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5 突撃! 敵国の宝物庫


「え?」


「脱げ。着てる鎧を全部脱げ」


 イングリットに命令された騎士は「コイツまさか」みたいな雰囲気を出しているが、アレな意味じゃない。


 ファドナ皇国皇都には教皇の住まうファドナ皇城が存在する。


 ゲーム内ではファドナ皇都は人間達の復活拠点で、皇城は人間が騎士へ転職するクエストを受けるための場所なのだが――嘗て魔族プレイヤーの1人が変装の魔法が使用できるマジックアイテムを使って皇都に潜入した事があったのだ。


 彼は皇国がどのような場所だったかを魔族・亜人プレイヤー達に伝えた後、最後にこう述べた。


『ファドナ皇城には宝物庫があり、実際に入る為のゲートがあった。警備がいたから断念したけど……』


 ゲートとはゲームで別エリアへ入る為の出入り口の名称だ。


 つまり、出入り口であるゲートがある以上、警備をどうにかすれば宝物庫へ実際に入れるという事。


 当時は結構な騒ぎになり、この話を聞きつけた数名のプレイヤーが変装して実際に潜入したが、警備兵NPCがめちゃくちゃ強くて殺されたと掲示板に情報を流したのだ。

 

 イングリットはファドナの事を聞いた後にこの話を思い出し、実際に近いのだから2人と合流する前に潜入しようという腹積もりだ。

 

 宝物庫には金銀財宝、未知のアイテムが収められているに違いない。


 こういったモノにイングリットは心惹かれて仕方がない人種(種族)なのであった。


 その理由をクリフは光り物が好きな『竜族』だからと話していたが、種族に心が引っ張られているのか、それとも……。


「ぬ、脱いだぞ」


 命令され、着用していた騎士服や鎧を脱ぎ終えた騎士の男。


 パンツ一枚になった彼の正体は予想通り人間。ファドナ所属の騎士なので当たり前であるが。


「よし、次は穴を掘れ」


 イングリットはインベントリからスコップを取り出し、男の傍へ投げる。


「あ、穴?」


「そうだ。そこで死んでいる仲間が全員入るくらいの穴だ。大きく、深く掘れよ」


 イングリットに命令され、彼は命が助かるかもしれないと期待しながら命令に従う。


 騎士の男が穴を掘っている間にイングリットは男が着用していた装備を物色し始めた。


 騎士の服と胸部鎧、グリーブ、ガントレット、バケツ兜、鉄剣で構成された騎士装備一式。革袋に銀貨が数枚と聖樹国が母体の宗教団体『聖樹教』の証である聖樹が彫られた木のカードを所持していた。


(着れるかな?)


 イングリットは皇都に潜入するべく、青い騎士装備を着用して変装しようと試みる。


 騎士の男はイングリットよりも背が低く、鎧の下に着るシャツとズボンがパツンパツンになってしまっているが、上から鎧などを着用すれば誤魔化せそうであった。


「兜が被れねえ!」


 自身の頭に生えている竜角が邪魔で兜が被れない。


 もっとサイズが大きいのは無いかと殺した騎士達の兜を物色し始め、偉そうに指示をしていた騎士の兜がややサイズが大きいと気付く。

 

 死体から兜を剥ぎ取り、被れるか試みてみれば角の先端がガリガリと兜を傷つけて――角の方が頑丈で兜しか傷ついていなかった――兜内部を削ったがなんとか被ることが出来た。


 それでも「フンッ!」と体に力を入れれば鎧も弾け飛んでしまいそうな程にキツキツだが、一時的な着用なので我慢。


「ほ、掘り終えたぞ」


「よし。お前の仲間を埋葬してやれ」


 騎士の男はイングリットの顔を意外そうに見つめた後、同じ隊であった仲間を掘った穴へ丁寧に入れていった。


 全員を入れ終わり、額に浮かんだ汗を腕で拭った瞬間。彼は背中をドン、と押されて穴へ落下した。


「な、なにを!?」


 そう言いながらも、ハッとなる騎士の男。


「お前の埋葬は俺がしてやる」


 イングリットは男から奪った剣を腰から抜き、力いっぱい彼の頭へ叩きつけた。


 叩きつけられた騎士の男は短く悲鳴を上げた後に、自ら穴の中に並べた仲間達の死体の上へ崩れ落ちる。


「やっぱり、剣術スキルがないから剣は上手く扱えなさそうだな。他のプレイヤーのように綺麗に斬れない」


 イングリットはそう言いながら、自分が今し方行った『斬りつけ』がどう見ても力任せな『叩きつけ』になっていた事に不満を抱きながら剣を腰に収め、穴に土をかけて覆い被せた。



-----



 ファドナ皇都 入場門。


 空は茜色になり、丸い太陽が遠くにある山の後ろへ半分ほど沈ませた景色の中、門番の男が槍を持ちながら皇都に入る商人の馬車や平民達の荷物を検査していると、遠くから1人の騎士が馬に乗って向かってくるのが見えた。

 

 馬に乗った騎士は入場門に近づくと馬を減速させ、門番に叫ぶ。


「南東で魔族が現れた! ゴブリンの群れを連れている!」


「なんだと!?」


 叫ばれた報告を聞いた門番はバケツ兜で表情は見えないが、大いに驚愕しているのは声音で理解できるほどであった。


「今、仲間が足止めしているんだ! 城に伝えて来るから通らせてくれ!!」


「勿論だ! 行ってくれ!!」


 馬に跨った騎士は門番から許可が出ると、そのまま馬を走らせて皇都の中へ入って行った。


 レンガで作られた家が左右に建ち並ぶ石畳の大通りに馬を走らせ、皇都一番奥に聳え立つ城を目指す。


(ククク。計画通りッ!)


