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58 日替わりダンジョン 3


 石畳が広がる敷地内中央に聳え立つ塔の入り口にイングリット達は立っていた。


 塔の入り口には10メートル程の大きな両開き扉が設置されているのだが、魔王軍が調査中の為か既に開けられている。


 扉を通って塔の内部へと足を踏み入れると、まず視界内に入るのは下へと続く階段。


 それと、天井からいくつもの鎖で巻かれながら吊り下げられている巨大なダブルターミネイテッド型クリスタルの下部分だ。


 魔王城よりも高く、とんでもない高さから吊り下げられているクリスタルも塔の高さ同様に大きい。むしろ、この巨大なクリスタルを包むのが塔の役目と言わんばかりだ。


「すごいのじゃ……」


 シャルロッテは巨大で美しいクリスタルに息を呑む。


 彼女が初めて経験した神殿ダンジョンとは大違いの光景。これだけを見ればダンジョンが珍しく、すごい代物だというのも頷ける。


 神殿ダンジョンは暗くジメジメしてどこか嫌な雰囲気を纏っていたが、この日替わりダンジョンの雰囲気は神聖さを感じ取れる程に対照的だ。


 その神聖さの象徴たる巨大なクリスタルは窓の無い塔内部で淡く透明な光を発して照明の代わりも務めているので足元には困らない。


 時よりやや強く発光すると、下部先端から水の雫が落ちるように光の粒が零れていく。


 光の粒が落ちて行く先――そこが日替わりダンジョンの入り口であるダンジョンゲートだ。


 ダンジョンゲートは塔の入り口にある階段を降りて地下のホール中央に設置されており、その真上にクリスタルの下部先端がピッタリ合うよう配置されている。


 イングリット達は地下のホールへと降りて行き、ダンジョンゲートの前へと歩み寄る。


「ここが入り口なのか?」


 シャルロッテがまじまじと見つめるダンジョンゲートの外見はとても品のある白い扉だ。


 扉は高級感漂う白い枠組み。開け放たれている両開きの扉には金で描かれた女神と男神の姿絵が装飾されている。


 そして、開いている扉の先には青々と生い茂る草原が映し出されていた。


「草原が映っておるのじゃ」


 シャルロッテが指でダンジョンゲートの表面をツンツンと触ると水面に出来る波紋のように映し出されている風景が波打つ。


 波打った風景にビックリしたシャルロッテは慌てて手を胸へと引っ込める。波打った風景はものの数秒で元へと戻り、先程と同じ長閑な草原を映し出した。


「この前に制覇した神殿ダンジョンは階層型と呼ばれていてね。対して日替わりダンジョンはフィールド型と呼ばれるダンジョンなんだ」


 階層構成の自然発生ダンジョン等とは違って、男神によって創造された日替わりダンジョンは1枚のフィールドのみで構成されたダンジョンだ。


 上下のフロアは存在せず、端から端まで決まったフィールドが存在するだけ。運営チームの目線で見ると日替わりダンジョンは横長の地面が異空間に浮いている構造。


 入り口となるダンジョンゲートは男神が創造した専用のフィールド(異空間)へと繋がる空間転移機能が備わっており、その空間転移機能を稼動するエネルギーは吊るされた巨大なクリスタル――神力の結晶体から垂れる神力だ。


