表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/306

3 inしたお - イングリット編 2


「とりあえず、現在地を把握して2人と合流しなきゃな」


 再び鎧を着用し、兜を脇に抱えた状態で自分が最優先でやるべき事を口にした。


 同じ状況で別々とはいえ扉に吸い込まれたのだから2人も同じ状況に陥っている可能性は高い。


 ウィンドウが表示できず現在地の把握は不可。パーティーウィンドウも表示されないので仲間の現在地も把握できない。


 パーティーウィンドウが表示されないという事はパーティー間の音声チャットも機能しないので連絡を取るのも不可能。


 普通ならば連絡が取れない状況で合流するのは難しいかもしれない。


 しかし、イングリット達には目指すべき場所が存在する。


「合流場所と言えばあそこしかない」


 3人が思いつく合流場所。


 パーティー結成の切っ掛けになった場所であり、冒険へ出掛ける前は合流場所としていた魔王国の中心地、魔王都イシュレウスの北西エリアにあるイシュレウス大聖堂。


 この世界にも魔王国と王都が存在しているかは不安だが、それは情報収集をしてみないとわからない。


 イングリットはまず魔王国に行き、イシュレウス大聖堂を目指す事に決めた。


「ギャギャ」


『1』『1』


 目が覚めてから1時間程度だろうか。コンコンと棍棒で殴ってきていたゴブリンとはすっかり打ち解けていた。


 彼もイングリットの行動に賛成するかのように邪悪な笑みを浮かべながらイングリットの足を棍棒で2連打。


「お前も来るか?」


「ギギッ!」


『2』

  

 イングリットの問いにゴブリンは棍棒をフルスイングして答えとした。


 先ほどまでより気合の入ったスイング、つまりは否定(攻撃)なのだが。


「そうか。名前をつけなきゃな」


 どうにもイングリットは攻撃してくるゴブリンがじゃれているようにしか思っていないようで、テイマー職でもないのに名前を付けるという暴挙に出る。


 彼は足元でコンコンと棍棒をスイングするゴブリンの名前を考えていると、遠くから何かが近づいてくる音が聞こえてくる。


 聞こえてくる音に集中すれば、複数の馬が走る蹄の音だろうか。


 音の方向を眺めていると予想通り馬に跨った5人の者がイングリットの方向へ向かって来る。


 彼らは全員青色の騎士制服の上に体の急所部分を覆うように銀の金属防具を身に纏い、バケツのようなフルフェイス兜を被っていて種族はわからなかった。


 イングリットは近づいて来る彼らを見て、彼らに質問すれば現在地がわかるのでは? と思い、これ幸いと逃げる事無く待ち続ける。


 だが、馬に跨る青色の騎士達はイングリットが思いもしない行動へ出る。


 先頭を走っていた1人が背中に背負っていた弓を取り出し、矢を構えて撃ってきたのだ。


「ギギャッ!?」


 撃たれた矢はイングリットの隣にいたゴブリンの頭に命中。


 ゴブリンは短く悲鳴を上げながら数メートル先の地面に吹き飛ばされて力なく転がった。


「ゴブ太郎ォォォッ!?」


 ゴブ太郎。


 命名した彼の名を叫ぶイングリット。


 しかし、脳天に矢が命中したゴブ太郎はピクリとも動かず、イングリットの叫び声は虚しく木霊した……。


「貴様! こんなところでゴブリンを使って何をしようとしていた!?」


「その頭に生えている角! 魔族か! 偵察に来たのだな!?」


 ゴブ太郎を絶命させた騎士達はイングリットから少し離れた位置で馬から降り、腰に携えていた剣を抜きながら近づいて来た。


「魔族がここで何をしようとしていた!」


(あー、人間かぁ……。アンシエイルと同じで魔族と敵対してるのか? という事はやっぱりゲーム内なんじゃあ……)


 ゲーム内の人間勢力と言えば、魔族と亜人を見れば「PvPによる経験値がそんなに欲しいのか」と思うくらいには、問答無用で斬りかかって来る運営によって贔屓された畜生共だ。


 そんな事を思いながら黙っているイングリットに痺れを切らした騎士は怒鳴り声を上げて問いかける。


 魔族、魔族と言う彼らの声音には敵対心が聞いただけでわかるほどに込められていた。


 友好的な種族ならばこうは言わない。


 ゲーム内と同じく魔族・亜人、人間とエルフは敵対関係にある可能性が濃厚であった。


「あー。すまんが、ここはどこなんだ?」 


 が、まずは情報を得なければいけない。


 イングリットは剣を向けられているにも拘らず「まぁまぁ」と相手に落ち着くようジェスチャーで促しながら抵抗はせずに彼らへの問いに問いで返した。


「何を言っているか!!」


 しかし、イングリットの欲しい回答は得られなかった。


「もうよい! 殺せ!」


 面倒だったのか、魔族は皆殺しにしろというのが彼らの中では日常なのか、一番後ろにいた騎士が全員に殺せと指示を出した。


「はぁ。まじはぁ」


 イングリットは情報が得られず、現在地がわからない事態に思わず溜息を零す。


 とりあえず脇に抱えていた兜を被り、ボタンを押して豚のお面……ではなくフルフェイスモードに。


「はあああッ!」


 ガキン!


