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51 神殿ダンジョン制覇


 イングリットがクリフに説教されている間、メイメイは溶けて消えたイソギンチャクが最後にいた場所へと歩み寄る。


「ん~? 赤い核の欠片かな~?」


 ゲームのように魔獣を倒したら出現するドロップアイテムが無いかどうか、キョロキョロと周囲に顔を向けながら探るも落ちているのはイングリットが破壊した赤い核の欠片のみ。 


 丸かった核はほとんど粉々になっていて、メイメイが拾った全体の1/4程度の大きさがある欠片以外は見当たらない。


 メイメイが鑑定眼を起動させて赤い核の欠片を見つめると――


『穢れた魂の凝縮核』


 と、名称だけが判明。詳しい効果はもう少し集中して鑑定作業を行わないと分からないようだ。


「あれ~? でも、この感覚どこかで~?」


 しかし、核の欠片を鑑定眼で見つめていると欠片から発せられる雰囲気はどこかで感じたような感覚を覚えた。


「よーし! お宝タイムだ!」


「あっ! もう!」


 慎重に行動するようにとネチネチと小言の雨を降らすクリフをいい加減うっとおしく思ったのか、彼の言葉を一方的にシャットアウトして祭壇の前へと駆けるイングリット。


「クエストの楔も壊さなきゃだよ~」


 説教が終わった事に気付いたメイメイは欠片をインベントリに仕舞ってから祭壇へ向かうイングリットへ告げる。


 メイメイの言葉に「そうだった」とクエストの内容を思い出し、地面に刺さる杭へと向かった。


 イングリットの後に続くのはメイメイだ。その後ろをクリフとシャルロッテが続く。


「これを壊せばいいのか……?」


 祭壇の前で床に刺さっている高さ1メートルの杭。近くに寄ると、杭の色は穢れのモヤを凝縮したような漆黒だ。


 蝋燭がビッチリと置かれた不気味な祭壇と3本の鎖で繋がり、どこからどう見ても神聖さのような良い雰囲気が全く感じられない。


 むしろ邪悪さの塊のような、見ているだけで不快感が背中を這い回るようだ。


「さっさと壊そう」


「賛成」


 イングリットの提案にクリフが応え、メイメイとシャルロッテも杭に眉を潜めながら視線を向けて頷いた。


「おらッ!」


 イングリットが力一杯に杭を蹴りつけると見た目とは裏腹に簡単に杭は折れてしまう。


 真ん中から粉砕された杭は地面へと落ち、繋がっていた鎖もジャラジャラと音を立てながら垂れ下がる。


 すると、鎖が地面に落ちる事で引っ張られた祭壇もバキバキ、と音を立てながら崩れ始めた。祭壇は木組みの物で、経年劣化で脆くなっていたのか一箇所が壊れると連鎖するように別の部分の板が割れて、独りでにどんどんと解体されてゆく。


 祭壇が完全に崩壊すると3人のインベントリから真実の鍵が飛び出してきた。


 < クエストクリア! >


『神脈の解放に成功!』


 いつものように空中に投影されたウインドウにはクエストクリアの文字。


「神脈ってのはなんだ?」


「うーん?」


「わかんな~い」


 と3人が顔を合わせていると意外な人物から答えが返って来た。


「神脈とは世界に満ちる神力が湧き出る場所と言われておるのじゃ」


 シャルロッテ曰く、神脈とは世界に恵みを齎す神力の源泉である。


 現在の魔王国領土と亜人国領土に森林資源がほぼ皆無であり、大地が痩せているのは神力が枯渇状態になっているからだ。因みにこの神脈の話は絵本や学園で学ぶ常識だそうな。


「ふぅん。じゃあ、これで魔王国内が少し潤うかもね」


 枯渇状態になっていた原因は長年不明になっていたらしいが今回の件から推測するに、たった今イングリットが壊した杭が神脈に楔を打ち、魔王国領土や亜人国領土に流れる神力を塞き止めていたのではないだろうか、とクリフは語る。


「つーことは、神脈の上にダンジョンが出来たのが原因なのか? それを解放していくクエスト……?」


「ううん……。でも、この杭も祭壇も人工的な物にしか見えなかったよね。こんな杭が刺さってるダンジョン、今まで無かったし」


 この杭や祭壇もそうだが、3層も人工的な雰囲気を纏う構造だった。


 だが、現状ではその謎を解く材料が少ない。何故こんな状態だったのかはクエストを進めて行けばわかるのかもしれない、と3人は一旦結論付けた。


 とにかく、杭を壊した事でクエストは完了扱いのようだ。


 しかし――


「次のクエスト内容は表示されないね」


 真実の鍵から発せられる空中投影ウインドウには『クエスト情報を取得中』とだけ表示されるだけで変化はない。

 

