35 パーティ加入
「ふ~ん。なるほどねぇ」
シャルロッテの登場によってクリフとメイメイから誤解され、全力でからかわれたイングリットはシャルロッテを救った(回収した)経緯を話した。
それと合わせて彼女の腹に刻まれたハート型の淫紋についても説明したのだが、クリフからは『こんな美少女と……羨ましい』という視線をビシビシと向けられる。
「で、この呪いは解呪できるか?」
イングリットが向けた視線の先には、ポンチョを捲り上げてお腹を見せるシャルロッテ。
ポンチョの下にある彼女の格好はサキュバスらしい、やや小さめのブラとローライズなおぱんてぃ。
事情を知らない者がシャルロッテの姿を見れば、事案発生だと勘違いするような格好とポーズであった。
クリフはニヤける顔を手で抑えながら、声音だけは真剣に「どれどれ」と発しながらシャルロッテの腹の前で屈んで淫紋を観察し始めた。
が、魔導を極めた者であり、魔導魔眼を持つクリフだからこそだろう。
彼女の腹に刻まれたソレを見た瞬間に理解してしまった。
「これは……無理だね」
クリフの目に映るのは淫紋の構成術式。
ゲーム内に存在していた魔法の階梯は第6階梯が最上位なのだが、クリフの目に映る淫紋の術式はどう見ても第6階梯よりも複雑に作られた術式であった。
「これが刻まれた状況をもう少し詳しく教えて」
魔法を極め、魔導の頂に到達したと言われ続けて来たクリフだが、この世界に来てから未知なる魔法に出会ったのはこれで2度目だ。
1度目はインベントリ。そして、この淫紋。
普段は美少女狂いなクリフだが、魔法への興味も同じくらいの熱量を持っている。
そんな彼が未知なる魔法術式と出会ったのであれば、真剣な表情を浮かべて真面目にイングリットとシャルロッテの両名から根掘り葉掘り状況や使用した魔法の事を聞くのも当然の事。
「うーん、なるほど。彼女がイングリットを性なる奴隷にしようとあは~んうふ~んな魔法をかけたんだね。なんて羨ましいんだ。でもその結果、無詠唱の呪いとイングのデバフ反射が起動した、か……」
当時の状況を聞き終えたクリフは顎に手をやりながら真剣な表情を浮かべながら、途中美少女狂いの本性が漏れ出ていた気もするが……脳内で考察を重ね続け、答えが出たのは10分後であった。
「一先ず、情報が足りないけど……考えられる原因は、シャルロッテちゃんの使った呪いが私達の知る魔法とは違う系統のモノである可能性」
クリフは考察した答えを語りながら人差し指を立てる。
3人が知る魔法はアンシエイル・オンラインにあった魔法のみ。
それ以外の――この世界で独自に進化し、生まれた魔法系統であったならばクリフが知らないのも無理は無い。
「もう1つは、シャルロッテちゃんの使う呪いが第7階梯の魔法だった、もしくは私達にとっての種族魔法や禁術だった可能性」
クリフは2本目の指、中指を立て告げる。
仮に系統がアンシエイル・オンラインの魔法と同じだったとしたら、第6階梯まで全ての魔法を知っているクリフが知らないとなれば更に上の魔法であり、ゲーム内には存在しなかった第7階梯の魔法である可能性もある。
もしくは、種族専用に用意された魔法である可能性。
ゲーム内と同じ系統の魔法であり、第6階梯の呪いならば第6階梯の解呪魔法で解呪出来る。
だが、クリフが試しに使ってみたが解呪はできなかったので、第7階梯級の魔法もしくは種族魔法である可能性もあるが、そもそも第7階梯が存在していたとしても術式を見た事が無いので断定はできないし、種族魔法だったならこの種族スキル・特性に対してのカウンタースキル・特性を持つ種族でなければ解呪できない。
更に悪い想定である禁術。
これはもう手も足も出ないレベルで、伝説級の解呪アイテムが無ければ解呪不可能だ。
「私達の会得している魔法の最大は第6階梯まで。私の使える解呪も第6階梯までしか効果が無い。術式を見ても、魔法の種類は断定できないけど……これは専用の解呪が必要なレベルで難解な代物だよ」
「そ、そんな……」
現状では解呪不可能、と知ったシャルロッテは顔を青くしながら動揺を隠す事すら出来ない。
その横で腕組しながら聞いていたイングリットは、チラリとシャルロッテを見た後に口を開いた。
