れ出るタレは通常のモノとは違う。


 エバラン・ゴールデンタイプ。スーパーで売っている通常版が200円ならば、このゴールデンは600円するであろう特別仕様版だ。格が違う。


「まさかゴッド級が……。焼肉のタレ……。ゴッド焼肉……」


 しかし、廃人2人は味など求めていない。


 クリフは遠い目をしながらブツブツと呟き、イングリットはまさかのアイテム効果にうな垂れる。


 が、そんな2人にメイメイが「チッチッ」と指を振った。


「焼肉のタレは焼肉のタレでも~。効果が違うんだな~」


 そう言って、舐めてみろと2人に促す。


 イングリットとクリフはお互いに顔を見合わせた後にシャルロッテと同様、タレを指で掬って口に含んだ。


「「なっ……!」」


 その時2人に電流走る。


「なんだッ!? この体の底から湧き出る力はッ!?」


「滾る! 普段、もやしな私も今なら10キロ走っても疲れなさそう!?」


 そう。タレを口に含み味わった瞬間、体の奥底から眠っていたマグマが目覚めるかのように力が沸いて来るのだ。


「これは摂取すると気力や体力……ゲームのパラメーターで言うところのスタミナがブーストされま~す!!」


 スタミナとは疲労値に直結するパラメータだ。これが低いとゲーム内でも走る速度が遅かったり、敵の攻撃を防御できる回数が減ったりしていた。


 このスタミナ値を上昇させるアイテムや魔法は存在するが、ゲーム内では最大で+100程度が既存の上昇数値だ。


 しかし、この焼肉のタレは違う。


 現実世界なので個人差等があって正確な数値は測れないが、もしもゲーム内にある『アイテム的な統一パラメータ』で表すとすれば既存の上昇方法の5倍。一舐めで+500される神アイテム。


 さらに料理スキルを持ったプレイヤーが調味料として使う事でその効果は更に上がる。使い方色々。万能調味料。味の宝石箱を倍プッシュするのも夢じゃない。


 まさにゴッド級。神。神が創りしアイテム。


「すごいのじゃ! 美味いし力が湧いてきて! 体が熱くなってくるのじゃ!」


 最早禁断症状とばかりに焼肉のタレを指で掬ってペロペロするシャルロッテ。


 舐めれば舐める程、内なるマグマは活性していく。次第にシャルロッテの頬は上気したように赤くなっていき――


「はっ、はっ、なんじゃ、なんか、おかしいのじゃ」


 呼吸は荒くなり、目をとろんとさせながら太ももを擦り合わせる。


「あぁ……。オーバードーズ(過剰摂取)だね……」


 何事にも限度はある。

 

 ゲーム内ならばパラメーターが限界値になったところでデメリットは無い。しかし、ここは現実世界だ。


 気力が漲る栄養ドリンク的な効果がある物を過剰に摂取すれば体に異変が出るのは当然だろう。


 クリフは薬師の時に学んだ薬学の知識――ゲーム内の世界観設定なようなモノで攻略には意味が無かったサイドストーリーテキスト――を思い出しながら脳内でシャルロッテの症状を照らし合わせた。


