4 inしたお - イングリット編 3
イングリットはゲーム内で鍛えに鍛えた盾師――タンクだ。
さらに、彼の種族である赤竜族は特殊な種族スキル『憤怒』を持ち、攻撃を受けたり避けられたり……自身がイライラすると自動的に種族スキルである『憤怒』を発動する。
つまり、キレたら攻撃力が恐ろしい程に上昇して強くなり、理性を失う程に怒り狂って狂戦士のようなスタイルを得意とするのが赤竜族の特徴であった。
しかしながら、イングリットというプレイヤーは赤竜族が攻撃特化のアタッカー種族というのをゲーム開始当時知らなかった。
ゲーム開始当初、イングリットは種族スキル欄を確認せずに防御力の低い初期ステータスを見て欠点を埋めようと『盾師』という防御成長補正のあるタンク系初期職に決定。
さらにはレベルアップ時に貰えるステータスポイントも防御力1点に注いだ。
イングリットはゲーム開始1週間後――アンシエイル・オンラインは自身の種族スキルと相性の良いタンク・アタッカー・回復役のどれかを選び『特化型』に育てた方が有利になるという情報を得る。
そう、彼は失敗したのだ。
アンシエイル・オンラインで最も重要とされる種族スキルと噛み合わない、赤竜族と盾師という組み合わせ。
本来ならばイングリットはアタッカーになるべき種族だった。
しかもこのゲーム、キャラクターは1つのアカウントに1キャラしか作れない。一度作ったキャラクターは削除不可。更にはキャラクターメイキング画面に入ると何故か種族が決まっており、変更不可。
画面に入った時点でランダムに選ばれるのではなくゲームID毎に決められるのか、キャラクターメイキング画面を何度入り直しても種族が固定されてしまう。
つまり、ゲームを起動した時点で「お前の種族はコレ」とゲーム側に決められてしまうのだ。
ある意味、プレイヤーにロールの選択肢が無い上にキャクターデリートによるやり直しができないクソゲー。
アタッカーがやりたいけど、強制選択された種族の最適化を求めるとタンクをやらざるを得ない。そんなプレイヤーが続出した。
――それでもプレイヤー達がモチベーションを維持できたのは、まるで本物のように各地に生息する魔獣とのリアルな戦闘、未開の地を冒険して大陸の果てに見える美しい景色、魔獣を倒した後に解体しないとアイテムが得られない等の、これは現実なんじゃないかと錯覚するほど細部までこだわったリアルさ。
冒険というのも圧倒的にリアル志向で、冒険の最中に睡眠や飲食をしなければ空腹やら脱水症状に陥るなど、完全にファンタジー世界と化した現実世界を体験をしているような感覚をゲームで得られたからだ。
勿論、イングリットよりも前にゲームを始めた者達も、このキャラクターデリート不可という罠に嵌ってクソゲー認定した者が多数いた。
そんな被害者を出さないようにゲーム内からアクセスするプレイヤー掲示板内に『初心者の心得』というスレッドを作った者がいた。
さらには有志が運営に掛け合って最初に降り立つ街のスタート地点目の前にわざわざ掲示板を設置させるなどと手厚く初心者支援していたのだ。
偉大なる先人達が掲示板に『キャラ削除不可なので種族スキルを確認してから職を選ぼう』とご丁寧に文字サイズも大きくして注意書きまでしていたのだが、イングリットは掲示板の内容を読まずにゲームプレイを開始してしまった。
結果、当時は他のプレイヤーから「紙タンクww」「床ペロ憤怒タンクで草」「種族スキルは床掃除かな?www」などと散々馬鹿にされ、パーティを組む事が出来ずにソロプレイをせざるを得なかった。
しかし、イングリットは諦めなかった。
普通なら投げ出してしまうような失敗でもゲームを辞めなかったのは、ゲーム内を冒険して誰も見つけていないダンジョンを発見したり、誰も見た事がない景色を発見したり、世界の謎を解き明かしたり、ダンジョン奥にある宝箱を開けてレアアイテムや金銀財宝を得るという何事にも変えがたい快感を知ってしまったからだ。
