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46 神殿ダンジョン攻略 2


 ゴゴゴゴゴ、という大きな音ともに迫り来る巨大な鉄球。


 その巨大な鉄球から逃げるべく、全速力で通路を走るイングリット。


「だから罠には気をつけろって言っただろうがあああ!!」


「ひえええ! 来てるのじゃ! 来てるのじゃああ!」


「もっと早く走って! もっと早く~!」


 彼の背中にはメイメイとシャルロッテがベッタリとくっついており、ガシャガシャと黒いグリーブを鳴らしながら走るイングリットへ後方の様子を伝えていた。


「ひぃひぃ、ぜぇぜぇ、も、もう無理ィィィ!」


 隣で走るクリフは補助魔法で走るスピードを上げているが、モヤシ担当の彼が走り続ける事など出来るわけもなく徐々に走るスピードが落ちてきた。


「クソッタレ!」


 イングリットはクリフの脇腹に手を差し込み、片手で自身の脇に抱え込んだ。


「補助魔法をよこせ!」


「ま、魔導の2、す、スピードアップゥ、ぱ、パワーアップゥ……」


 ステータス上昇の魔法を受けたイングリットの走る速度が上がる。ついでに3人を抱えて走っても問題無いくらいに筋力もアップ。


「は、はようせい! はようせい!! お、追いつかれるのじゃ!!」


 イングリットの首に腕を回してしがみ付くシャルロッテは彼の耳元で走る速度を上げろと叫び続けた。


「お前のせいだろうが! ぶっ殺すぞテメェ!!」


 どうしてこんな状況になっているのか。それは2層目に降りてからしばらくした時に起こった。



-----



 2層目に降りると階層のデザインは1層と同じ造りで、石が積み重なって出来た床と壁の通路が伸びている構造だった。


 違いといえば、2層目からは罠がある事だ。


「罠ってのは床に設置されり、壁に設置されたりしてるんだ。全員が一直線に並んで床と壁の起伏や違いを見分けながら慎重に進んで行く。あと、壁には絶対触れるな」


「わかったのじゃ」


 新米冒険者であるシャルロッテにイングリットが2層入り口でダンジョンの罠について解説。


 ゲームのダンジョンで罠を見分けるのは斥候系の職業が専用スキルを持っており、ダンジョン内にある全ての罠を調べるような便利アイテムは存在していなかった。


 そんなアイテムがあれば斥候系職業の罠探知スキルが死にスキルになってしまうからだろう。


 イングリット達の中には斥候系職業を経験した者はいない。故にゆっくりとした足取りで進み、何か違和感があればその場ですぐさま停止して目を凝らす。


 ゲーム内であれば罠を受けても回復魔法やらポーションを駆使して強引に突っ切れたが、現実世界ではそうもいかないだろう。


 例えば矢が壁から飛んでくる罠に引っ掛かり、その矢がイングリット以外の者に命中すればどうなるか分からない。下手をして頭にズドン、なんて事になればあの世行き待ったなしだろう。


 罠の調査をしながら進んで1時間程度した時、最初の分岐点へと到着。


 1層のように右か左かを迫られ、右を選択したイングリット達。ここまで順調だったからか、この辺りからパーティメンバーにも余裕が生まれ始めた。


「シャルロッテ、って名前長いよね~」


 雑談を最初に始めたのはメイメイ。きっかけを作った彼女も戦犯の1人と言えるだろう。


「確かにそうだね。愛称とかなかったの?」


「家族からはシャルって呼ばれてたのじゃ」


 クリフが雑談に乗っかり、シャルロッテが答えると3人のお喋りは盛り上がっていく。


「へえ~。じゃあ、今度からシャルちゃんって呼ぶよ」


「僕も~」


「構わないのじゃ!」


 黙々と通路を調査しながら進むイングリットの背後からはキャピキャピとしたトークが続く。


「イングリットも名前が長いのじゃ。イングって妾も呼ぶのじゃ」


「あ~? 別に構わねえけど。おい、右端に寄れ」


 イングリットは前方に罠を発見し、通路の右端へ寄るように指示を出しながらも振り向く事無く答える。


「妾の事もシャルと呼ぶのを許すのじゃ」


 イングリットが彼女の名を呼ぶ時、指示を出す際に『シャルロッテ』と名前を呼ぶ以外には大体『お前』だ。


 他のメンバーは名前で呼んでいる。これは付き合いが長いからであるし、イングリットがクリフとメイメイを心から信頼しているからだろう。


 シャルロッテは自分だけハブられているみたいで嫌だった。疎外感を感じているが、素直に「呼んでほしい」とは言えない。だって面と向かって言うのは恥ずかしいのじゃ! って感じだ。