「どっ、どうすれば、いいの、じゃ」


 シャルロッテは「はっ、はっ」と荒い呼吸を繰り返しながら瞳を潤ませてクリフに問う。


「効果を解消すれば良いだけなんだけど……」


 そう言いながらチラリとイングリットを見た。


「仕方ねえ……」


 クリフに向けられた視線の意図を理解したイングリットはシャルロッテの下腹部にある淫紋に指を伸ばす。


 そして、グッと指を押し付けると――


「んっほおおおおおお!!!」


 いつもの刺激でいつも以上に。


 シャルロッテの中にあるグツグツと煮だったアレなマグマは大噴火を起こす。


 彼女の股間から噴出す謎の液体はロケットブースターのような勢いで噴射した。


「お"っお"っ……」


 瞳にハートマークを浮かべながらビクビクンッと体を痙攣させたシャルロッテはぽてりと地面に倒れる。


 彼女の噴射した謎の液体は地面を盛大に濡らし、ダンジョンの空に浮かぶ太陽の光を受けて小さな虹が出来ていた……。



-----



「んぐ、んぐ……ぷはっ。酷い目にあったのじゃ」


 ゴッド級焼肉のタレを摂取しすぎた事でとんでもないイき恥じを晒したシャルロッテであったが、たっぷり30分程気絶したところで復帰する。


 体から大量に噴射した水分を補給するべく、水筒の中身を一気飲みして喉を潤していた。


「そりゃあアレだけ摂取したら、そうなるよ」


 一舐めで効果絶大なタレをペロペロと大量に舐めてしまった故に起こした悲劇。


「とても美味しいのに……あまり使えないのはつまらんのじゃ……」


 最早ゴールデンしか受け付けない、とばかりに味覚を調教されてしまったシャルロッテ。


 ドリーミング・カウからドロップする通常版をメインにしなければならないのか、とうな垂れるが……。


「まぁまぁ。普通の食事に使う時は、この小皿に垂らしてから継ぎ足さなければ大丈夫だよ」


 クリフはインベントリから食事に使う白い陶器の小皿を取り出し、ゴッド級焼肉のタレを垂らす。


 彼が垂らした量は普通の者ならば満足するくらいの適量だろう。しかし、彼女はジャンキーである。


「こ、これだけ……。通常版も使って我慢するのじゃ……」


 何にでもタレかけるウーマンだ。


「どんだけキマってんだよ……。絶対飽きるだろ。塩タレとか使って誤魔化せよ」


 と、何気なく零したイングリットの発言にピクリと反応したシャルロッテは目をグワッと見開いた後にグルリと勢いよく顔を彼の方へ向ける。


「塩タレ!? 塩タレとはなんじゃ!?」


 瞳を血走らせ、ぐいぐいとイングリットへ迫る。


「こええよ! 塩タレってのは……焼肉のタレの親戚みたいなもんだ! 海の魔獣からドロップする料理アイテムだ!」


「海!? ここで採れるのか!? どうなのじゃ!? どうなのじゃ!?」


 シャルロッテはイングリットの腕を掴み、ぶんぶんと振りながら必死の形相で問う。

  

「うぜえ! ここじゃ無理だ! 日替わりダンジョンの海バージョンじゃないとドロップしねえ!」


「それはどこにあるのじゃ!? 海の方か!?」


「しらねえよ!」


 イングリットは絡みつくシャルロッテを振り解こうとするが、聞き出すまで離れぬという執念を全力で解放するシャルロッテを中々振り解く事ができない。


「陸地バージョンの日替わりダンジョンが突然現れたし~。その内、アップデートで追加されるんじゃない~?」


「という事は、ダンジョン攻略で解放されるかも?」


 メイメイとクリフがこの日替わりダンジョンが出現した原因たるダンジョン攻略――楔の破壊によって更なるアップデートがあるかもしれない、と告げた。


「そうじゃ! そうに決まっておる! そうと決まれば次のダンジョンに行くのじゃ!!」


 まだ見ぬ未知なるタレを求め、シャルロッテはむふんむふん、と鼻息を荒くしながら胸元で握り拳を作る。


「アホか。まずは補給と装備の修繕だ」


 神殿ダンジョン最奥に出現した『穢れを纏いし魔獣』との激闘。


 イングリットは普通にしているが、彼の身に纏う黒い鎧は所々ヘコミが出来ていたり、強打の直撃を受けた腹部の部分は外装にヒビが。その影響で鎧内部にあるインナー装甲にも影響が出ていた。


 メイメイも触手をガードした際にガントレットが完全に壊れているし、使用した矢やボルト類なども補給しなければならない。


 クリフも魔力ポーションを随分と使用してしまった。特にポーションは現実世界の市場では手に入れる事が出来ないので、彼自ら生成しなければならない。


 つまり、次のダンジョンに向かう為にはかなりの準備時間が必要という事だ。


「修繕か~。日替わりダンジョンがあるから材料は採取できると思うんだけど~……。工房がないとキツいかも~」


 イングリットの鎧に使われるブラックアダマンタイトやオリハルコン、メイメイのガントレットに使われていたミスリル。


 矢やボルトに使用する木材や鏃部分の金属系鉱石、クリフの生成するポーションの材料となる薬草類などなど。


 それらは一部レア素材でもあるが日替わりダンジョンで調達可能だ。


 ただ、装備を製作・修繕担当するメイメイが存分にその腕を振るうには工房と呼ばれる施設が必要だ。


 金属を溶かす炉、専用の台座や道具。


 使用する道具類はメイメイのインベントリに収められているが、金属を精錬する為の溶鉱炉だけはゲーム内でもアイテム化されておらず、溶鉱炉だけは街にある工房という施設の権利書を買うと使用可能になる施設の備品だ。


 今回の攻略で受けたダメージを修繕するには工房を使う事は必須であった。


「魔王都でも金属の精製はしてるんだよな?」


「うん~。市場に鉄のインゴットを売ってるお店もあったから炉はあると思う~」


 イングリットが問うとメイメイが答える。


 彼女が魔王都を最初に訪れた際、傭兵組合からの道すがら店を覗いて炉がある事は既に確認済みだ。


 その答えを聞いたイングリットは兜の中でニヤリと笑みを浮かべた。


「ならば用意すりゃいい」


「どうやってじゃ? 魔王都の工房を借りるのか? それとも買うのか?」


 シャルロッテは頭の上に疑問符を浮かべながら首を傾げる。


「いるじゃねェかよォ~? 俺等に借り(・・)があるヤツが」


 ケケケ、と笑うイングリット。


 一方で、日替わりダンジョンのどこかにいるレガドは凄まじい悪寒を感じていた。 


読んで下さりありがとうございます。

明日から出張なので次回投稿は来週の月曜くらいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