ドキドキ、ワクワクと胸が躍る先が全くわからない冒険。立ちはだかる強敵とのスリル満点な戦い、誰も手にした事がない未知なるアイテム。誰も解き明かしていない新しい発見。
何度も死んだ。何度もPKにあってリスタートする事もあった。見つけたダンジョンをやっとの思いで攻略したのに、得られたアイテムは超低級アイテムなんて事もあった。
それでも、楽しかったのだ。
何かを発見し、何かを得て、何かを失ったとしても。
冒険というスリルに満ち溢れたモノ。その果てにある結果。結果がどうあれ、達成した時に得られる心に満ちるような気持ち。それは抗いきれない快楽だ。
それを体験できるゲームを投げ出すなど、イングリットにはできなかった。
しかし、フィールドで魔獣を狩るだけならソロでも可能だが、キャラクター育成の要である『装備集め』の為に行うダンジョン攻略――ダンジョン最奥で宝箱を守護するボス魔獣はパーティプレイでないと攻略不可能な為にパーティーを組むしかない。
「意地でも盾プレイをしてやる! 安定した盾役になって見返してやる!」
そう心に決めて、使える物は何でも使うというスタイル、ヘイト管理、対複数の魔獣と遭遇した時の判断力、回復役に好まれるタンクの動き、紙の防御力を防御力の高い装備で少しでも埋め、ポーションなどの多用でステータスを少しでも上げてタンクを全うした。
1回のパーティプレイで使うアイテムで赤字を出す事も珍しくは無かったが、イングリットはフィールドソロ狩りで金を稼ぎながらも他のプレイヤー達とパーティプレイを続けた。
他人と一時的なパーティ――野良パーティ――を組む広場でパーティ募集しても安定志向を好むプレイヤーには見向きもされなかったが、自分とパーティを組んでくれた人達に対して失望させないよう全力で盾役を全うした。
イングリットは努力を重ねながらダンジョンでレアアイテムを探し、フィールドでソロ活動をしながら日銭を稼ぐ日々を送る。
『君、面白いね』
そんな日々を送っている時に野良パーティーを募集する場所――イシュレウス大聖堂前で出会ったのがクリフとメイメイだった。
彼らはチグハグなイングリットに興味を抱いた2人と固定パーティーを組んだ。
パーティ活動は2人の理解と己の努力で何とかやっていたが、やはり『お荷物』になる場面は多かった。
しかし、イングリットに福音が齎される。
『第2次大型アップデート内容:転生システムの実装』
アップデートによって追加された転生システム。遂に運営によって公式的なやり直しシステムが導入された。
50が限界だったレベルを1に戻し、成長したステータスを引き継ぐか職業スキルを引き継ぐかを選択して、もう一度キャラクターを育成ができるシステムだった。
パラメーターを引き継げば、再びレベルアップで得られるポイントを上乗せできる。職業スキルは消失。
職業で得たスキルを引き継げば前回に就いた職業はマスター済みとされ、得たスキルを覚えたまま別の職業に就けるがステータスは初期値に戻る。
この2択。
イングリットは迷う事無くステータスの引継ぎを選択してタンク性能を底上げする事を選んだ。
やりこみ要素として用意された転生は何度もできた為、レベルがカンストする毎にステータスを引き継いでいく。
その結果、5回目の転生を終えてレベルをカンストさせた際に出来上がったのが防御ステータス値がMAXというカチコチ化物タンクが出来上がったのだ。
さらに転生して防御ステータスが伸びていく毎にボーナススキルを獲得した。
魔法超耐性、デバフ反射、HP自然治癒――この3つのスキルを新たに得て、イングリットはゲーム内ナンバー1のガッチガチ不死タンクに成り上がった。
ランキング1位になる事が出来たのもイングリットの長い努力と高い防御力、スキル性能のおかげだろう。
HPは1万ある上に魔法でも物理でもダメージが出ない、おまけにHPが回復。