「そのうちまたインベントリから飛び出して来るのかな~?」


 いつまでも変わらないウインドウを見ていてもしょうがない。


 3人は真実の鍵をインベントリへと放り込んだ。


「で、肝心のお宝だが」


 イングリットが先程まで祭壇があった場所へと視線を向ける。


 祭壇の後ろには通路が隠されていたようで、祭壇が崩壊した事によってその姿が顕になっていた。


「どう考えてもこの先だろう」


 4人は灯りの無い暗い通路に足を踏み入れる。並び順はダンジョン攻略時と同じだ。イングリットがランタンを取り出し、クリフが魔法の光を生み出して先を進む。


 道中はそこまで長い通路ではなく、石組で出来た通路の出口は広い空間。


 その空間には棺が置かれている。他にも布で包まれた死体らしきモノが床に並べられていたり、石の壁をくり貫いて作られた死体置き場に安置されていた。


「墓か」


 イングリットが近くにあった棺の蓋を押して中を確認すると、棺の中には長い耳を持ったミイラが入っていた。


 そのミイラの腹にはエルフの国であるトレイル帝国の紋章が刺繍されたマントが被されており、ミイラの正体はエルフだと判明。


「ここがエルフ領土になってから墓として使われていたのかな? 墓がダンジョン化した? でも人工的な構造物は……」


 ブツブツと呟きながら脳内で独自の考察を始めるクリフ。


 一方でイングリットとメイメイは棺の蓋を手当たり次第に開け始める。  


「よ、良いのか? 棺を開けて死者への冒涜とならんのか? オバケが出たりしないじゃろうな!?」


 シャルロッテはどんどん棺を開けて墓を荒らしていくイングリットとメイメイに若干体を震わせながら問う。


「あー? おばけ? レイスやらアンデッドキングは魔族だろう。あいつらがここにいたら話かけてくるだろう」 


 オバケ = 霊系の種族だと認識したイングリットは心配ない、と言葉を返す。


 彼の言う通り、レイスやアンデッドキング――骨が黒いローブを纏った如何にもな雰囲気のアンデッド――は魔族に分類される。


 恐怖を抱く見た目とは違って、しっかりと言葉を交わせるし他の種族と比べても穏やかで理性的だ。


 特にアンデッドキングは禍々しい雰囲気と見た目が骨なだけあって勘違いされがちだが、彼らはとても人当たりが良い。


 イングリットの知り合いにいるアンデッドキングとレイスも出会えば世間話をして盛り上がるくらいには仲が良く、ダンジョンで得たアイテムの交換や製作した料理アイテムのお裾分けをしてくれるくらいフレンドリーだ。


 因みに敵勢アンデッドも存在する。それは喋れない骨の戦士であるスケルトンと腐った死体が歩き回る、所謂グールだ。


 こちらは喋れないのでコミュニケーションが取れず、形振り構わず襲ってくるので魔獣認定されているとゲーム内テキストに描かれていた。


 魔獣と認定される条件は、まず言葉を交わして話し合いが行えるかどうかだ。故に、ゴブリンやオークといった人型魔獣も喋れずコミュニケーションが取れないので魔獣認定されている。