 故にたわわな胸を張りながら、照れ隠しに偉そうな(貴族令嬢ぽい)態度で誤魔化す。


「あ~? まぁ気が向いたらな」


 しかし、シャルロッテの呼び名に興味が沸かないイングリットはおざなりに返答するのみ。


 その態度が気に入らなかったシャルロッテは頬をぷくっと膨らませた。


 自分の不機嫌さを体で表すよう、腕をブンブンと振ってイングリットへ抗議を示す。


「お主はもうちょっと妾への態度を改めるのじゃ! 妾がせっかく――」


 ポチ。


 抗議の為に、自分の不機嫌さを表す為に動かした彼女の腕。右端へ寄っていた為に腕が壁に接触してしまったのだ。


 そして、彼女の腕には石で出来たブロックが押し込まれる感覚。


「おい、今、ポチって――」


 イングリットは足を止め、振り返った時。後方からゴゴゴゴ、という音が徐々に近づいて来た。


 まさか、と思いながら進んで来た道へ視線を向けると通路の横幅スレスレを転がる鉄球が見えた。


「走れ!!」


 イングリット以外も後方の鉄球を見つけていたのが幸いし、彼の合図で全員が全力で走る。


 当然、途中の罠を発動させてしまえば全部受けるしかない。


 背中に鉄球が迫るのを感じながら、次に起動した罠は前方から矢が飛んでくる罠だった。


「うおおお!!」


 防御力全振りのイングリットが後方のメンバーに矢が飛んでいかないよう、全身を駆使してその身に受ける。


 次に発動したのは棒にくっついた刃が回転している物が床から飛び出してくるタイプ。


「オラアア!」


 こちらもイングリットの防御力を前面に押し出し、ラリアットで半分にぶっ壊した。


「ひぃひぃ、も、もう限界なのじゃ……イング、おんぶしてほしい、のじゃ……」


「ぼ、僕も~! イング、おんぶ~」


「クソが!!」


 体力の無いシャルロッテがおんぶを要求し、まだ余裕のあるメイメイがここぞとばかりに便乗。


 一瞬だけ止まった後に2人を背負い、ひたすら走る。


 クリフもチラチラとイングリットへ視線を向けるが華麗にスルーされた。体力の限界を向かえるまでは走れという意思表示だ。


 どこかに避難できる場所、もしくは別れ道がないかとひたすら走っているが、そんなモノは見当たらない。


 直線とカーブが交互にやって来て、走る速度がカーブに差し掛かる時に減速させられる。


 たまにある直角カーブで鉄球が壁に激突し、ようやく止まるかと思いきや、直角カーブの直後はやや坂道になった道が現れて鉄球が止まるどころか速度が上がる。


 なんとも意地の悪い設計をしているダンジョンだろうか。


「だから罠には気をつけろって言っただろうがあああ!!」



-----



 この階層には魔獣が生息していないのか、嫌らしい罠はそこかしこに設置されど魔獣の姿は1匹も見当たらない。


 むしろ今のイングリット達にとっては現れなくて良い。あり難い事なのだが。


「前! なんか明かりが見える!」


「部屋じゃ! 部屋があるのじゃ!」


 3人を抱えて走るイングリットの前方には部屋の入り口らしき()が見え、中からは微かな光が漏れ出している。


 視界に入っている入り口は人よりもやや大きいくらい。どう見ても巨大な鉄球は通過できないだろう。


 あそこに入れば一旦落ち着けるかもしれない。そう考えたイングリットはラストスパート、とばかりに地を蹴る足に力を入れた。


「さっきの坂道で加速しておる! はよう! はよう!」


 後方から勢いを増して迫る鉄球に悲鳴を上げながらペチペチ、とイングリットの兜を叩く。 


「お前、ほんと、あとで、ぶっ飛ばす!」


 補助魔法を受けているイングリットにも流石に疲れが見えている。


 シャルロッテの態度にイライラしながらも荒い息遣いで返答。兜と鎧の中は汗でビッショリだ。


「うおおお! ゴール――」


「グオオオオ!」


 ズダダ、と全力疾走のまま入り口を潜ると1層と同じような広い空間に出る。


 その空間の中央に立っていたのは2メートルを越す大きさを持ったグレートグリズリーという巨大で凶暴な熊の魔獣だった。


 グレートグリズリーは両手を挙げ、口の中に生える鋭い牙を見せ付けながら獰猛な鳴き声を木霊させる。


 そして、背後には下層へと続く階段があった。


 こいつが階層の主か、と思いながらイングリットが足を止めようとすると――


 ズドーン、という衝突音。その直後には何かが崩れるような破壊音と共に姿を現した鉄球。


 なんと、転がってきた鉄球は部屋の入り口で止まる事無く、入り口を破壊して中まで突っ込んできたのだ。 


「マジかよおおお!」


 止まりかけていた足を再び動かし、イングリットはグレートグリズリーの背後にある階段を目指す。


 イングリットはグレードグリズリーが鉄球に驚いている間に脇をすり抜ける。


「グモオオオオ!?」


 グレートグリズリーも鉄球から逃げようと体を捻ったが時すでに遅し。


 グチャン、という音がイングリットの背後から聞こえたが気にしている暇はない。


 イングリットは3人を抱えたまま階段を駆け下りて行った。


読んで下さりありがとうございます。

恐らく明日も昼に投稿します。

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