テメェはどこの裏ボスだ、終いには縮退砲でも撃つのか? とイングリットを馬鹿にするプレイヤーはいなくなった。
転生システムでガチガチになったが、イングリットは職業スキルを引き継いでいないため盾師で覚えるスキルしかない。
弱点を挙げるとすれば、攻撃特化の赤竜族でありながら攻撃値は初期値のままで、攻撃スキルはシールドバッシュと盾突撃のみな事だろう。
剣術など剣を扱う為のパッシブスキルも持っていないため、盾しか満足に使えない事だろうか。
他はヘイトを稼ぐスキルや防御系のバフスキルのみだ。
一応、それでも装備を使った切り札はあるが……それも限定状況のみ。
高レベルのモンスターと高レベルプレイヤー相手では『殺されないけど、こちらが相手を倒すのもスゴイ時間が掛かる』といった状況に陥る事が多い。
だが、タイムアタック制限などが無ければ関係ない。
一撃でHPを全損しない限りはHPが勝手に回復するのだ。
相手が攻撃してこようが、近づいて盾で何度も殴ればそのうち相手が死ぬのだから。
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「しねえええ!」
相変わらず馬鹿の1つ覚えのように、騎士が剣を構えて突進してくる。
(こっち大盾なのに突っ込んで来るんかい……。仕方ない、気絶させよう)
イングリットは盾を構えて騎士の攻撃を真正面から受け止める体勢を取った。
振り下ろされた騎士の剣はガキンという金属を弾く音を鳴らす。
騎士はもう一度剣を大盾に打ち付けるが、分厚い大盾は傷1つ付けずに剣を受け止め続けた。
「シールドバッシュ」
イングリットは3度目の斬撃に合わせて持っていた大盾を横薙ぎにし、カウンター気味に騎士へ大盾をぶち当てた。
「オボォ!」
巨大な大盾をもの凄い勢いでスイングされ、横から当てられた騎士はトラックに衝突されたかの如く吹き飛んで地面に転がった。
「な!?」
仲間を吹き飛ばされ、動揺している他の騎士に近づき――
「シールドバッシュ」
「あばっ」
吹き飛ばす。
だが、吹き飛ばされた騎士達は若干ふらつきながらだが立ち上がってイングリットを睨む。
(あれ? スタン効果が出ないな)
スタン効果付きのシールドバッシュで彼らが死なないように配慮するが、肝心の足止め状態異常の代表格たるスタン効果は表れない。
死んでしまえば彼らが更にヒートアップしてしまう。
そうなれば、円滑なコミュニケーションというモノが取れなくなるからだ。
「なぁ。まだやるか? 俺は聞きたい事があるだけで――」
「愚問だ!! 我らは魔族などに負けぬ!!」
「魔族になど屈せぬ!」
イングリットは平和的な解決を望み、一応の最終警告をするが彼らはオークを前にした女騎士の如く戦闘続行を希望した。
そう。希望してしまったのだ。
イングリットも薄々は感づいているが恐らくこれは現実だ。
ゲーム内でも倒した魔獣は解体をしないと消えないが、放置したとしても当然時間経過でも光の粒子になって消える。死体に触れなければ5分で消えるルールが備わっている。
もちろん、触れるのはプレイヤーの足でも手でも頭でもいい。
とにかく触れれば5分ルールが適応されるのだが、イングリットも騎士達も少し離れた場所に放置されているゴブリンの死体には、ゴブリンが死亡してから一度も触れてはいない。
いつまで経ってもゴブリンの死体が粒子になって消えない事が『ゲームではない』という何よりの証拠であり、それで間違いないだろう。
それに加えて視界内にはゲームでお馴染みである、HPバーが相手も自分も表示されていない。
と、いうことはゴブリンのように矢で頭を射抜かれたり、大よそ現実世界で人が死ぬ程の傷や衝撃を受ければ人体が損傷して死ぬ。
そんな状況で殺すと言って斬りかかるのは、どう見ても殺意を持って人を害するという行為。殺すならば、殺される覚悟を持てというヤツだ。
勿論その覚悟はイングリットも持っている。