 余談であるが、この創りの正式名称を神造ダンジョン形式と言う。


 対して自然発生ダンジョンに多い階層型は地下へと伸びているが、それは地下にある神脈から膨大なエネルギーが地上へとぶち抜かれるように上昇しているからだ。


 つまり、階層型ダンジョンは神脈に近い地下から発生して時間を掛けて地上まで造られて行った末に地上に入り口が出来るのだ。


「さっさと行くぞ。アイツ等も入るようだ」


 イングリットがそう言いながら親指で階段の上を指すと、そこにはレガドとエキドナが部下を連れて姿を現した。


「そうだね。ささっと済ませて、今夜はベッドで寝たいね」


「ついでにポークの肉も採取して今夜は肉祭りにしよ~」


 神殿ダンジョンを制覇してから連続でのダンジョンアタック。しかも、魔王都に来るまでの道中は街に寄らずにキャンプしながら一直線に帰って来た。


 疲労の概念が無いゲーム内ならば良いが、現実となれば別だ。


「そうじゃのう。焼肉のタレと白米をたらふく食べて……ぐっすりと寝たいのじゃ」


 貴族生活をしていたシャルロッテもテントで寝る行為にはすっかり慣れてはいるが、ふかふかのベッドで眠る心地良さを知っている分辛さも増している。


 街に帰って来た時くらいは硬い地面に横になるのではなく、快適な睡眠を取りたいと思うのは出自に限らず共通だろう。


「んじゃ、行くぞ」 


 パーティメンバーの要望を聞いたイングリットは躊躇う事無くダンジョンゲートに腕を伸ばして侵入していく。


 ズブズブ、と映し出された風景へと入り込んで行くと他のメンバー達も続いて侵入。


 その様子を見ていたレガドとエキドナ達も走ってダンジョンゲートへと近づき、イングリット達に続くように日替わりダンジョンへと侵入して行くのだった。



-----



「ううむ。本当にここがダンジョンなのか。前の所とは大違いじゃな……」


 シャルロッテはダンジョンゲートを潜った先――扉に映し出されていた草原に立ち、周囲をキョロキョロと見回す。


 足元に広がっているのは青々と育った背の短い草。視線の遥か先にあるのは木々で覆い尽くされているであろう緑色の高い山。その上空に広がるのは雲1つ無い青天。


 長閑で自然溢れる景色から齎される、彼女の肌と長い髪をくすぐる爽やかな風。


 見渡す限り黄土色の乾いた荒野が広がる魔王国内とは180度違う。美しく自然に満ちた景色。


 目の前に広がる景色と比較するならば、神殿ダンジョンに向かう際に侵入したエルフの住まうトレイル帝国領土だろう。


 トレイル帝国領土内も自然が溢れて羨ましい景色だったのは、シャルロッテにとっても記憶に新しい。しかし、その時の衝撃以上に目の前に広がる景色は純粋に『美しい』と感じていた。


「おい、シャル。見てみろ」


 心地良い風を感じながら美しい景色に心奪われていると隣にいたイングリットから声を掛けられる。


 彼は左斜め前方向を指差して告げる。


「あれがドリーミング・カウだ」


「なんと……。あれが焼肉のタレを落とす相手か!」


 イングリットの指差す方向に視線を向けると白い体に黒い模様をつけた4足歩行の魔獣が、地面に生える草をモシャモシャと食べていた。


 頭には確かにミノタウロス族のような角が生えており、尻尾も同じモノのように見える。だが、イングリット達曰く、ドリーミング・カウは人語を喋らない。故に魔獣だと言う。


 シャルロッテが初めて見るドリーミング・カウをまじまじと観察していると、あちらもシャルロッテの視線に気付いたのか食事を摂る為に下に向けていた視線を上げて来てシャルロッテとバッチリ目が合う。 


「ンモォ~? (ブボボボ!)」


「な、なんじゃあ!? ヤツの尻尾の下から何か飛び出したのじゃ!?」


「あれはただの糞だ。攻撃性は無い」


「糞は植物を育てるのに使えるアイテムだね」


「薬師が自宅の庭で薬草を育てるのに使ってたね~」


 一部の生産職にとって熱い需要がある、ドリーミング・カウの糞。


 ニュービー達が日替わりダンジョンに通いながら最初の装備を一式揃える為に手っ取り早い金策の方法が糞拾いだ。


 日替わりダンジョンに毎日ポップするドリーミング・カウ。毎日糞拾いをして糞を金に変える。まさに真の錬金術だ、とイングリットは語る……。


「後ろに団体さん~」


 メイメイの言葉を聞いて全員が後ろを振り返ると、そこにはレガド達がゲートを潜って姿を現したところであった。


 イングリットと目が合ったエキドナは口角を吊り上げ、ニヤッと笑う。


(ふふふ。付いて行くのは断られていない! 干渉はしないという命令だが、国の為に少しでも有益な情報を持ち帰らねば!)


