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276 3人のトッププレイヤーが聖樹をぶっ壊すまで


 百鬼夜行とジャハーム軍を残して先に進んだイングリット達は神殿の最奥へ続く巨大な扉に辿り着く。


「この奥に邪神の大樹があるわ」


 遂にここまで来た。あの聳え立つ大樹と神を殺せば世界は救われる。


「あれを壊すには神の力が必要よ。中に入ったら、大樹の根――コアとなっている女神様に繋がる部分を破壊するの」


 扉を開く前に神の眷属はイングリット達へ再確認を行う。


「邪神は阻止しようとするだろう。ヤツは男神様をも殺す一撃を放つ。やれるか?」


「当然だ」


 2人の眷属による問いにイングリットは頷いた。


 やる事はシンプルだ。イングリットが邪神を引き付けるタンク役をこなし、その間にメイメイとクリフが聖樹を壊す。


 いつも通り。いつも通りの仕事をすればいい。


 イングリットは最後に装備を確認。インベントリの中にあるポーション類も確認して準備を終える。


「シャル。防御メイン、出し惜しみは無しだ」


「わかったのじゃ」


 対邪神戦で攻撃力特化の赤竜フォルムを使う気は今のところない。


 メイメイとクリフが事を終えるまで全力で2人を守る。その為にはシャルロッテの時間を操る能力も出し惜しみしている暇は無いだろう。


「2人はどうだ?」


「こっちもおっけ~」


「うん、大丈夫」


 メイメイはグラトニーとバックパックを準備し、クリフは腰のベルトホルダーに魔力ポーションを括り付けて。


「では、頼むぞ」


「お願いね」


 眷属2人は神力を練り上げ、自身の体を短剣に変えた。


 これが聖樹を破壊する切り札。眷属自らが神力の結晶となり、男神の持っていた剣と同等の力を持つ。


 所謂、神殺しの武器。この場合は神殺しの短剣と言うべきか。


 これを聖樹のコアとなっている女神へと続く根に刺せば良い。目標の根は短剣を近づければ分かると本人達は言っていたが……。


 ここまで来たらやるしかない。


「行くぞ」


 イングリットとクリフは扉を開けるべく、2つのレバーを降ろした。


 ギギギと歯車が回転しながら巨大な扉が開いていく。


 4人が中へと足を踏み入れると、パチパチパチと上から拍手をする音が鳴った。


「よくここまで辿り着いたねぇ。無能な人間共では物足りなかったかな?」


 見上げれば、聖樹の枝に座りながら拍手する少年。


 ヤツだ。神域が落ちた時にいた邪神だとイングリットは盾を握る手に力が入る。


「随分と余裕じゃないか」


「当然さ。僕は神だからね。君達とは違う」


 邪神はフフンと鼻を鳴らす。 


「君達は死んでも蘇生できたから今までやってこれた。でも、その力はもう無い」


 男神は死んだ。蘇生機能を管理していたアヌビスも死んだ。


 しかも、アヌビスにいたっては邪神が喰らったのだ。


「僕はね。相手を喰らえば記憶を取り込める。という事はだよ? 蘇生機能を作った者を喰らった僕がその力を手にしていると考えないかい?」


 蘇生される対象も喰らった。蘇生する為の仕組みを知る者も喰らった。


 邪神は自らの機能に蘇生機能を取り入れたと告げる。


 つまりは、死なないのであると。


「素晴らしいよ。死なないなんてね。今はこの世界限定だけど、いずれ僕は全ての世界で不死となる。この世界を全て喰らい尽くしたら次の世界に行く。そして、完全な神となるんだ」


