33 パーティ会議
無事に合流を果たしたイングリットはクリフとメイメイの宿泊する夢見る羊亭へ場所を移した。
イングリットの部屋――2人部屋しか開いてなかった――を追加で取り、彼の部屋に集合して各々が集めた情報の報告会を始める。
所謂、パーティ会議というヤツだ。
「一先ず、2人も既にわかっているだろうが……ここはアンシエイル・オンラインの世界、もしくは酷似した世界であり、これはゲームではなく現実世界という事で間違いないか?」
「異議無し」
「同じく~」
3人とも考えは相違無いようだ。
ゲームで感じる事の無かった五感や魔獣・人に限らず、倒した相手が粒子になって消えない事実を直視しておきながら「これはゲーム。新システム」と言い張る方のは無理がある。
むしろ、これは現実世界だと認めた方がしっくりきてしまう。
「まぁ、そうなるよな。敵と戦ってダメージというか……痛覚がある。聖なるシリーズ持ちの奴と戦ったが、滅茶苦茶痛かったからな」
イングリットは宿へ向かう道すがら人間との大陸戦争に介入した件は2人に話している。
というよりも、マントで隠していた鎧の腹部に空いた穴をメイメイに目聡く見つけられてしまい報告という名の言い訳をしなければならなかった。
そのため現在のイングリットは鎧を脱ぎ、パンツ一枚の状態に兜のみを着用した変態スタイルだ。
「ほんと、よくやるよ。聞いた限りじゃ私とメイメイが戦えば一撃で死ぬ感じだし……頭おかしいの?」
「イングは頭おかしいよね~。聖なるシリーズ持ちとタイマンするなんてイングくらいじゃないの~? 僕の作った作品に穴開けるしさぁ~」
クリフは椅子に座りながら机の上で頬杖を付きながら呆れ、メイメイはイングリットから強引に脱がした鎧に出来た穴に小さな手を突っ込みながら呆れる。
「お前等に言われたくない」
クリフとメイメイはイングリットの欲望に塗れた思考を貶すが、彼に言わせてみれば2人も自分と大差ない思考回路の持ち主だ。
片や美少女を見れば問答無用で首を突っ込み、片や珍しい装備を見ればそれで頭の中が埋め尽くされる。
メイメイもイングリットと欲望の種類が似ているが、彼女は装備限定。イングリットは金銀財宝、金になるものなら見境なし。
クリフは……2人と少し路線が違うが欲望に忠実なのは変わらない。
「そもそもさ~。ゲームの中に入り込んだ状態だっていうのに、真っ先に敵の城に忍び込んで宝物庫行くヤツなんてイング以外いない~」
「ほんとほんと。驚いた事に現実なんだよ? 敵地で囲まれたらマジで死ぬんだよ? ゲームみたいに死に戻りできるかわからないんだよ? 馬鹿なの? 自殺願望でもあるの?」
「ハァ~ン? じゃあ、宝物庫からお前等用に奪ってきたアイテムはいらないわけね」
バーカ! バーカ! と煽る2人にイングリットは兜の中で目を細めながら宣告した。
すると、散々馬鹿にしていた2人は――
「さすがイングだ! 常人には出来ない事をするね!」
「か、かっこいいタル~!」
クルー! と効果音でも聞こえそうなくらいの掌返し。
クリフとメイメイは手を揉みながら「さすが、さすが」とイングリットの行動を称えてゴキゲンを取ろうと必死になった。
このようなやり取りがえらく懐かしく感じたイングリットは、やはり2人といると『楽しい』と思えてしかたない。
「渡すのは後でな。とにかく、これは現実の世界。俺達はゲームキャラクターになってしまった。種族スキルや防御バフは使えたが、シールドバッシュなどの武術スキルは使えなかったんだが2人はどうだ?」
イングリットは武術スキルがゲーム内と同じように音声入力で発動しない事を話し、話題はスキル関連へと移った。
「うーん。私は武術スキル持ってないからね。魔法は使えたよ。攻撃性の高い6階梯はまだ使ってないけど、恐らく使えるね」
「僕も武器に備わってる能力は使えた~。武術スキルは持ってないからわからないけど~。鑑定は使えたね~」
2人は合流する前にそれぞれ検証した事項を報告。
