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34 ヒロインは遅れてやって来る


「こちらが3名が宿泊している夢見る羊亭です」


「道案内、ありがとうなのじゃ」


 魔王城で魔王と4将に囲まれ、緊張感漂う空間から解放されたシャルロッテは魔王より命令された特務――イングリット達の同行を監視するという任務を遂行するべく、3人の宿泊場へ魔王城所属の兵士に案内してもらっていた。


「いえ。お気をつけて」


 シャルロッテは魔王より預かった特務令状を片手に案内してくれた兵士に礼を言って彼を見送った。


「しかし……。ここまで案内されたが、どうやって会えばいいのじゃ?」


 眉間に皺を寄せながらイングリットを訪ねる理由について悩む。


 特務の件は彼らには秘密にせよ、と魔王に厳命されているので正直には明かせない。


 かといって、イングリットに助けられてからは「魔王都に行けば何とかなる」とも言っていたので今更自分も同行したい! と言い出すのも不自然かと考えていた。


 しかし、彼女にはイングリットを尋ねる理由はちゃんと存在する。


 宿の前で悩むシャルロッテの傍を通ろうと道を歩いていた傭兵らしき男性が、馬車を避けた拍子に彼女の体にぶつかってしまった。


 さらには腰に収めていた剣の柄がシャルロッテの背中に「ドン」とやや強めに当たる。


「おっと、ごめんよ」


 シャルロッテにぶつけてしまった男性は素直に詫びる。


 正しい。彼の対応は至極真っ当のモノだ。


「お"っ!」


 当たり所が悪く、背中にやや強めの衝撃を受けたシャルロッテはビリビリと体中に快楽の波が襲い掛かる。


 股からは何か不思議な液体が少しだけ漏れ出し、彼女の肉付きの良いふとももを伝う。


 この異常たる反応こそが彼女がイングリットを訪ねる理由なのだが、彼女がそれに気付くまで5分以上掛かった。



-----



 一方で部屋の中で会議中のイングリット達はクエストアイテムである真実の鍵を取り出して、クエスト内容を空中に投影させていた。


「北西にある神殿。これについてはイングが来るまでに調べてあるんだ」


 一番最初に魔王都へ辿り着いたクリフはこの世界の事や歴史を調べる事から始め、クエスト内容にある北西の神殿についても既に調査を終えていた。


「何でも魔族領の北西――魔族領からエルフ領内に入った場所にある森の中に魔神を祭る神殿があるみたいなんだ。地図でいうとココなんだけど、メイが最初にいた場所付近みたいなんだよね」


 クリフが机の上に地図を広げ、歴史書を読み漁って『北西の神殿』というワードを調査すると該当する場所が見つかった。


 該当する神殿は元々魔族領内に建設されたのだが、神話戦争以降に今まで続く大陸戦争で魔族の領土がエルフに奪われてしまったので、現状では神殿の所在地はエルフ領内という事になっている。