ゲーム内でも殺意ムンムンに殺しにかかってくる敵勢プレイヤーを前にして「ひええ」なんて声を上げる新規のような可愛い存在じゃない。
イングリットは既に他の廃人どもに揉まれに揉まれたプレイヤーだ。
PKしてくるならPKし返して、死体が粒子になって消える前に蹴りを入れるという悪魔の所業を平然とこなす心の荒んだ廃人様だ。
そんな相手に先ほどから本気で斬りかかって来ている彼らは死んでも文句が無いのだろう。
相手をPK対象と見なしたイングリットは兜の中で獰猛な笑みを浮かべる。
情報を引き出すための円滑なコミュニケーションは最後に残った1人に行おう、とイングリットは心に決めて大盾を持つ腕に力を入れる。
「はあああ!!」
「シールドバッシュ」
馬鹿の一つ覚えの如く突っ込んで来る騎士をお得意のシールドバッシュで吹き飛ばした後に、吹き飛ばした騎士へ近づいて盾の下部にある尖がっている部分を倒れている騎士の腹部目掛けて――思いっ切り叩きつけた。
「あぎいいい!!」
身に着けている装備で身体能力が補強された、通常の人とは比べ物にならない程の腕力で叩きつければ、騎士の装備していた胸部鎧は陥没してメキメキと音を立てながら盾の下部が腹に埋まる。
特大の悲鳴を上げた騎士はピクピクと少しだけ動いた後に動かなくなり、盾を叩きつけた腹部からは陥没して破損した鎧の一部が腹に刺さったのか、ジワリと赤い血が流れて草原に生える短い草を赤く染めていく。
「なるほど」
魔獣はアイテムを獲得する為に死体が残る5分ルールがあるが対人戦は別だ。
対人戦で倒した相手はすぐに光の粒子となって消えて復活拠点である街へ送還される。
しかし、対人戦だというのに目の前で絶命したと思われる騎士が光の粒子になって消えない。
そしてゲーム内では無かった――骨を砕いた感触は初めて体感するが、確かに押し潰したという感触が手に伝わってくる。
これは現実で、初めての殺害行為。
だが、不快感や忌避感は沸き上がってこない。
むしろ自分の中にいるナニカが「それで良い」と肯定するのだ。
「よし、実験だ」
「は?」
イングリットの呟きに仲間の死に唖然としていた騎士の1人が反応する。
彼は反応した瞬間に、彼はイングリットの薙いだ盾に吹き飛ばされて地面を転がった。
「音声認識も無い気がするな」
シールドバッシュ、と口で呟きもせず心の中で呟くこともしないで放ったのだが、正直違いがわからない。
ゲーム内ではスキル名を口に出したり、心で思い浮かべなければスキルが発動しなかったのだが――スキル名を口にしないと腕が動かない等の不思議な現象が起きる、という事態は無いようだ。
その代わり、100% 現れるスタン効果は効果が見られないし当たった際のエフェクトも発生しない。
「じゃあ攻撃は適当に殴れば良いのか……?」
イングリットはクルリと他の騎士へ体を向け、大盾の上部両端を左右の手でそれぞれ掴みながら飛び込むように接近して騎士の頭に叩きつける。
「ふん!」
「あばっ!」
イングリットが持ち手を持って盾で叩きつける姿は、パイプイスで凶器攻撃をする悪役プロレスラーのような姿だった。
頭に叩きつけられた騎士は首の骨が折れ、首が体に埋まるように縮まって一撃で絶命する。
「ふん! ふん!」
絶命させた騎士は2人。残りは3人だが、1人は残すように心がけてパイプイスアタックで攻撃を繰り返す。
「あびっ」
たまに盾をジャイアントスイングのように振り回して脇腹を粉砕。
「エンッ!」
脇腹をぶっ叩かれた騎士は体と大盾の間に腕を差し込んでガードするが腕ごと体の骨が粉砕されて、理科室で変な薬品を嗅いだ子のような声を出しながらも、何度もバウンドしながら地面へ転がり動かなくなった。
攻撃行為の実験――結果は攻撃スキルはゲームと同じようには発動しない。むしろ存在しないのでは? と、一旦自分の中で結論付けた。