 馬に乗る男――皇国騎士に変装したイングリットは己の描いた計画通りに事が進み、ほくそ笑む。


 そのまま皇城まで馬を走らせ、然も焦っていると演技しながら城の門番にも魔族とゴブリンの群れがいると告げる。


「教皇様に伝えて来る!」


「ああ、頼む! 私も騎士団に伝えて来る!」


 イングリットは皇国の頂点、教皇に伝えてくると早口で言って返事も聞かずに城の中へ走っていく。


 後ろから門番が騎士団に伝えて来ると言っているのは聞こえていたので彼は嘘を信じたのだろう。


(へっへっへ。潜入成功。確か宝物庫は奥だったよな)


 掲示板に書かれていた内容を思い出しながら「報告? ナニソレ? 何かあったんですか?」という何も知らない体の態度で普通に城の廊下歩きながら奥へと歩いて行く。


 廊下を進み、曲がり角から先を伺うと銀の重鎧を着た2名の騎士が扉の左右に立っていた。


(あれか?)


 如何にも豪華絢爛な見た目の扉に重装備の騎士が警備中。非常に怪しい。


 覗いていた顔を戻し、イングリットはインベントリからあるアイテムを取り出す。


『ダミン・ケロローロ』


 取り出したのは緑色のカエル型の手投げアイテム。


 ポイッと投げ、衝撃が加わると内部に入っている眠り粉が噴出。状態異常:睡眠を付与するダンジョン産のアイテムだ。


 正直、ゲームのアイテムが効くかどうかは未検証だが効かなければ別の方法を考えよう、と行き当たりばったりな作戦だった。


 イングリットは曲がり角からポイッと重装騎士目掛けて、転生システムが来る前にプレイヤースキルを磨く一環で鍛えた投擲術によるコントロール――投擲スキルはゲームに存在しない――でケロローロを投げる。


 2人の重装騎士の間、扉の前にベチャリとケロローロは落ちて地面と接触した衝撃で眠り粉が噴出した。


「なッ!? ゴホッ! ゴホ……」


 粉を吸い込んだ2人の重装騎士はガシャリと音を立てて廊下に倒れる。


 どうやらアイテムの効果はしっかりと通用したようだ。


「おっと、いけないいけない」


 インベントリから『ガスマスク』という噴出系の状態異常攻撃無効効果のついたアイテムを着用してから近づく。


 イングリットには『デバフ反射』スキルを習得しているが『睡眠』は状態異常であり、デバフではないので反射できない。


 普段は状態異常耐性のスキルが付与された指輪を装着しているのだが、変装する際に指輪をしたままガントレットを着用しようとしたら指が通らなかったので今は外している。


 パーティならばクリフが状態異常を治癒したり防いだりしてくれるが、ソロならばしっかりと準備しなければ命獲りになってしまうのがアンシエイル・オンラインの常識だ。


 こんな所で仲良く眠ってしまえば見つかって牢獄まっしぐらに決まっている。


 シュコー、シュコーと呼吸音を鳴らしながら廊下に崩れ落ちた2人の重装騎士に近づくと、しっかりと眠っている様子。


 ここでもう一手。


 インベントリから『魅惑のマリオネット』というアイテムを取り出した後に2人の重装騎士をターゲットして発動。


『状態異常:睡眠』になっている2人は無抵抗で『状態異常:傀儡』に陥る。


 魅惑のマリオネットは相手を傀儡状態にして使用者が意のままに操れるアイテム。


 傀儡は強力な状態異常なためにゲーム内では低確立で成功する状態異常で、そのまま使うと成功率10%以下というクソ確立だが睡眠や麻痺状態ならば100%成功する。


 状態異常のコンボを狙って使用するのがベターなアイテムだ。


(状態異常対策していないのか)


 先程説明した通り、状態異常というのは非常に強力なデバフだ。


 PKシステムがあったアンシエイル・オンラインで状態異常対策をしていないのは致命的。


 余談だがイングリットはスリップダメージを受ける『毒・火傷・出血・裂傷』はスリップダメージを受けた瞬間から『HP自然治癒』でモリモリHPが回復していくので対策していない。


 傀儡状態になった2人の重装騎士を操り、先程のように扉を警備しているように立たせる。


「よし。これでOK」


 イングリットは偽装を完了させて、扉を開けた。


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