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29 合流


「今日も夕方まで大聖堂前でいいんだよね~?」


 クリフとメイメイが合流して本日で3日目。


 2人は夢見る羊亭の同室で本日の予定を話し合う。


 そう、メイメイは結局クリフと同室になってしまった。


 合流した日の夕方に宿へ行くと、1人部屋が開いておらず2人部屋しか開いて無かったのだ。


 メイメイは彼と同室になる事に身の危険を感じていたが、虚しくもメイメイの所持金は781エイル。


魔王都に暮らす庶民の子でももう少し持っているだろ、というレベルの金しか持っていなかったのだ。


 結局はクリフが今まで使っていた部屋を引き払い、クリフが宿代を払ってメイメイと2人部屋で過ごし始めた。


 金の無いメイメイはちゃんとした部屋で暮らす事ができ、クリフは美少女であるメイメイと過ごせる。


 WIN-WIN の関係だ。間違いない。

 

「今日は昼までにポーションを卸しに行かなきゃなんだ。メイはどうする? 私と一緒に行く?」

 

「う~ん。じゃあ一緒に行く~」


「わかった。お昼は外で食べようね」


 話し合いが終わると、クリフは昨晩作ったポーションをインベントリから出して木箱に詰め始める。


 メイメイは魔王都滞在2日目に買ったワンピースに着替えて出掛ける準備を済ませた。


「じゃ、いこっか」


 クリフは木箱をインベントリに収納し、メイメイと手を繋いで部屋を出る。

 

「お昼は肉がいいな~」


 まるで兄妹のように仲良く出掛ける様子を宿の従業員や食堂の客がほのぼのとした目で見送っていた。



-----



「見えてきたな」


 エキドナはラプトル車の小窓から外の様子を伺うと、右斜め前方に見えてきた街を囲む背の高い城壁を確認すると同行者へ聞こえるように呟いた。


「ようやくか」


「本当なのじゃ!」


 イングリットは軍の上層部が使う上等なキャビンに取り付けられた革ばりの椅子に座りつつ腕を組む。


 隣にいるアヘ顔のじゃ美少女ことシャルロッテが小窓にべったりと顔を押し付けながら外の様子を覗きこむ。


「君はこれからどうするのだ?」


「言った通り仲間が待っている。入り口でお別れだ」


 この3日間、イングリットはエキドナからの質問攻めに遭っていた。


 どこから来たのか、から始まって砦でも聞いた種族の事を再び質問され、魔王都に着いた後の予定まで細かく質問された。


 適当に答えつつも魔王都で仲間と合流したら旅に出ると答え、魔王都の入場門で別れる事に。


「ちょっと寂しいのじゃ……」


「………」


 シャルロッテもエキドナと共に魔王城へ向かうのでそこでサヨナラ。


 呪いをクリフに見せて解呪して貰う当初の話をシャルロッテはすっかり忘れているようであるが、イングリットは特に困らないので指摘していない。


 むしろ、面倒事が減ってラッキーといったところだ。


「全く。助けられた身だが何ともスッキリしないな……」


 エキドナは首を振りながら溜息を零す。


 旅の間にイングリットを軍に勧誘したが返事は壊滅的であった。


 レガドのように傭兵を勧めるも戦争参加の義務化がある事をシャルロッテから既に聞いていたので断られてしまう。

 

 愛国心や情に訴えて説得を試みるもダメ。このままでは国が人間とエルフに支配されてしまう、と言ってもダメ。


 イングリットの言い分を要約すれば「自分は関係ない。勝手に死ね」だ。

 