しかし、イングリットは攻撃スキルをシールドバッシュとチャージしか持っていないので、もしかしたら別のスキルは発動するかもしれない。
物理アタッカー担当のメイメイや魔法担当のクリフにも確認しないと確実とは言えないだろう。
イングリットの実験が終了すると、あっという間に4人の騎士が死亡して残り1名となった。
「ひ、ひいい!」
イングリットは残った騎士を軽く大盾で吹き飛ばした後に、転がる彼の顔の傍に大盾の下部を叩きつけて盾を地面にめり込ませて見せた。
これでようやく円滑な異文化コミュニケーションを始める事ができる。
「質問に答えてくれ」
「わ、わかった! こ、答える!!」
イングリットの言葉に騎士は怯えながら何度も頷いた。
「ここはどこだ?」
「こ、ここはファドナ皇国の領内だ! ファドナ皇都の近くだ!」
「ファドナか……」
ファドナ皇国とは人間の住む国で大陸の東側に位置する。ファドナの西側には大陸中央を領土とし、聖樹という雲よりも背の高い大きな樹をシンボルにした『ベリオン聖樹王国』が存在する。
ベリオン聖樹王国こそがアンシエイル大陸の覇者であり、聖樹国の西にあるのはエルフの国であるトレイル帝国。このトレイル帝国とファドナ皇国は聖樹王国の属国だ。
ファドナ皇国は聖樹王国が母体の宗教『聖樹教』の信徒達が作った国であり、聖樹王国に絶対服従している国である。
ファドナの南は亜人の国があり、南西側に向かうと魔王国イシュレウスの領土だ。
ゲーム内で起きる大陸戦争。その戦火が開かれる地点はイシュレウス北東と北西にある国境地点か亜人の国の北で発生するのがほとんであった。
魔王国に所属する魔族プレイヤーはこれを東西戦線と呼ぶ。そして、相手となるのはファドナ皇国かトレイル帝国がほとんどだ。
逆に魔王国北にある中央の戦線――聖樹王国と戦う事は一度も無かった。
ゲーム内の聖樹王国は聖樹が生む結界に守られ、一歩も足を踏み入れられない未実装エリア扱いだ。
それ故に、聖樹王国は未だ未実装扱いで中央戦線が開戦されないのだろう、というのがプレイヤー間の予想であった。
「次の質問だ。人間とエルフは同盟を組んでいるか? 魔族と亜人は同盟か? この2つの勢力は対立しているのか?」
「そ、そうだ。俺達人間は魔族と亜人と戦っている。エルフ――魔女とも同盟だ! 何なんだ!? こんな当たり前の質問をして俺に何をするんだ!?」
エルフを魔女と呼ぶのは気になるが、とにかくゲーム内と情勢は同じらしい。
イングリットの質問――この世界では当たり前の世界情勢を質問をされた騎士の男は質問の裏に何か恐ろしい事があるんじゃないか、と勝手に思い込んで混乱し始める。
(エルフを魔女と呼ぶのも気になるが、まあいい。敵対してきて冒険の邪魔をするならぶちのめすだけだ)
イングリットがこの世界――真のストーリークエストを体験しようと思ったのは未知なるモノを得たいからだ。
未知なるアイテムが欲しい。金銀財宝が欲しい。誰も足を踏み入れたことの無い未実装エリアで胸が躍るような冒険がしたい。
ゲームでもイングリットの行動基準は『楽しい冒険をしてレアアイテムが欲しい。金銀財宝が欲しい』に尽きる。
大陸戦争は興味があまり無かったが参加していたのはそもそも大陸戦争の参加は強制であるし、勝利した際の報奨金が良かったからマジメにやってただけだ。
あと、運営に贔屓される人間とエルフがウザかったから。能力的に優れている種族への純粋な妬みがあったから。むしろ、参加している魔族と亜人プレイヤーは妬みの方が戦う理由としては多いだろう。
だが、この世界が現実で、この世界でも大陸戦争をしていたとしても正直どうでも良い。
ゲーム内で冒険の邪魔をするPKと同じように、邪魔するヤツ等は全て薙ぎ倒す。
(しかし……人間の国、ファドナか。確か宝物庫がどうこうとか噂があったよな)
イングリットはゲーム内で囁かれていたファドナ皇国の噂を思い出し、腰を抜かしている騎士へ命じた。
「よし。お前、脱げ」