「武術スキルだけ発動しないのはどういう事なんだろうか?」
やはり、武術スキルだけはゲーム通りに発動しない。
イングリットの唯一覚えている攻撃スキルのシールドバッシュも盾で相手を殴りつける動き――殴りつけるだけなので単調な動きではあるが――は再現できるが、ゲーム内であった追加効果の気絶が発動しなかった。
「僕達の中では武術スキルまともに覚えているのがいないからね~」
「まぁ確かになぁ」
検証のしようがない、とメイメイの言葉に同意したイングリット。2人の隣ではクリフが顎に手を当てながらブツブツと呟きながら思考の海へ潜っていた。
「魔法かそうでないか、の違いなんじゃないかな?」
思考の海に素潜りしていたクリフが海面へと上がってくると、彼はたった今考えた考察を2人に披露する。
このアンシエイルという現実世界には魔法が存在する。
クリフの魔導術、メイメイの持つ装備に付与された能力、イングリットの防御スキル――これらは全て魔法で再現されているとクリフは考察した。
装備に能力が永久付与されるのはダンジョンという存在が作り出す物だが、ダンジョンとは大地に高濃度の魔力が溜まって発生するモノだ。
完全に解明はされていないが装備能力というモノには魔力と関係性があるのは確実だろう。
イングリットの使う防御バフ――盾師のみが覚える職業スキルというカテゴリであるが、効果はステータス系の補助魔法に酷似している。
使用には微量ながら魔力を使うので『職業スキル』というよりも『職業魔法』と呼ぶのが正しいのかもしれない。
クリフの魔導術は言うまでもなく。
ゲーム内と同じ効果を発揮し、使用できるこれらの共通点は『魔力』だ。
魔力を使う術、つまり広い意味でこの3つは魔法にカテゴライズされるのではないかとクリフは考えた。
「だけど、武術スキルは魔力を使わない。その人の技量や武器の取り扱い――感覚やセンスのようなモノにカテゴライズされるからゲーム通りに再現されないんじゃないかな?」
「なるほど。そういう事か」
己の体を動かす動作は本人次第。
魔法のような世界にある『力』を使わないからゲームのように再現されない。
3人は武術スキルは使えないものと考え、本人の判断力や力量で再現するしかないと結論を共有するに至った。
「武術スキルが使えない分、気絶効果を与えて相手を足止めするのもゲーム内と同じように易々と再現できないから戦闘はリスキーにはなるね。死んだら蘇生魔法が効くのかもわからないし、今後の戦闘面は慎重になるべきだと思うよ」
アンシエイル・オンラインもリアルな戦闘システムであったが、そこに『現実』というスリルが加わる事になる。
ゲームのように武術スキルを使って都合の良いように敵がスタンしてくれるわけでもない、敵の攻撃によって即死すれば生き返られるかもわからない。
3人は本物の生死をかけた戦いをしなければならない。
「つまりパーティ戦では位置取りや判断力、自分の力量が重視されるか。なかなか楽しそうじゃないか」
だが、イングリットはそのスリルをいとも容易く受け入れた。
死に戻りすれば良い、蘇生魔法がある、なんて甘ったれたぬるま湯戦闘ではつまらない、と。
生死をかけ、1戦1戦が命の取り合いになるようなスリルほど面白い。
それらを潜り抜けて得られたモノは、より輝かしいモノになるのだ。彼にとってこれほど胸が躍る事はない。
「硬いイングはともかく、私とメイは迂闊にダメージをもらえないね」
「現実だし、殴られたら痛そう~」
「腹に穴が開いた時、頭では死なないと理解してても痛いのは変わりないからな。2人は慎重に戦え。特にクリフは死ぬなよ」
このパーティで蘇生魔法を使えるのはクリフのみ。
蘇生魔法が通用するのかは不明だが、それでも万が一の際は彼だけは死守しなければならない。
「一度、パーティ戦の肩慣らしはしておくべきだな」
イングリットの提案に2人も頷いて同意した。
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