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47 神殿ダンジョン攻略 3


「ふぅ~。危なかったねぇ」


「ずっと追いかけてくるとはね~」


「ほんとなのじゃ。だんじょんとは恐ろしい場所じゃのう」


 イングリットが疲れ果てて四つん這いになりながら荒い呼吸を繰り返していると、楽をしていた3人はそれぞれ感想を口にする。


 好き勝手言っていた3人にイラっとしながらも、イングリットは元凶であるシャルロッテの口元をガシリと掴んだ。


「ほにょー!」


 タコのような口になったシャルロッテは文句を言うが言葉になっていない。


「テメェ……! 罠には気をつけろって言っただろうがッ!」


 イングリットは恨みをぶつけるように、シャルロッテの淫紋がある部分を服の上から軽く小突く。


「お"っ!」


 ブシャっと何かが地面へと弾け、シャルロッテは白目を剥いて気絶。


「ここで休憩してから行くぞ」


 パタリと倒れたシャルロッテを見下ろしながらイングリットはインベントリから水筒を取り出しながら他2人へ告げた。



-----



 シャルロッテが気絶状態から復帰した後、軽く食事を済ませて出発。


 現在地である3層だが、これまでとは様子が少し違っている。


 全体的に明かりは無く真っ暗。壁や床の作りは1・2層と同じ石造りのものだが、通路が伸びているだけでなく左右にドア付きの小部屋が等間隔で配置されていた。


 ランタンと魔法の光で照らしながら小部屋の中を覗き込むと、部屋の中には朽ちた木製の机や本棚など住居設備の跡が見られた。


 他にもキッチンのような流し台とコンロがある部屋や、金属製の2段ベッドだった(・・・)であろう崩れた物があったり……。


 通路と曲がり角があるだけの自然にできたダンジョン、というよりも人工的に造られたような施設のような印象を受ける。


「ここのダンジョンマスターは知性のあるタイプなのか?」


「どうだろう……。でも、どう考えても誰かが住んでたよね」


 イングリットとクリフが上層に比べて様変わりした構造を観察し合う。


 このような人工的な施設に似た階層を持つダンジョンが全く存在しない訳でない。


 ダンジョンの構造は最奥に待ち構える『ダンジョンマスター』の種類によって変化する。


 例えば植物系の魔獣がダンジョンマスターだったならばダンジョン全体は森のようなタイプ。ダンジョンマスターに人並みの『知性』が備わった魔獣だったなら今回のような構造になっている事も珍しくはない。


「強い未練を持ったゴースト系か?」


 知性を持つダンジョンマスターに多いのがゴーストだ。何かの拍子に死んで現世に未練タラタラなやつだ。


 大体はどっかの王だかが暗殺された拍子にゴーストになって、家族を呪い殺した上に○○家に伝わる秘法は誰にも渡したくねェー! と近づく者には無差別に襲い掛かるタイプが多い。


 そういった手合いは生きていた頃に強い執着のある風景(王族だったら城の1フロアなど)を再現する。


 余談だが、魔族にもゴースト系やアンデッド系の種族はいるが彼らはまた違う系統だ。ダンジョンマスターは元々は別種族の者が後天的にアンデッドとなり、魔族の方は生まれもってのアンデッドなので個体としての創り(・・)が違う。


 悪墜ち魔法少女と悪の組織の女幹部くらい違うのだ。


「うーん。城の造りっぽくはないよね。集団生活している施設のような……」


「ベッドとかいっぱいあったしね~」


 イングリット達は通路――というよりも廊下のような道を慎重に進みながら左右にある小部屋の中を覗きながら進む。


 少し進むと十字路になっていて、左右に伸びる廊下には勿論小部屋が。


 まずは突き当たりまで真っ直ぐ進んでみよう、となって奥へと足を進める。


「広いな」


 1・2層が一本道だったり、狭い通路を通るだけの構造だったのもあるが16畳くらいの小部屋が等間隔でいくつも設置されている構造を見るに3層は特に広く感じる。


 奥へと進み続け、2つ目の十字路が見えた時。


 先頭を歩いていたイングリットは足を止めて、背後の3人へも掌を向けて停止の合図を出した。


「うわぁ……」


 停止したイングリットと同時にクリフは前方へ探知魔法を放つ。


 返って来た反応にクリフは眉を潜める。


 メイメイとシャルロッテが不思議そうに2人を見つめる中、イングリットがランタンの光を前方へと向けると、黒いモヤを纏った人型のナニカがフラフラと動いていた。


「ええ……。なんでデキソコナイがいるの~?」


 明かりに照らされた『デキソコナイ』を見て露骨に嫌そうな声を出すメイメイ。


 デキソコナイ――それは『穢れ』という状態異常を纏った人型の魔獣だ。見た目は肉の塊のような……人の体がブクブクと膨れ上がっていて、異常に太くなった腕や足が備わっていたり、かといって顔は普通の顔をしていたり……。