 壮大な野望を口にする邪神は両手を広げて胸を張った。


「ハッ。クソウゼェ喋り方をするヤツだ。テメェが中心に世界が回っていると思ってやがる」


「そうだけど、違うのかい?」


 イングリットの物言いにピクリと反応した邪神は至って冷静な態度で返す。


「違うに決まってんだろ。ここはお前の世界じゃねえ。ここじゃお前は異物なんだよ」


 イングリットの言葉は正しい。ここは邪神が生まれた世界じゃない。


「我が物顔で居付く病原菌みたいな野郎だ。力を蓄えなきゃ生きていけねえクソザコだって自覚した方が良い」


「…………」


 ピクピクと邪神の頬が震えた。だが、イングリットは盾師特有の煽り術で畳みかける。


「お? 言い返せない? バーカ! クソザコ人間の神やってる時点でテメェもクソザコ神なんだよ!」


 イングリットは指を差してゲラゲラ笑う。


 仲間達は「うわぁ」とドン引きした。


「お前は殺すッ! お前の目の前で仲間達を殺してから殺してやるッ!」


 遂にキレた邪神が立ち上がり、体中から金色のオーラを噴き出した。


「ハッ! やってみろッ!!」


 邪神が噴出させたオーラはどの守護者よりも濃く、力の強さは比較できない程だと一目で分かる。


 だが、イングリットは退かなかった。背中の羽を広げてブースターを噴かし、大盾を構えながら邪神に突っ込む。


 釣れた。これで良い。パーティのタンクであるイングリットは初動として100点満点の動きを見せる。


 相手の気を引き、仲間に自由を与えてこそタンクである。


「死ねッ!」


 邪神の周りにあった枝がメキメキと動き、何本もの槍となった。


 向かって来るイングリットを迎え撃つ構え。


「語彙力の足りねえクソ神だぜ!」


 しかし、イングリットもお構いなしだ。


 大盾を構えて聖樹の槍とぶつかった。


 槍と大盾がぶつかり合うとギィィィと火花を散らす。腕を動かし槍を軽く弾き、聖樹の太い枝を足場に空中で機動力を見せつける。


「下等種がッ! 神に敵うと思うなッ!」


 槍の牽制を受けているイングリットに邪神は両手を掲げてチャージを行う。


 男神を殺した一撃をイングリットへ撃ち込もうという考えだ。


 喰らえば神ですら死ぬ攻撃。神ではないイングリットが喰らえば死は避けられない。


 しかし、それはもう一度見ている。


 対し、こちらは見せていない手札がある。


 記憶を取り込もうと隅々まで見たのか。下等種族を1人1人調べたのか?