「お前、使ったのは種族魔法じゃないか? お前はサキュバスとヴァンパイアのハーフで、どちらの特性も持った特殊な体質をしているとか言ってただろ」
クリフはイングリットの言葉を聞いて、再び淫紋へと注目する。
「なるほど。種族のハーフ……。確かにゲーム内には結婚システムや子孫のシステムは無かったからね。未知なる魔法? いや、新種の種族スキルか。ゲームでは表せない自然の摂理なのかな?」
クリフはブツブツと呟きながら再び考察の海へと潜っていった。
その傍らで、イングリットとシャルロッテは再び口論を始める。
「解呪できないのであれば、尚更お主から離れられぬではないか! 妾は死んでしまうのじゃぞ!?」
「はぁ? 自業自得だろ。勝手に死ね」
「嫌なのじゃ! まだ死にたくないのじゃ! 絶対離れないのじゃ!」
パンイチ兜であるイングリットの割れた腹筋にしがみ付くシャルロッテ。
その絵面は事情を知らない者が見ればどう考えてもヤバイ場面だと思うだろう。
そんな中、黙って話を聞いていたメイメイがシュバッと手を挙げる。
「じゃあさ~? シャルロッテも付いてくれば良いんじゃない~?」
「は!? コイツを連れて行くのか!?」
イングリットはメイメイの提案に思わず大声を発してしまう。
「うちのパーティってデバッファーいないし~? 基本的な方法で攻撃力を稼いでない僕達には必要じゃないかな~?」
イングリット、メイメイ、クリフの3人はまともに攻撃系の武術スキルを会得している者がいない。
彼らは純攻撃武器のパッシブスキルも持っておらず、耐久力に頼っての持久戦、特殊な職業で作った武器の攻撃力に頼りきり、魔法の会得数は多いが魔力に難がある回復兼魔法アタッカー。
ゲーム内では何とかなっていた。死んでも街でリスポーンし、対策を考えれば良い。
だが、ここは現実世界だ。
例えアンシエイル・オンライン内でトップ3を独占していたプレイヤーだったとしても、一瞬の判断が命取りになり、取り返しの付かない状況に陥る可能性はあり得る。
死んで蘇生魔法が効くのかも不明。全滅すれば終わり。
自分達の生存率が上がり、不安定なパーティにデバフを行う役割を1人加えて安定感が少しでも増すならば。
メイメイの判断は正しいだろう。
「あ、それ私も賛成。パーティ内に美少女が増え――シャルロッテちゃんの使う呪いを間近で見たいし、研究したい。呪いの効果は本物だから、イングの魔力を供給しないと彼女は本当に死ぬと思うよ。あと、私が触っても供給されるのかジックリ……げふんげふん」
クリフは何やら内に秘める私欲を曝け出しそうになっていたが、未知なる魔法の研究は自分達がこの世界で生きるのに有利になる要素であると語った。
「……しょうがねえ。わかったよ」
メイメイの言い分もクリフの言い分も正しいと十分に分かっているイングリットは渋々といった雰囲気を出しながらも賛成した。
彼が渋っていた理由は冒険で得た金銀財宝を等分する際に自分の分け前が減るが嫌だったからなのだが……。
シャルロッテならば知らない相手でもないし、後になってこの世界の住人――自分の知らない他の誰かをパーティに入れて揉め事が起きるよりはマシだと判断した。
(まぁコイツ、案外やる気あったしな)
魔王都までの道中、同行するならば戦えとクロスボウを渡せば何だかんだ文句を言いながらも真面目に取り組んでいたシャルロッテ。
やる気があり、向上心がある相手を嫌いと言える程イングリットの心は狭くないし、彼もそういった相手には何だかんだ文句を言いながら世話を焼いてしまう性分なのだ。
「やったー! これから世話になるのじゃ! 頑張るのじゃぁ!」
ともかく、同行を許されたシャルロッテはホッと一安心。
(なんか上手く同行できる事になったのじゃ! ラッキーなのじゃ!)
魔王から命令された特務も遂行でき、イングリットから魔力の供給も可能になるので魔力枯渇で死ぬ事も回避。
こうして3人のトッププレイヤーパーティに1人のアヘ顔美少女デバッファーが加わった。
1月28日 1:30 少し改稿
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