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55 魔王国アップデート


 魔王城が大騒ぎしている頃、イングリット達は魔王都へ帰還する道中であった。


 あと1日もラプトル車を走らせれば魔王都を囲む城壁が見え始めるだろう、という位置でプレイヤーである3人の手元へ真実の鍵がインベントリより飛び出して来る。


『クエスト情報更新!』

 

 いつものように空中投影されたウインドウにはクエスト情報更新の文字。するとウインドウが自動で下にスクロールされてゆく。


『第一目標クリアを確認! 次のクエストは以下の通りです!』


 < 東にある遺跡の攻略 >


「次は遺跡か」


「東ってゆーと~……ジャハームの方かな~?」


 メイメイの言ったジャハームとは亜人の国の名称。正式名称はジャハーム獣王国という名の国で亜人の中でも獣人系の種族が多数暮らす国だ。


 嘗てはジャングルの中に王都があったのだが、神力が失われた事で今はジャハーム獣王都周辺はジャングルから対極を象徴する砂漠へガラリと変化してしまっており、僅かに水が湧き出るオアシスの傍へ王都を移動させた経緯を持つ国。


 広大な砂漠のどこかにある遺跡を探すのは容易ではないかもしれないが、攻略した神殿のように目的地の遺跡も過去に何らかの目的で使われていた建物かもしれない。


 砂漠地帯を無闇に探索するのは避けたいので、しっかりとした情報収集が必要だ。


 北西の神殿、というワードで目的地を探した時のようにキャラバンや昔の事が書かれた書物を調べれば答えが見つかるかもしれないのが救いだろうか。


 3人が話し合っているとウインドウは更に下へスクロールされていく。


「お、クリア報酬か」


『クエストクリア報酬!』


 < 蘇生魔法の解禁! >


「蘇生魔法!」


 報酬の内容を見たクリフが叫ぶ。


 傭兵に使った際に発動しなかった理由は解禁されていなかったからなのか、と内心で納得がいった。


 同時に使ってみたいという衝動に駆られるがスクロールされたウインドウを見ていると注意書きが記載されており、それを読むとメラメラとしていた衝動は鎮火されていく。


『注1: 蘇生魔法の効果はプレイヤー限定です』


『注2: 24時間以内に蘇生しないとキャラクター情報がロストします』


「プレイヤー限定……。24時間以内……」


 そう呟いたクリフは自然とシャルロッテへ顔を向けてしまう。


 プレイヤーである自分達は死んでも蘇生できると約束された。


 パーティ内で蘇生魔法を使用できるのはクリフのみなので自分は死ねないが、イングリットとメイメイはクリフが生きてさえいれば蘇れるのだ。


 24時間以内、という制約はあるが戦闘から逃げる為の手段さえあれば大丈夫だろう。


 しかし、同じパーティメンバーであるシャルロッテだけは別だ。彼女はプレイヤーではなく、この現実世界で生まれた者。自分達とは違った存在。


「ん? なんじゃ?」 


 ダンジョン攻略で頑張ったご褒美として貰ったゲーム内アイテムのカツサンドイッチを頬張るシャルロッテはクリフの視線に気付いた。


 口にソースをつけながら幸せそうに食べる彼女は死んだらそこで終わりだ。


「ううん。なんでもないよ。美味しい?」


「さいっこうなのじゃ! こんな美味い物食べたことないのじゃ!」


 クリフは彼女に悟られないよう、ニコリと笑みを浮かべてカツサンドの感想を問う。


 彼女の満面の笑みに頷いた後にイングリットとメイメイへ視線を向けると、2人もクリフの言いたい事が分かっているのか無言で頷いていた。

 

 再びウインドウへ視線を戻すとクリア報酬とは違う項目が表示される。


「アップデート?」


 クリア報酬の内容の次に書かれたのはアップデート内容という文字。

 