 太ったゾンビのような、グールのような、とにかくグロテスクな見た目でゲーム内で1・2を争う程に嫌われていた魔獣だ。


 嫌われる理由はグロい見た目だけではなく、身に纏う『穢れ』にもある。


 黒いモヤが穢れの正体なのだが、そのモヤがプレイヤーに触れると一瞬で状態異常『穢れ』となってしまう。


 穢れは侵されると徐々に蓄積されていくタイプの状態異常で蓄積値が一定値を越えたプレイヤーは即死してしまうのだ。 


 しかも、穢れ耐性を上げる装備は今まで見つかった事が無く防ぎようがない。


 特に穢れに侵されやすい前衛系の職業に就くプレイヤーは蓄積値が一定値を超えないよう注意しながら戦い、神官の持つ上位魔法――第6階梯の状態異常回復魔法であるパーフェクト・キュアで一定値を越えないように浄化してもらわないといけない。


 浄化する為のパーフェクト・キュアは神官しか習得できず、第6階梯なので消費魔力も大きい為に魔力回復ポーション類の使用頻度も上がって経費が嵩む。


 だというのに、ロクなドロップが無いというクソ・オブ・クソな魔獣。それが『デキソコナイ』だ。


 因みにデキソコナイという名前であるが、ゲーム内で表示される名前が『デキソコナイ』となっている。


 名前の由来はちゃんとあるらしいが、それを語るテキストは未だ見つかっていない。


「な、なんなのじゃアレは……。キモチ悪いのじゃ……」


 オオ、オォ、と野太い声を漏らしながらフラフラと体を揺らし、ヒタヒタと足音を鳴らすデキソコナイ。

 

 両腕が肉の塊をくっつけたような見た目でありながら成人男性の胴体並に太く膨れ上がっているが、下半身は至って普通というアンバランスさ。


 胴体の上にはチョコンと乗っかるように髪の無い人の顔――エルフのように尖った耳を生やし、目玉が瞼から飛び出してダラリと垂れる。


「なんか、ダンジョンのバランスおかしいね……」


 1層にゴブリン、2層道中は不明だが最奥にいたのがグレートグリズリー……どちらもゲーム内では低級にあたる魔獣。


 なのに、3層からいきなり上級魔獣にあたるデキソコナイが出現するというのは数多くのダンジョンを制覇してきたイングリット達にとっても初めてだ。


「ヤバイな。集まってきた」


 イングリットがランタンを向ける先には1体のデキソコナイが十字路の中央でフラフラと体を揺らしていたが、話声に気付いたのか左右の廊下にいたデキソコナイ2体もヒタヒタと足音を鳴らしながら十字路の中央へ集まってきた。


()るしかないよ!」


 デキソコナイの放つ穢れのモヤは範囲が広い。


 避けて通るにも、3体が密集してしまっている状況ではすぐに許容値を越えてしまう可能性が高い。


「なるべく近づくな! 遠距離攻撃で倒せ!」


 そう言ってイングリットは大盾を構えながらもインベントリからクロスボウを取り出す。


 今回ばかりはタンクであるイングリットも突っ込む事はせず、その場で待機しながら遠距離攻撃をするしかない。シャルロッテ用に温存しておいたボルトを使ってでも各個撃破してしまった方が手っ取り早いと判断。


 彼の背後ではシャルロッテがクロスボウを構え、メイメイはジェミニを弓形態にして弦を引き絞る。


 クリフは他の階層よりも横幅が広い3層の構造ならば直線的に飛んでいく魔法を使っても構造物に被害の出にくいと判断し、第2階梯の氷魔法であるアイスジャベリンをスタンバイさせていた。