『10』


 先頭で剣を構えていた騎士がイングリットの肩に渾身の力を込めて剣を振り下ろす。


 だが、鎧に傷1つ付けることはできない。


「10かよ」


 イングリットの鍛え抜かれたステータスなのか、それともメイメイの作った防具が優秀なのか、どちらが原因なのかはわからない。


 とにかくゲーム内では万を越えるHPがあったイングリットは、騎士の剣を無防備で受けても痛くも痒くもなかった。


 ダメージ10。それはゲーム開始時にある初期街付近に出没するスライムの体当たり級だった。

 

 ステータスウィンドウは表示されないので実際に数値として減っているかは不明だが、弱い衝撃が体に伝わる。


 もっと大ダメージを受けないと『ダメージを受けた』という感覚がわかりにくい。

 

 そもそも自分が傷を受けて腕が欠損したり、血が出るのかも今のところは不明だが隣で転がるゴブリンに視線を向ければ、彼の頭からはダラダラと赤い液体が流れている。


(五感があるんだし、ダメージを食らったら俺も血が出そうだ)

 

「ハッ!」


『10』『8』『12』


 続けて3人に連続で斬られるがダメージは防御するまでもない。


 相変わらず脳内にダメージ音声はあるのだが、黒い鎧には傷1つ付いていなかった。


「き、貴様! 何者なのだ!?」


 騎士達は何度も攻撃するが、一向にダメージを受ける気配がないイングリットに焦り始めていた。


「ええ……」


 想像以上に弱かった彼らへイングリットも困惑の声を漏らす。


 防御すらしていないし、防御系のバフすら使っていない。


 ダメージ数値だけ見れば、ゲーム内で戦った人間とエルフプレイヤーは彼らよりも断然強かった。


 仮に彼らがゲーム内のプレイヤーだとしたら2桁のダメージなんてありえない。そう思ってしまうほどにゲーム内の人間とエルフは異常に強いのだ。


 なんて言ったって、新規プレイヤーらしき人間にレベル後半の魔族プレイヤーが互角に戦われてしまうほどだ。


 人間・エルフ勢力専用のエンドコンテンツ装備を持った者と並の魔族・亜人プレイヤーがタイマン勝負をすれば即消し炭にされ、その1人相手に魔族・亜人は10人以上で対峙しなければ勝負にならない。


 その話を聞いた時はこれ程までにバランスの悪いクソゲーがあるのか、と魔族亜人一同愚痴を漏らしていた。


 しかしながら、今目の前にいる騎士達が脅威ではないのは嬉しい収穫だ。


 このまま抵抗せずに現在地を聞いて立ち去ろう。そう思っていたのだが。


「あの。だから、ここがどこか教えてく」


「はああああッ!」

 

 振り下ろされた剣はイングリットの頭に命中。ガキン! と音を鳴らして脳天に軽い衝撃を伝える。


『15』


「聞いて?」 


 人の話を聞いてくれない。問答無用に攻撃してくる騎士達。


 次第にイングリットは諦めと彼らに対してイラつきを覚え始める。


「なぁ、頼むから話を聞いてくれよ」


「魔族の話など聞く耳持たぬ! 魔族は全て死ねえええ!!」


 最後のお願い、とばかりにイングリットは問いかけたが彼らの言う通り聞く耳を持ってくれない。


 やはり人間は対人経験値が欲しいばかりに狂ってしまった種族のようだ。


 仕方ない、と応戦しようとするがここで相棒である大盾が無い事にようやく気付く。 


 キョロキョロと周囲に落ちていないか探すが見つからない。


(インベントリ内か?)


 と考えた瞬間、イングリットの傍に景色がグラグラと揺れて空間の歪みが現れて少々驚く。


 しかし、その空間歪みを直視すると見覚えのあるアイテム類がチラッと見えたのだ。


(これ、インベントリか?)


 ウィンドウは表示されないがインベントリは使えるのか? と思いながらもイングリットは思い切って歪みに腕を差し込み、目的の物を頭に思い浮かべていると手に吸い付くような感覚を覚えた後に掴み取る。


 空間の歪みから引っ張り出したのは、イングリットの身の丈をすっぽりと隠すくらいに大きく分厚い大盾。


 製作者であるメイメイによって『断罪の黒盾』と銘を付けられたイングリット専用の武器。


「な、なんだその盾は!?」


 突然現れた黒い大盾に驚きを隠せない騎士達。


「臆するな! 所詮は盾だ! 囲んでしまえ!」


 その指示は正解だ。


 どれだけ大きな盾を構えようが盾による基本的な防御方向は180度に限られる。回り込んでしまえば防御していない背中を切るのは容易い。


 だが、それは普通の相手ならばだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