280 ユニハルトよ永遠に
邪神の脅威が消えて1年経った頃にはアンシエイルの世界も落ち着きを取り戻しつつあった。
この1年間、生き残った人間達を駆逐するべく各国の軍や各レギオンの局地的な戦闘は続けられ、ようやく全ての事に終止符を打てた。
各国と蘇った王種族達によって得られた平和は、これからも続くだろう。
ゲームのエンディングとなれば、ここで画面は暗転して終了だ。
だが、彼らがいるのは現実世界。スイッチを切って終了、とはいかない。
まずは変化した世界情勢を語ろうと思う。
存在していた3ヵ国は同盟を結んだ。魔王国、ジャハーム、トレイル帝国の領土は変わる事無くそのまま維持される。
最も変わったのは旧人間領土。聖樹王国領土とファドナ皇国領土をどうするか、という問題。
人間達を駆逐し、世界を救ったのは蘇った王種族達であると3ヵ国は領地の譲渡を拒否。
では、王種族の誰かが王となるのかという案も上がったが、立候補は無かった。
あれだけ国を作ろう画策していたユニハルト率いる貴馬隊は、最終決戦で大きく人数を減らす事になって組織としてはガタガタに。
百鬼夜行も同様に組織の立て直しに集中せねばならず、多くの人を導く事など不可能であると。
商工会は「そんなものに興味無い」の一言で終わり。
結果、男神と救出された女神が象徴となって国の運営を委託する事で治まる。
委託先は既に組織として確立していた冒険者組合。彼等は非常にスムーズに事を進めていった。
まずは組合主導で領土内に首都を作った。
首都の名は『リバウ』と名付けられ、嘗て旧魔王国に存在していた街の名であり、ゲームではプレイヤーが最初に降り立つ街の名である。
首都建設以降、各国との政治的なやり取りも各国に窓口として既に組合が存在しているのも大きい。
組合上層部も当時から常に国とのやり取りもしていたので、話し合いもスムーズだ。その辺りも『二神国』と呼称される新しい国を素早く軌道に乗せた理由だろう。
「冒険者組合は善意の寄付を募集しております」
特にこの一言で各国のトップがこぞって寄付をしたのは、偏に彼等がマジメに冒険者組合として各国に影響を及ぼして来たからか。
「うちってさ。物流もしてるし、ダンジョン素材の取得権利もあるよね」
と、小さな声で漏らしたのも忘れてはいけない事実だ。
何はともあれ、こうして世界にはもう1つの国が生まれた。
その国は大陸中央に位置し、巨大な聖樹がある国。長き種族戦争を終わらせた王達が集う。
王達が作り出した美味い飯や便利な魔導具。腕自慢はこぞってこの国を目指し、強さを求めて王に挑む。
二神を信仰する者達の聖地とも言われ、聖職者達がその目で二神の祝福さえ見れる国。
この国が長く繁栄し、人々に夢と幸福を与えていくのは間違いない。
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戦いが終わり、平和が訪れた日。この日を命日になった伝説の男がいた。
男の名は――
「さぁ、ユニハルト様♡」
「あああッ!! あああああッ!!??」
薄暗い部屋の中、寝ていたユニハルトは女性に名を呼ばれて目を覚ます。
それと同時に彼の体には異常がポンポコと生まれた。
「き、きさまァァッ! 処女ではないなァァッ!?」
「はい♡」
生粋の処女厨。処女以外の女性に触れられたら死ぬ男。それがユニハルトである。
彼の上に馬乗りになっているのは現魔王の娘である魔姫マキ。彼女は煽情的な服装を身に着けて、べろりと自分の唇を舐めた。
「なぜ、なぜだああッ!! ぐば、がぼぼぼぼ!!」
「お飲みになって下さいまし! こうすればユニハルト様に触れていても死なないと言われましたわ!」
ユニハルトは口にポーション瓶(特大)を突っ込まれて、強制的に口の中へ流し込まれる。
こうすればマキが触れても死なない。そんな事誰に言われたのだろうか。
窒息しそうな気もするが、確かにユニハルトは死ななかった。腕に出来た蕁麻疹が発生しては癒え、発生しては癒えを繰り返す。
「戦争の報酬とSランク冒険者到達の褒章として、貴方の精を頂きますわ♡」
「むぐうううう!! むぐうううう!!!」
口には瓶を突っ込まれ、サキュバスの超絶テクでアレしたアレはマキのアレにホールインワン!
悲しいかな、例え処女厨であっても反応してしまうのは男の性か。それともサキュバスの能力か。
「むぐううううう!!!」
「あん♡」
ズキューン! とユニハルトの下半身が秒で爆発した。
「凄いですわ! ユニハルト様! もっと楽しみましょう!」
「…………」
この時、既にユニハルトの命は散っていた。
過剰な回復薬の投与。行為による心的ショック。彼が最後に感じた感覚が快楽だったのが唯一の救いだろうか。
平和が訪れ、これから王種族達も幸せを享受するだろうと言われていた矢先に死んだ伝説の男。
ユニハルト・ユニコーン・パッパカ。彼の名と人生は本にもなって、アンシエイルに生きる者達から長く愛されていく事となる。
彼の死があったが故に貴馬隊は縮小する事になった、と歴史家は後々語る。
ともあれ、貴馬隊の生き残りは冒険者組合員となって余生を過ごすのであった。
………
………
ユニハルトとマキが行為をしている同時刻、ヤギの頭蓋骨を被った男が他の幹部達と共に円卓を囲む。
彼等は円卓中央に置かれたロウソクの火を見つめながら、小さく呟く。
『運命の仔馬は成された』
『彼の持つ運命能力は子に受け継がれる』
『運命の仔馬は常に世に存在するだろう』
『また再び世に暗黒が満ちようとも、我ら組織と運命の仔馬がいる限り』
――敗北はあり得ない。
ヤギの頭蓋骨を被った男がロウソクの火に手を伸ばし、小さな火を握るように消す。
そして、円卓に座る者達はゆっくりと闇に溶けていく。
いつか再び訪れるかもしれない世界の危機に備えて。
読んで下さりありがとうございます。
明日のお昼頃に投稿する分で完結します。