 世界を冒険するにしても国が無くなってしまえば元も子もない、とエキドナは言うがそれでも『関係無い』の一言で話は終わってしまった。


 それでも3日間、どうしてもダメかとしつこいエキドナにイングリットは――


『俺の望む報酬を用意したら考えてやる』


 と言い放ち、どこかの闇医者の如く『1回の参戦で100億。現金でキッチリ用意しろ』とエキドナに要求。


 エキドナはションボリしながら上司と相談する、と言って説得を諦める事になった。


 さらにはその話の延長で今回の戦争参加報酬のラプトル車の件に発展。


 イングリットは戦争参加の報酬としてラプトル車を貰う予定であったが、現在乗っているラプトル車は軍用の物なので譲れないと言われてしまう。


 しかし、彼は貰う物はキッチリ貰う主義である。


 話し合いの結果、エキドナのポケットマネーから魔王都で売っている標準的なラプトル車を買えるだけの金を貰う事で落ち着く。


 エキドナは軍に引き込む事もできず、さらにはサイフの中身まで搾り取られると散々な結果に終わった。


 それから30分もしない間に魔王都へ到着。


 魔王都入場門で行われている検問をパスし、魔王都に入った所でラプトル車は停止。


 イングリットは早々にキャビンの扉を開けて外へ出た。


「じゃあな」


 イングリットは振り向いてキャビンの中にいる2人に別れを告げる。


「うむ。気が変わって軍に入る気になったら私を訪ねてくれ」


 エキドナはダメ元でそう言うが、イングリットは心の篭っていない声で「わかった」と短く返すだけ。


 エキドナの対面に座っているシャルロッテは、もじもじとしながらイングリットの顔をチラチラ見ていた。


「そ、その……ありがとうなのじゃ。助けてくれて」


「ああ。じゃあな」


 シャルロッテにも短く返し、イングリットはキャビンの扉を閉めて歩き出してしまった。


 扉を閉められたキャビン内では女性2人が溜息を零す。


「素っ気無いな」


「はい……」


 別れなのだから、もうちょっとないのかとモヤモヤする2人。


 2人を乗せたラプトル車はイングリットを追い越し、魔王城へ向かって行った。


 イングリットは自分を追い越して行くラプトル車を見送りつつ大通りを進み、目的地へ向かう。


 様々な種族の人々が行き交う大通りを進む全身を黒い装備で固めたイングリットは、住民から奇異の目を向けられるが本人は全く気にせずイシュレウス大聖堂を目指す。

 

 この世界に来るきっかけになったゲーム内のイベントを制して既に2週間以上経っている。


 ようやく魔王都に到着したが、これはスタートラインに過ぎない。


 イングリットの目的はパーティメンバーと合流して未知を探す事。


 未知なるモノを探す冒険に出るのがイングリットとパーティメンバーの目標である。


 魔獣を倒しながらダンジョンやフィールドを歩き回り、謎解きや罠を掻い潜る。それが冒険。


 時には苦労の割には何も得る物が無くハズレの場合もあった。逆に、ハズレだと思ったら更に続きがあって果てには金銀財宝や未知なるアイテムが隠されていた時もあった。


 この先もきっと同じように成功も失敗も、様々なことが起こるだろう。


 だが、それが冒険だ。


 どんな結果に終わろうとも後で思い返せば、どれもドキドキワクワク胸を躍らせながら仲間と協力しながら進んで行った記憶しか残っていない。


 ああでもない、こうでもない、と言い合いながら歩んで行く道中。その先にある予想できない結果。


 そんな冒険がしたい。


 あの時は凄かったよな。あの時は最悪だったよな、と仲間と共に冒険を振り返りながら酒場で飯と酒を飲みながら語り合うのだ。

 

 そして、次はあそこへ行こう、こんなヒントがあった、と話し合いながら次の冒険の目的地を決める。


 冒険とは快楽だ。心踊り、未知を探すという何事にも変えがたい快楽。


 イングリットはそれを続けたい、味わっていたい。同じ気持ちを持つ仲間達と共に。


 死ぬまで。命尽きるまで。


 その為にも――


(2人はいるだろうか……)


 イングリットは北西エリアに足を踏み入れ、視界内に入った大きな建物であるイシュレウス大聖堂を目指す。


 寄り道もせず、ただひたすらに。

 

 ゲーム内でイシュレウス大聖堂と言えば、魔王都を拠点登録したプレイヤーが死に戻りする場所だ。


 誰が最初に始めたのか不明だが、野良パーティの募集といえば死に戻りポイントである大聖堂前で行うのが常識となっていた。


 だが、ここはゲームとは違う。

 

 イシュレウス大聖堂前で『盾・回復募集!』『回復様歓迎! 動き理解している人募集!』等とプラカードを掲げている冒険者は見当たらない。


 しかし、大聖堂の入り口横に設置されたベンチには青い髪の青年と銀髪ツインテールの少女が座っていた。


 イングリットは彼等の姿を見ると、ツカツカと歩み寄る。


 あの日。3人がパーティを組むきっかけになった日とは逆だ。


 懐かしい光景を思い出しながらイングリットは2人に告げる。


「当方、タンクです。パーティ空いてますか?」 


 黒い鎧の男はベンチに座る2人へ話しかけた。


「空いてますよ。タンク募集です。随分と待ってるんですが、なかなか来なかったんで助かります」


 ふふ、と微笑みながら言葉を返す青髪の青年。


「未クリアのクエストだから廃人タンクがいいな~」


 ニコニコと笑う銀髪ツインテールの少女。


 2人の反応を見たイングリットは出会った頃の懐かしい記憶を思い出しながら、兜の中で笑みを浮かべた。


「そうか……。待たせたな」


「うん。ようやく会えたね」


「遅いよ~!」


 アンシエイル・オンラインより現世へと舞い戻った3人の王種族。


 イシュレウス大聖堂の鐘の音が鳴り響き、音に驚いた鳥達が空へ舞い上がっていく中でトッププレイヤーの3人が遂に合流を果たした。 


読んで下さりありがとうございます。

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