『アップデート:エリア』


 < 楔の破壊に伴い、魔王都イシュレウス近郊がアップデート! >


「なんだこりゃ?」


「さぁ……」


「エリアって書いてあるし~、採取できる素材が変わるとか~?」


 魔王都近郊がどう変わったのか詳細な情報は書かれていない。魔王都に行けばすぐに分かる変化なのか、自分の目で確かめろという事だろうか。


「まぁ、とにかく魔王都に戻る事は変わらない。行けばどう変わったのか分かるだろ」


 そう結論付けて予定通り魔王都を目指してラプトル車を走らせる。


 翌日、道中でイレギュラーは起こらず予定通り魔王都付近まで到着したのだが――


「なんだ、この列は……」


 目の前には魔王都を囲む高い城壁が見えており、もう5分もあれば城門へ辿り着くだろうという位置にイングリット達はいるのだが、魔王都近郊の街道には旅人や行商人のワゴン付き馬車、キャラバンの馬車隊が1列に並んで停車していた。


「城門で軍が何かしてるらしくてな。もう1時間以上も待ってるんだ」


 御者をしていたイングリットが前に並ぶ行商人に事情を問うと魔王軍が何やらしているらしく、城門が一時的に封鎖されているとの事。


「貴族用の入り口は開いてるのではないか?」


「あ~、お嬢様。どうやら貴族用の門も封鎖しているみたいで……」


 一緒に話を聞きに来ていたシャルロッテへ行商人の男は言い難そうに顔を歪めて、4つ前にいる貴族用の馬車を指差す。


 そこでは貴族らしき魔族の男と軍人が会話しており、貴族の男は怒声を撒き散らしながらとても不機嫌な様子。


 まだなのか、私は貴族だぞ、お前はどこの所属だ、などと怒声が周囲に響いているが軍人の男は態度を変えず、一言二言発言した後に貴族の男から視線を外した。


 軍人の男が視線をイングリット達の方向へ向けたのを見逃さなかったシャルロッテは彼を手招きして呼び寄せる。


「妾はアルベルト家のシャルロッテじゃ。今、魔王都はどうなっておるのじゃ?」


 シャルロッテが素性を明かすと軍人の男はキビキビとした態度で一度敬礼。その後に事情を話し始めた。


「ハッ。2日前、魔王都周辺に不審な建造物が突如現れまして、軍が調査を行っている最中であります。現在編成された第2陣が城門より移動中の為、一時的に封鎖しております。ご迷惑をおかけしておりますが、ご容赦下さい」


「不審な建造物?」


 事情を聞いたシャルロッテは首を傾げた後にイングリットへ顔を向ける。


「どんな建造物なのか分かっているのか?」


 イングリットが軍人へ問う。


 機密事項で教えてくれないかとも思ったが、軍人の男はシャルロッテを一瞥した後にすんなりと教えてくれた。


「ええ。何でも地下へ続く階段があるようなんですが……。階段の先にある扉を潜ると、山岳地帯に出るそうなんです。しかも、地下なのに太陽があって……」


 すんなりと教えてはくれたが要領を得ない。


 彼も「次の日には山があった場所が草原になってた、なんて報告もあって意味が分からないんです」と言っているので、本人も全容は把握していないのだろう。


「そうか。情報、感謝する」


 イングリットはシャルロッテを連れてラプトル車へ戻る。


 シャルロッテも軍人の報告を聞いて頭の上にハテナマークを浮かべていたが、イングリットだけは不審な建造物の正体が判明していた。


「どうだった?」


 ラプトル車の中で待っていたクリフがイングリットへ問う。


 彼は待っていたクリフとメイメイに渋滞の理由を告げると――


「それって……」


 クリフとメイメイも魔王都近郊に現れた建造物の正体にピンときたのだろう。


「ああ。魔王都近郊に現れた建造物の正体は――日替わりダンジョンだ」


読んで下さりありがとうございます。

次回は水曜日に更新します。

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