「どうだ?」


「無いな~。ハズレダンジョンかな~?」


 棺を手当たり次第開けるが、中にあるのはミイラになった死体のみ。棺を空けたらお宝満載、といった物は見つからない。


「あれはどうだ」


 イングリットが指差す先にあるのは一際豪華な棺だ。


 台座のような、床から一段高い位置に安置されており、棺にはマントが掛かっている。どう見ても他の棺とは違う仕様だ。


 その棺に近づき、蓋を開ける。


 すると中には他のミイラのように布で全身が覆われているのではなく、王冠のような物を被され、胸には宝石が散りばめられた豪華なネックレスをしたミイラが入っていた。


 ミイラの手には金の杖が備えられており、イングリットはその杖をミイラの手から引き抜く。


「これだけか……?」


 まさかあれだけ苦労してお宝は王冠とネックレス、金の杖だけなのだろうか。


 現実を受け止めきれないイングリットだったが、そんな彼にメイメイが声をかけた。


「ねえ~! あの棺~! その杖の柄と同じ形をした窪みがある~!」


「だよな! これだけじゃないよな!」


 いそいそと金の杖を持ってメイメイの指差す棺へと近づこうとすると、先程まで寝ていた王冠を被ったミイラがガバリと身を起こした。


「ア"ア"~! ア"――」


「うるせえ!!」


 身を起こしたミイラはグールだったようだ。握っていた杖を取ると動き出す謎の仕組みになっていたのだろう。


 最も近くにいたイングリットの背中に腕を伸ばす。だが、振り返ったイングリットは手に持っていた金の杖をグールの顔にフルスイング。


 グシャア、と音を立てながらグールの顔が吹っ飛んで行き、顔が無くなった体は再び棺の中にポテリと倒れた。


「よっしゃ~! 中身はなんだ~!?」


「お主! 今、やべーもんが妾の脇を飛んでいったぞ!?」


 るんるん気分で棺の窪みに金の杖を嵌め込むイングリットと、グールの顔が横を通過して飛んで行くのを見て身を震わせながら叫ぶシャルロッテ。


 彼女の文句は全く聞こえていないのか、イングリットは棺を開けるのに夢中だ。窪みに杖を嵌め込むと棺からカチリという音が鳴る。


 蓋に手を添えてズラすと中に金貨や銀貨、宝石や宝石で装飾が施された短剣などが棺一杯に収められている。


「「「「おおー!!」」」


 ランタンや魔法の光から発せられる光に反射し、棺の中からは金銀財宝の黄金色の光がキラキラと溢れる。


 今までの苦労が報われる棺一杯の財宝に、文句を言っていたシャルロッテや脳内で考察を続けていたクリフも目を奪われて声を漏らす。


「どうだ!! 見たか!! これが冒険だ!!」


「すごいのじゃあ! すごいのじゃああ~!」


 イングリットは棺の中にあるお宝を両手で掴み、宙に掲げて吼える。


 シャルロッテも初めて見る満載のお宝に両手を上げて満面の笑みを浮かべながらピョンピョンと跳ねた。


「これ、全部、妾達の物なのじゃろ!?」


「そうだ! 全部俺達のモンだ!」


「すごいのじゃあ~!」


 テンションアゲアゲなイングリットとシャルロッテ「アハハ、アハハ」と笑いながら棺の中にあるお宝を物色し始めた。


「ふふ。仲が良いね」


「シャルちゃんもパーティに馴染めそうだね~」


 何だかんだと新加入したシャルロッテがパーティに馴染めるか心配していた2人だったが、その心配はもう無用のようだ。


 クリフとメイメイはお宝を前に喜ぶ2人を見つめながらニコニコと笑みを浮かべていた。    


「とりあえず、この袋に詰めれるだけ詰めろ。全部インベントリに放り込んでたら圧迫しちまう」


「わかったのじゃ!」


 イングリットはインベントリ内にあった麻袋を取り出し、シャルロッテへ手渡す。


 2人は片手で棺の中にあるお宝を袋に詰めれるだけ詰め込んだ。特に多かったのは金貨や銀貨だ。


 刻印を見るにトレイル帝国で使われている貨幣のようだが、魔王国内では使えないので溶かして素材にするか、商人組合に卸して現金化するしか使い道は無い。


 他にも能力が永久付与された魔法の装備がいくつか収められていたが、そちらは低レアリティで今更3人が使おうと思う物も無い。


 ゴッド級の装備やレジェンダリー級の装備は見つからず、現状装備している物からより強力な装備へ更新できるような物が見つからなかったのは残念な結果と言える。


 今回のお宝は純粋に彼らの『生きる為の資金』となる物だった。


「まぁ、生きるにはお金が必要だしね」


 ゲームとは違って食事を摂らなければ飢えてしまうし、喉も渇くし眠くもなる。


 それらの欲求を満たすには金が必要だ。


「使い道は後で帰り道で考えるとして、さっさと地上に戻るか」


 お宝を回収し終えた4人は地上へ帰還する道を探す。セオリー通りならば奥に地上へ続く帰り道のショートカットがあるはずだ。


 手分けして探すと最奥に扉が1枚存在しており、中を窺うと案の定上へと伸びる階段が見つかる。


 階段を登って行った先は神殿の裏にあった井戸に繋がっており、4人は無事に地上への帰還を果たした。


読んで下さりありがとうございます。


明日から1週間、仕事の都合で投稿はお休みします。

次回の投稿は恐らく3月1日です。

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