 答えは否であると簡単に予想できる。自分が1番だとプライドが高いやつが下にいる者を見るはずがない。


「シャルッ!」


「止まれッ!」


 イングリットが叫ぶとシャルロッテが呪いを使う。


 早々に切った手札は正しく機能した。チャージ完了と同時に一瞬だけ邪神の動きが止まる。


 一瞬だけ止まれば十分だ。イングリットは足場を蹴り、ブースターを噴かして軌道をズラす。


「なッ!?」


 遅れて発射されたレーザーを回避して、一気に距離を詰めると邪神の顔を大盾でぶん殴る。


 立っていた枝から吹き飛ばされ、背後にあった枝に激突する邪神。


 地上には落ちなかったものの、邪神の鼻から赤い血が流れ出た。


「ハッ。クソ神にも血が流れてんのかよ? お前、本当に神か?」


 イングリットはそう言いながら罵声を浴びせて、ここぞとばかりに邪神を煽り続ける。


 鼻に異常を感じた邪神は自分の手で鼻を触った。手に付着した血を見て驚愕の表情を浮かべて、体を小さく震わせる。


「血……。久々だ。血を流したのなんて……!」


 邪神の眼光がイングリットを射抜く。神になってから初めての流血は邪神の中に怒りを満たすのには十分だった。


「お前を……。いや、あの女だッ!」


 排除すべきはシャルロッテ。先ほどの攻撃で先に殺すべき相手を見抜く。


 枝を束ねて槍を作り、それを彼女に向けて射出した。


 当然、イングリットは割って入る。


 時を止める呪いは攻防の要。それを抜きにしても、愛する者を殺させはしない。


 大盾を構えて間に入ると、大量の火花が散った。


「ははッ! まだだァッ!」


 槍を次々と連射して、防戦一方のイングリットを甚振るように攻撃を繰り返す。


 大盾に何度も打ち付けて釘付けにしている間に、隙間から見えたイングリットの足首を貫く。


「ガッ!」


「ひゃははッ!」


 足首を貫かれ、痛みで怯んだ隙に次は左肩を。すぐ殺しはしない。


 散々馬鹿にしたイングリットを拷問するように痛めつける。


 体から血を流すイングリットを見て笑う邪神。だが、その性格こそがイングリット達にとっての付け入る隙だ。 


 インベントリから取り出したポーションを素早く飲んで、飲み終えた瓶を投げつける。


 その動作を見たシャルロッテがイングリットの背から横に動き、彼女が動く気配を察して再び前へ。


 前へ出たイングリットを見たと同時に呪いを使う。呪いを使ったと同時にブースターを全力で噴かす。


 竜の王と王妃による阿吽の呼吸がもう一度邪神の顔を捉えた。


「オラ――!?」


 だが、次は届かない。そうなるだろうと予想していた邪神は既に準備を終えており、振り出したイングリットの拳に合わせて槍を生み出す。


 槍はイングリットの右手を貫き、貫通して兜の右頬部分を削り取る。


「ク、ソッ!」


 左手で槍を叩き折って一時離脱。ニヤリと笑った邪神は枝の槍を作って連続突きを見舞う。


 大盾を構え直して、シャルロッテを守るように後退し続けると、


「ふふ。もうおしまいにしよう」


 再び邪神が神を殺す一撃をチャージした。


「止まれッ!」


「いいや、止まらない」


 シャルロッテが避ける時間を作ろうと呪いを発動するが、邪神の動きは止まらない。


「解析するのに時間が掛かったが、タネが分かれば対応できるのさ」


 呪いは邪神の発動させた防御壁に防がれてしまったようだ。イングリット達が攻略法を見出すように、邪神もまた攻略法を編み出す。


 ニヤァと笑った邪神は力を凝縮させた手の平をシャルロッテへと向ける。


「まずはその女から殺してやる」


 イングリットは脳内でアラートが鳴りながらも大盾を構えて全力で防御する姿勢を取るしかない。

 

