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30 魔王城 / ファドナ皇城


 魔王の執務室にて



「そうか。ご苦労であった」


 魔王ガイアスはたったエキドナの報告を聞いた後に彼女へ労いの言葉を掛ける。


「ハ。勿体無きお言葉」


 エキドナは礼をした後に一歩下がる。


 魔王の執務室にはアリクとレガドも同席しており、エキドナの報告を唸りながら聞いていた。

 

「しかし、これで……3人の王種族が揃ったわけか」


「さようですな。彼等で確定でしょう」


 魔王ガイアスは神より下った神託にあった3人の王種族の正体を、部下達が報告した人物達であると確信する。

 

 赤竜族、悪魔族、ドワーフ族。


 聖戦士をも倒す力、効果が抜群に高いポーション、未知なる技術で作られた装備。


 どれもこれもが現代に生きる種族には不可能なモノだ。


 そして、その事実が彼等を神託で告げられた王種族だと確信させる。


「干渉するな、とはあるが……それ故に3人の王種族が何を成すのか……。気になるな」


 魔族のトップである魔王と言えど神の意向には逆らえない。


 しかし、彼等が何を成し、その結果魔族に何を齎すのか、どのように齎すのかは知っておきたい。


「そうですな。それに……貴族が彼等に気付いた時が厄介です」


 アリクは魔王に最も危惧する事を告げる。


「貴族が3人の存在に気付けばチョッカイを出すでしょう。抱え込もうとするかもしれません。それで3人の怒りを買えば……」


 魔王国の政治に携わる貴族達。


 彼等は既に貴族としての誇りを持たないただの『お荷物』と化している。


 侵略される国と民を守る事よりも我が身可愛さに腕利きの傭兵を集めて自領に引き篭もる。


 魔王都で暮らす貴族達は現実から逃げるように金儲けと贅沢三昧。


 自分達が良ければ良い、と民の事など二の次に考える愚か者ども。


 だというのに(まつりごと)にはイチイチ口を出し、自分達が不利になるような魔王ガイアス発案の政策を遅延させたり邪魔してみたりと国に巣食う癌のような存在であった。


 中にはマトモな貴族も少なからずいるのは事実。その代表格はアルベルト伯爵だろう。だが、マトモな者から死んでいくのが現実だ。


 しかし、誇りを捨てて生き長らえている国の癌が王種族に目を付ければ絶対によからぬ事を引き起こしかねない。


 その思いを抱いているのは執務室の中にいる全員が同じであった。


「監視……は難しいか。どこかに旅に出ると言っているようだし」


 どうにか3人の今後の動向や行き先が分かれば、貴族達が何かをアクションを起こそうにも事前に防げるかもしれない。


 ううむ、と魔王が唸っているとエキドナが1人の人物を思い出す。


「そうだ。陛下。1人、適任となる者がいます」


 エキドナは1人の王種族と少なからず親交を持つ少女の話を魔王に説明した。


「なるほど、彼女を呼んでくれ」


 そうして呼ばれたのはイングリットに助けられた少女。シャルロッテであった。

 

 彼女はエキドナと魔王城にやって来て、今後どうすれば良いか指示を仰ぐべく魔王城の応接室で担当者を待っていたのだが、来たのは担当者ではなく魔王付きのメイド。

 

 メイドに連れられて部屋へ通されれば、中には4将のうち3人と最高権力者である魔王が待っているという理解し難い状況。


 シャルロッテはチビりそうなくらいに緊張して、足を小鹿のようにぷるぷると震える事しか出来ない。


「まずは……シャルロッテ・アルベルト。ご両親と姉君は残念であった。救援が間に合わず申し訳ないと思っている」


 魔王は目を伏せ、少し頭を下げてシャルロッテへ詫びた。


「い、いえ……。も、もったいないお言葉なのじゃ、です」


 最高権力者に謝罪されるなんてどんな罰なのじゃ、助けてなのじゃ、とシャルロッテの膝が更にガクガクと震えだす。


「アルベルト伯爵家の生き残りは君だけ。つまり、伯爵家を引き継ぐのは君になるのだが領地は失われてしまった。別の領地を渡そうにもそれはできない」


 人間とエルフの侵略によって魔族領土はどんどん小さくなっている。


 簡単に渡せる土地など無く、別の貴族の領地を切り取ろうなどと言えば強欲な貴族達が確実に内乱を引き起こすだろう。


 内乱になれば苦しむのは民。それに人間とエルフに付け入る隙になる。


「故に、君には領地を渡せない。そこでだ。1つ、君に頼みたい事がある」


「な、なんでしょう……?」


 シャルロッテは既に漏らしそうだった。


 難しい政治絡みの話をされたうえに魔王の頼みときたもんだ。シャルロッテちゃんの膝と膀胱は限界に達しそうであった。


「君を助けたイングリットという男性。彼と行動を共にしてほしい。そして、彼と彼の仲間の様子を私達に教えてほしい」


 魔王の頼みを聞いたシャルロッテは漏らしそうな割には即座に合点がいった。


 イングリットの種族はどう見ても既に絶滅した王種族であるし、砦で見せた人間の聖戦士を倒すほどの強さをシャルロッテは知っている。


 何が目的なのかはわからないが、彼のような人材を国が放っておくとは考えにくい。


 最終的には軍に引き込むつもりなのか、その切っ掛けを自分に探せと言うのだろうか。


「ぐ、軍に入るよう説得するのですか?」


「いや、違う。ただ単に彼等が何をするのか教えてほしいのだ。彼等に同行して、どこへ行き、何を成したのかを報告してほしい。その代わり、君の魔王国での身分や待遇は私が保証しよう」