 エキドナ達はイングリットに同行を断られた。しかし、後ろから付いて行く(・・・・・)のは彼女達の勝手、という解釈だ。


 とんでもない名案である。彼女にとっては10年に1度浮かぶか浮かばないかレベルだ。


 レガドにこの案を提案した際は少々迷っていたが結果的に採用された。故に名案。


「どうする?」


 クリフは後方に控えながら自分達の動向を窺うエキドナ達から視線をイングリットへ向けて問う。


「能力アップの補助魔法(バフ)を寄越せ。一直線に向かう」


 クリフ同様にエキドナ達の考えを察したイングリットは目標までの最短ルートを選択。


「了解」


 クリフはイングリットへ杖を向けながら各種能力アップのバフを唱えて付与する。


 バフの付与を確認したイングリットはインベントリから大盾を引っ張りだして片手で持つ。


 もう片方の腕にはクリフを脇に抱えてスタンバイ。


「よし! メイ、シャル! 背中にしがみ付け!」


「よしきた~!」


「背中に? まぁ、楽が出来るから良いのじゃが……」


 神殿ダンジョンの2層目で巨大鉄球から逃げていた際に行ったスタイルの大盾構えバージョンだ。


 能力アップによって身体能力が2倍以上に向上しているイングリットにとって、3人のパーティメンバーを抱えていようとも通常の重さは感じない。


 神殿ダンジョン2層目のようにひたすら走り続ければ疲れはするが、今回は距離が稼げれば少し休憩する事も出来るのだ。何も心配する事は無い。


「しっかり掴まってろよ!」


 イングリットは背中に2人を背負い、左脇にはクリフを抱えた状態で右手のみで大盾を正面に構える。


 盾師の十八番であり基本的な攻撃スキル。盾を構えての突撃(チャージ)だ。


 未だ武術スキルが発動しているのか、していないのかは不明であるがチャージは大盾を構えて一直線に走る(突撃)だけだ。発動もクソもない。


「行くぞオラァ!」


 イングリットは最初の一歩が地面に足がめり込む程に強く踏み込み、力を脚に集中させて走り出す。 


 走る度に地面の表面を抉るように、土を巻き上げながら猛スピードで前方へ向かって突撃して行った。


 その一連の様子を見ていたレガド達はポカンと口を開けながらイングリットの背中を見送る事しか出来ない。


「あ、あ、あ、あ……」


 あれは何だ、と言いたいのかレガドの部下の1人が3人の魔族を体に纏わせながらもあり得ないスピードで走って行くイングリットを指差す。


「あの発動してた魔法……。失われた古代魔法ではないですか……?」


「あ、ああ……」


 その横ではエキドナの部下がクリフの使った補助魔法を見た感想を漏らすと、付与術を得意とするエキドナも目の当たりにした魔法に短い言葉でしか吐き出せない。


「いきなり何も無い場所から大盾が出現したような……。な、なぁ。お前も見たよな?」


 別の場所ではインベントリから大盾を取り出す瞬間を見た者がゴシゴシと目を擦ってから横にいた同僚へ同意を求める者。


(やはり、古の王種族……!)


 メイメイの強力な武器を見た事があるレガドは彼らが王種族であるという魔王や他の4将達の推測を疑ってはいない。


 しかし、今回の件を見たレガドの中ではイングリット達3人が王種族であるという推測(・・)から確信(・・)へと変わった瞬間であった。


読んで下さりありがとうございます。

次回は明日です。

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