 耐えられるか。耐えられても瀕死状態になってしまうかもしれない。


 分の悪い賭けに乗るしかないか、そう思った時――ガサガサと聖樹が葉を鳴らしながら大きく揺れた。


 それと同時に邪神の体もビクリと跳ねる。


「な、なんだ……!? 一体何が起きた……!」



-----



 イングリットが戦闘を開始したと同時にクリフとメイメイはコッソリとその場から離れていく。


「早く見つけよう!」


「うん~」


 イングリットが敵を煽ってヘイトを稼いでいるうちに、コアに繋がる根を壊すのが2人の役目。


 ただ、聖樹の根本には太い根がいくつも絡み合って見分けがつかない。


 見渡す根には人間らしき者達の顔がいくつも埋まって、逃げ出そうとしているような恰好で樹皮と一体化している部分もあった。


「気持ちわる」


「趣味わる~」


 人間と邪神の趣味を疑いながら、クリフ達は根に沿って走る。


「見つからないね」


 本当にどれも同じような見た目の部分ばかり。クリフは顎に手を当てながら考える。


 女神を触媒とするコアに直結している根、となればコアを探せばヒントがあるかもしれない。


 正面と下ではなく、上へと視線をずらす。


「いや、そんな分かり易く配置してないか」


 コア = 弱点という認識を持つのは当たり前だろう。そんな物を露出させておくほど邪神も馬鹿じゃない。


 さて、どう見つけたものかと悩んでいるとチェンソーが機動する音がした。


 顔を向ければウィンウィンと刃をアイドリングさせて根をぶった斬るメイメイ。


「ちょぉ!? 何してるの!?」


「根の奥にあるのかなーって?」


 聖樹を傷付けて邪神にバレないかどうか、チラチラと戦闘しているイングリットの方向を見た。


 邪神はイングリットとの戦闘に集中していて気付いていない様子。


「ん~? 無さそう~?」


 根を斬ったものの、特にそれらしき物は見つからない。


「う~ん。どうすれば良いんだろう?」


 クリフはインベントリから真実の鍵を取り出し、ポケットからは眷属が変化した短剣の両方を取り出す。


「おや?」


 すると、どうだろう。真実の鍵が淡い光を発した。


 薄い光が上に伸びると聖樹の中心に丸い光で何かをマーキングする。そこから更に光が伸びて短剣の光と混じり合う。


 混じった光が伸びて聖樹の根にある一部を指した。


「あれがコア?」


 上を見上げたクリフが呟き、


「じゃあ、あれが壊すヤツなのかな~?」


 短剣を持ったメイメイが地上近くを指し示す光を見て言う。


 2人は顔を見合わせて頷き合った。場所が分かればこっちのものだ。


 揃って走り出し、すぐに別れて光が指す部分へ向かう。


 光が指し示す部分は他の部分と同じく樹皮で覆われていた。先ほどメイメイが樹皮の奥にあるのでは? と言っていたがそれは推測は正しかったようだ。


「魔法じゃ目立つかな……」


 チラリと再びイングリットの方へ視線を向ける。


 邪神の槍で釘付けにされながらもシャルロッテを守り、僅かに被弾する姿が目に映る。


 回復魔法を飛ばしたい気持ちに駆られるが、グッと我慢。


 何の為に彼が引き付けているのかを思い出す。


 クリフはインベントリからナイフを取り出して樹皮を削り始めた。


 こういった力仕事はクリフ向きじゃない。でも、やるしかない。


 上で引き付けて戦ってくれている仲間の為にも。普段動かさない腕を必死に振って削っていくと、ようやく他と色が違う根が見えた。


「はぁ、はぁ、これか!?」


 短剣を出して近づけると光が強くなる。これだと確信したクリフはナイフを逆手に腕を振り上げた。


「ざまあみろ!」


 ブスリ。


 短剣を刺すと聖樹がグラグラと揺れる。


 その場を離れながら急いでイングリットがいる方向へ顔を向けた。



-----



「な、なんだ……!? 一体何が起きた!」


 自分の体に走る異常にチャージを止めて原因を探る。本体は傷が付いていないはずだ。


 では、と自分の依り代である聖樹へ顔を向けた。


 そこには根に短剣を突き刺すクリフがいた。


 ただの短剣で刺されたくらいではこうならない。じゃあ、なぜだ。根に刺された短剣を注視すると、神の力による輝きが見えた。


「き、貴様ああああッ!」

 

 邪神は内心で「やられた」つい零してしまった。


 挑発に乗っている間に神力の塊で作られた武器で依り代を破壊するのが狙いだったのかと今頃気付く。


 だが、1つ壊されただけではまだリカバリーが効く。まだ慌てるような時間じゃ……と冷静さを取り戻そうしながら別の根へ視線を向ける。


「あ、みっけ~」


 もう1つの根に今にも短剣を刺そうとしている女がいるじゃないか。


「待て、貴様ァァァッ!!」


 ドンと空中を蹴飛ばしてメイメイへと迫る邪神。


 その間に割り込んだのは勿論、イングリット。


「まぁ、ゆっくりしていけや」


「貴様ッ!!」


 イングリットの大盾に拳を打ち付ける邪神。衝撃が生まれ、イングリットの腕にダメージが入る。


 だが、背中に暖かい感触を感じた。これはいつもの回復魔法。根を壊し終えたクリフがイングリットをサポートし始めた。


 彼等なら引き付けている間に最終局面のギミックをクリアしてくれると信じていたからこそ、きっとやり遂げると信じていたからこそ、イングリットとシャルロッテは2人だけで戦えたのだろう。


「それ~」


 ブス。


 メイメイが逆手で持った神力の輝きを持つ短剣が根を貫く。


 短剣を刺された根がドクンと跳ねて聖樹がより大きく揺れる。


「あああああッ!!」


 それと同時に邪神は胸を掻き毟りながら地面へと堕ちた。


読んで下さりありがとうございます。


タイトル回収したけどまだ続くよ。

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[良い点] 300話にしてタイトル回収!上手い! [一言] >タイトル回収したけどまだ続くよ。 何せ駄馬がまだ死んでませんからね!
[一言] 米神は笑った
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