 目的が軍への勧誘や戦争参加ではない、となるとシャルロッテが現状思いつく理由が消えてしまった。


 イングリットを自由にさせたうえで何かあるのだろうか、と思案する。


「どうかな?」


 魔王の言葉でシャルロッテは現実に戻され、国の最高権力者から下された命令を拒否する力は彼女は持っていない。


「わ、わかりました」


 シャルロッテは魔王の頼みを了承し、魔王城に報告する際の手段を聞き終えるとダッシュでトイレに向かった。


 トイレで確認すると、少し漏れていた。


 

-----


 

 ファドナ皇国 皇城


「いやぁ。全く。まさか聖戦士が負けてしまうとは。しかも聖槍も奪われてしまうとは残念ですねぇ」


 皇城の玉座の間で、聖樹王国の教導者アリム・スズキ・コーナーは自分の足元で震えながら縋る老人を見下ろしていた。


 彼の足元で震えながら土下座するのはファドナ皇国の教皇クルト。


 魔族領土へ派遣した第1騎士団の第4番隊隊長レオンの死、魔族に聖槍が奪われたと教皇に報告されてから数時間後。


 どこから聞きつけたのか、いつもの様子で目を細めて笑みを浮かべるアリムが教皇のもとへ訪れていた。


「ど、どうか! どうかお許しを!!」


 クルトは周囲に部下達がいるにも拘らず、額を床に擦り付けて許しを乞う。


 この結果は正直な話、アリムにとっても予想外の結果だった。


 本国の者達に比べて低俗で弱く、神の恩恵を受けられない奴隷達であったとしても魔族という奴隷以下の家畜に負けるとは思ってもみなかった。


「いやはや、全く。どうしたものか……」


 縋りつく老人を見下しながら、彼の処遇をどうしようか悩んでいるとピロロンと機械音がアリムの胸ポケットから発せられた。


 彼は胸ポケットに入っていた携帯端末を取り出し、表示されている内容に目を通す。


 真剣な顔で表示されている文を読み終えると、彼は「ふむ」と小さく呟いた後に室内で待機するファドナ皇国の警備兵に顔を向ける。


「君、ちょっと良いかい?」


 アリムは腰に剣を携えた警備兵を手招きし、警備兵は彼のもとへ小走りでやって来ると緊張した面持ちで敬礼する。


 敬礼する警備兵へアリムはいつも通りの笑みを浮かべながら軽い様子で告げる。


「君、彼を殺したまえ」


 足元に縋りつく老人を指差すアリム。


 『殺せ』と命じられた警備兵と『殺す』と言われたクルト教皇。どちらも驚愕の表情を浮かべた。


「な!? お、お待ち下さい!! どうかもう一度チャンスを!! お慈悲を!! お慈悲を!!」


 クルトはアリムの履く黒いスラックスを握り締め、目を見開き血走らせながら必死に叫ぶ。


 アリムは止めろ、と言うが止めないクルトに舌打ちをすると右手を水平に軽く振った。


「あがああ!」


 すると、クルトは5mほど吹き飛ばされ、玉座の間の壁に背中から激突。


 アリムはスラックスのクルトが掴んでいた部分を手で払いながら、握られた跡がついていないかを確認しながら口を開く。


「本国からの命令なんですよ。貴方は『使えない』と判断されました」


 使えない。無能。


 それらの烙印を押された者の末路は死のみ。


 ファドナ皇国の上層部に位置する者ならば誰もが知る結果。


「さて、君。殺しなさい」


 もう一度警備兵の顔を見つめながら、アリムは命令を下す。


「は、はい……」


 命令された警備兵は顔面蒼白になりながらもクルトへ歩み寄りながら腰の剣を抜く。


「ま、待って! 待って下さい!! コーナー様!! わたし、わたしはああああ!!」


 必死に命乞いを叫ぶクルトであったが、その甲斐虚しく彼の首は胴体から離れてしまった。


 血が噴出す体は力無く床に倒れ、コロコロと首が転がる。


 絶望の表情を浮かべたまま転がるクルトの首を一瞥した後に、アリムは室内の窓際に立つファドナ上層部のメンバーへ視線を向けた。


「次の教皇候補は追って連絡します。国の政は以前示した方針通りに進めなさい。それと、聖戦士を倒した魔族の情報を集めるように」


 アリムがそう言うとファドナ上層部のメンバー達は、顔を伏せながら片膝を付いて忠誠を示す。


 震える彼等はアリムが退室しても尚、顔を伏せ続けて次の教皇候補に自分の名が挙がらないように祈った。


 廊下に出たアリムは歩きながら再び携帯端末に視線を落とす。


 彼の取り出した携帯端末には50年以上(・・・・・)の付き合いがある同僚からチャットが送られ表示されていた。


『親愛なる友へ。無能は排除せよ。レプリカを奪った魔族は男神の使徒の可能性アリ。情報収集せよとの事。こちらは異世界召喚をします』


 アリムは薄く笑った後に『了解』という文字を送信し、続けて『ありがとう!』サムズアップするネコのスタンプを送信した。


「まさか槍のレプリカ持ちを倒すとは私も予想しませんでしたねぇ。ふふ。一体どんな魔族なのでしょう」


 コツコツと靴底を鳴らしながら廊下を歩く彼の口元は楽しそうに歪んでいた。  


読んで下さりありがとうございます。

これで1章は終わりです。

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