「右から倒す! 集中攻撃!」


 イングリットの指示を合図に全員が右に立つデキソコナイへ集中攻撃を加える。


 右にいたデキソコナイは4人からの攻撃を一斉に受けて床へと倒れる。他の2体はゆっくりとした動作ながらも確実にイングリット達へと迫っていた。


「近づかせるな! 中央!」


 デキソコナイの穢れ対策はとにかく近づかない事。遭遇戦ならば距離の近いデキソコナイから順番に倒して行くのがセオリーだ。


 出し惜しみ無しで遠距離攻撃を各自連射。射撃系武器のパッシブを持っていないメンバーは百発百中とはいかないが、なんとか穢れのモヤが触れる前に2体を倒しきった。


 絶命したデキソコナイは体に纏っていたモヤが消える。それを確認すると全員がフゥと小さく息を吐いた。


「ちょっと久々に緊張感のあるバトル~」


「確かに。最近は低級ばかりだったからね」


 現実世界へと降り立ち、今日までデキソコナイのような上級魔獣に遭遇する事は無かったので3人とも少々気が緩んでいたのも事実。


 今回の戦闘を経て攻略最前線の緊張感を少しだけ取り戻したようだ。


「うう、キモチ悪いのじゃ……」  


 デキソコナイ初見のシャルロッテは嫌悪感が凄まじい。


 やはり、ゲーム内でも1・2位を争う見た目の魔獣は伊達でないようだ。


「うわ。刺さった矢に穢れが纏わり付いてる……。回収はできないね」


 デキソコナイに命中した矢やボルトは体から噴出した黒色の血が付着しており、その血にも穢れの効果があるようで触れれば穢れの蓄積値が溜まってしまうようだ。


 矢とボルトをパーフェクト・キュアで浄化すれば使えそうではあるが、魔力と引き換えにするには惜しいので回収は諦める事に。


 一息ついているのも束の間。彼らの背後から再びヒタヒタと足音が聞こえる。


「マズイ。後ろから来てる」


 最後尾に立つクリフが後ろを振り返ると、複数の足音や肉の体を引き摺る音が近づいて来るのが分かった。


「十字路の左右からも来るぞ」


 先頭のイングリットも十字路の左右どちらからも複数の足音を感知した。


「とにかく真っ直ぐ進んで行くしかないか。最悪、範囲攻撃で蹴散らすしかない」


 正面からは足音が聞こえない為、進むならば真っ直ぐしかないとイングリットは判断。


 範囲攻撃でダンジョンを破壊する事は避けたいが、デキソコナイに囲まれるよりはマシだ。


「クリフ、魔法の光を複数個作ってくれ! 真っ直ぐ進むぞ!」


 クリフは指示通り魔法の光を4つほど作りだしてパーティメンバーの頭上へ待機させ、周囲を明るく照らす。


 それを合図に全員真っ直ぐ走り始めた。


 背後にデキソコナイの気配を感じながら走り続けると再び前方からデキソコナイ2体と遭遇。近づかれないように先ほどと同じように処理をしてから進み続けた。

 

 進み続けた先はT字路になっていて、再び右か左かを問われる。


 手短にパーティで多数決を取った結果、進む方向は左に。だが、左は行き止まりであった。


「クソ! 来てるぞ!」


 引き返そうと振り向けば背後から追って来ていたデキソコナイの気配を感じる。


「矢とボルトを気にせず使い尽くせ。近接戦闘になるよりはマシだ」


 次の階層がダンジョンマスターが待ち構える最終層だというのも考慮すると、ここで近接戦闘に持ち込まれてポーションを消費する方がマズイ。


 追って来ていた5体のデキソコナイを遠距離攻撃で処理してから来た道を戻る。


 再びT字路へ戻るとそこには更に4体のデキソコナイが待ち構えていた。


「矢切れ~!」


 3体を処理した時にはメイメイの矢が尽きる。イングリットの持っていたクロスボウのボルトも同時に尽きてしまった。


「クソッタレ!」


 イングリットはインベントリから使用していない槍を取り出し、デキソコナイへ投擲。


 太った腹を持っていたデキソコナイの胸を貫き、床へと縫いつける。そこへ追い討ちとばかりにクリフの氷魔法が炸裂して4体の処理に成功した。


「右から来てるのじゃ!」


 右手にある嘗ての真っ直ぐ進んできた道から再びデキソコナイの足音が。照らされた光で見えた数は7体。


「嘘でしょ~……」


 連戦続きでパーティメンバーにも疲労が見え始めている。特に制限のある戦い方で精神的な部分の疲労が激しく、それが更に体力を奪う。


 さすがにマズイ、と焦り始めるイングリットだったがここで1つのアイディアを思いついた。


「クリフ! 道に壁を作って塞げ!」 


 思いついたのはゲーム内で無限に湧き出る魔獣の移動を制限する方法だ。


 オブジェクト設置型の魔法――土壁や氷の壁を所定の位置に設置して魔獣の侵入路を制限し、1体ずつ倒して行く方法はダンジョン内でモンスターハウスに遭遇した時などによく使っていた戦法でもある。


 今回は倒さず、道を全て塞いでデキソコナイの侵入を防ごうという事だ。


 ゲーム内では時間経過で壁として設置した魔法は消えてしまっていたが……現実世界ではどうなるのかは実験していない。しかし、ここで複数体相手に連戦するよりはマシだろう。 


 イングリットの出した指示の意味を汲み取ったクリフはすぐさま魔法を発動。


「魔導の3、ストーンウォール!」


 ゴゴゴ、と床からせり上がってきた土の壁がデキソコナイの進行ルートを塞ぐ。


「ハァー……。休憩はできないが、今の内に先へ進もう」


 精神的な疲れを感じながらも歩くことは止めずに先を目指す。


 デキソコナイといつ遭遇するかもしれない、という不安を抱えながら進むこと10分。


 廊下の終点で下層へと続く階段をようやく発見する事が出来た。


読んで下さりありがとうございます。


2層と3層の話はもうちょい無駄なところを削ってコンパクトにして1話にまとめるべきだったかな、と反省。

明日も投稿します。

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