「メイ、魔王都から何日掛かる?」


 イングリットがメイメイへ顔を向けて問う。


「う~ん。馬車で送って貰った時は3日くらいだったかな?」


「そうか。じゃあ、鎧を治している間に足を用意して……市場で食料の買い込みもしなきゃな。というか、メイ。お前も魔王都に来るのにツレがいたのか?」


 イングリットは移動について考えを巡らせた後、自分と同じような方法で魔王都へやって来たメイメイに興味を向ける。


「うん。まおー軍の4しょーとかいうオーガの人に送ってもらってさ~。魔王都に到着した後に傭兵登録もしたんだ~」


 お偉いさんの口添えがあったから加入試験はパスなんだって~、と暢気に語るメイメイ。


 しかし、一方で話を聞いていたイングリットとクリフは眉間に皺を寄せていた。


「お前、傭兵登録したのか?」


「メイ、登録したの?」


「うん。したよ~。素材の買取とかもあるし、便利だって言うから~」


 イングリットとクリフはすぐに確信した。


「お前……騙されたな?」


 兜の中で心底イラついた表情を浮かべるイングリットはいつもよりも低めの声で告げる。


「え?」


 しかし、メイメイは仲間が不機嫌になった、という事しか察する事が出来ず、訳がわからず呆気に取られるだけ。


 そんなメイメイにクリフはいつもと同じ声音で優しく語りかけた。


「メイ。この世界の傭兵っていうのは、メイの言った多くのメリットと引き換えに大陸戦争への参加が義務付けられているんだ」


 素材の売買、質の良い宿への斡旋と割引、依頼ボードに貼られる魔獣の討伐依頼や街からの雑用依頼をこなせば、一般住民の平均収入よりも多くの金を得られる傭兵制度。


 それだけ見れば魅力的な仕事であり、制度だろう。


 しかし、平時の『良い暮らし』とは引き換えに大陸戦争が起きれば必ず招集され、傭兵に拒否権は無い。


 つまりは冒険主体で動きたいイングリット達からしてみれば、大陸戦争への参加義務化は大きな枷となる。


 クリフに説明されたメイメイはポカンと口を開けて放心した後に、みるみると顔を青くしてうろたえ始めた。


「ど、どうしよう!? 僕、大陸戦争なんてしてる暇があったらダンジョンに行ってレア装備を探したいよ!」


 相変わらず未知なる武器を求める事しか考えていないメイメイはイングリットの腰へとしがみついて泣きつく。


「まぁ、どうにかなるだろ。出発前に傭兵組合に行って登録解除してから行こう。……にしても、メイメイを勧誘したのは4将か。俺も4将に勧誘されたが、ロクなもんじゃねえな」


 イングリットはメイメイを誑かしたオーガの男に「次に会ったら文句の1つでも言いながら大盾の1撃もくれてやろう。もしくは、このネタで金銭を要求しようと」と心に決める。


「よしよし。メイ? これから何かする時は私かイングに一度聞いてからにするんだよ?」


「うん。そうずる~」


 ずびずびと鼻水を啜りながら泣くメイメイをイングリットの腰から剥がし、自分の膝の上に乗せて彼女の頭を撫でるクリフの顔は変質者のようであった。

 


-----



 今後の行動予定がある程度纏まり、メイメイの涙も止まったところで部屋のドアがコンコン、とノックされる。


 クリフが部屋の中から「どうぞ」と告げると、ドアが開かれ現れたのは宿のカウンターを任されているサテュロスの娘だった。


「あのー……。イングリットさんを訪ねて、お貴族様がいらっしゃっているのですが」


 そう告げるサテュロスの娘はパンイチに兜着用という変態スタイルなイングリットへ視線を向けるが、イングリットのスタイルを視認した後に一瞬で目を伏せた。


「イングリット! 妾なのじゃ!!」


 そんな彼女の脇を通り、部屋の中へ入って来たのはポンチョのようなマントに身を包んだシャルロッテ。

 

「あー……」


 シャルロッテの姿を見たイングリットは「お前貴族だったっけ」という感想を内心抱く。


 部屋へ案内したサテュロスの娘は「お知り合いですか? 大丈夫ですか?」と言いたげな視線を向けているので、イングリットは彼女へ頷きを返すと彼女は部屋の外へ出た後にドアを閉めて行った。


「イングリット! 妾との約束を忘れておらぬだろうな!?」


「約束?」


「呪いを解くという約束じゃ! 魔王都に行けば知り合いが解呪出来るかもしれぬ、と言っておったじゃろ!」


 シャルロッテは然もイングリットが約束を忘れていたように言うが、本当の所は彼女も忘れていたのだ。


 宿の外でアヘ顔を晒した時に気付き、イングリットを訪ねる口実は「コレだ!」と閃いたのだ。


 しかし、そんな経緯など知らないイングリットは素直に忘れてた事を表情に出す。


「解呪出来なければ、妾はお主から魔力供給されなければ死んでしまうんじゃぞ!? 妾をこんな体にして! し、しかも……妾のしょ、処女を……ごにょごにょ……。と、とにかく! 妾を見殺しにするのか!」


「いや、別にお前の呪いが解呪されようが、されまいが、俺には関係無いし。お前がどこで死のうとも俺には関係無いし。そもそもの原因はお前の自業自得ですしおすし」


「う、うるさいのじゃ! この鬼畜! 鬼畜竜!」


 イングリットの口から飛び出る容赦無い本音にシャルロッテは涙目になりながらイングリットの腹をポカポカと殴りつける。


 そんな彼女の行動にイングリットは心底「ウゼェ」と内心抱いていると、背後から彼の肩にポンと手が置かれる。


「イング。この美少女は誰だい? しかも、彼女の体をどうこうって言ってたね? ん?」


「イング~。オラオラ系でヤリ捨て上等~?」


 イングリットが背後を振り向くと、そこにはニヤニヤと笑みを浮かべた2人の仲間が立っていた。


「ウゼェ……」


読んで下さりありがとうございます。


最近タイトル変えようか悩んでます。

明日も投稿します。

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