28 その頃、魔王都では 2
るんたったー、るんたったー、とスキップしながらメイメイは魔王都の大通りを進む。
レガドとは南西エリアにある傭兵組合で別れ、北西エリアにあるイシュレウス大聖堂へ向かっている最中だ。
「うーん。このお店は鉄しかない」
途中で鉱石を卸す問屋を覗き、ゲームの魔王都と比べながら目的地を目指す。
他の店も覗いて見たが、大体は鉄や銅が主でありオリハルコンやミスリルといった上位の金属鉱石類を売っている店は見当たらない。
しばらく手持ちの在庫でどうにかしなければいけないかな? と頬に人差し指を当てながら可愛らしく悩むメイメイ。
傭兵組合から出発して2時間ほど寄り道を楽しんだメイメイは遂に大聖堂へ到着。
そして――
「クリフ~!」
メイメイはゲーム内のキャラクターと変わらぬ姿でベンチに腰を下ろして読書する青年を見つけると、名前を叫んで腕を振りながら走り出した。
クリフも懐かしい声に名前を呼ばれた事に気付き、顔を上げて周囲をキョロキョロと声の主を探す。
自分のもとへ走って来るメイメイを見つけると、ベンチに本を置いて笑顔を浮かべながら立ち上がった。
「メイ!」
クリフは両手を広げてメイメイの愛称を叫ぶ。
メイメイがクリフの腰へと抱きつくとクリフは愛おしそうに彼女を強く抱きしめた。
「ああ! メイ! 無事で良かった! すんすん、ふがふが」
「やっと会えた~! 大変だったんだよ~!」
クリフはメイメイを強く抱きしめると彼女の髪の匂いを早速嗅ぎ始めた。
彼の特殊な行動に慣れているメイメイは完全にスルーだ。
「ああ……。メイの匂いも感触も感じられるなんて……。イベントを制してよかった……。この世界に来てよかった……」
「相変わらずだね~……」
キャラクター通りに美少女化したメイメイの匂いと柔らかな感触をひたすらに楽しむクリフ。
周囲に通行人がいようと止めはしない。それが美少女狂いクリフだ。
思う存分にメイメイを堪能したクリフは彼女と一緒にベンチに座って情報交換を始める。
「やっぱりキャラクターの姿になっているんだね」
「そうだね~。女の子になっちゃった~……」
性転換した事に溜息を吐くメイメイだが、クリフはぶんぶんと首を振って最大級の笑顔を浮かべる。
「メイは美少女になるべきだったんだよ。男の子なのは間違ってた。正されたんだ。これが世界の答えなんだよ!!!」
クリフは「おお、神よ!」と感謝の祈りを捧げる。
「クリフは男になった……けど、何も問題無さそうだね~」
「全く問題無いね。女のままであれば、おふざけで相手の胸が触れたけど今やったら犯罪だね。それは残念だけど……私はとても満足しているよ!!」
クリフはニコリ、と満面の笑みを浮かべた。
流石に付き合いの長いメイメイもドン引きだ。
「でも~。この世界は何なのだろうね~。これ、現実だよね?」
「そうだねぇ。五感を感じるし、飲食も普通に行える。でも、アンシエイルの世界だしゲームで覚えた魔法も使えるんだよね」
「うん。インベントリの中身も、持ってる装備もゲームと同じだった~」
どう考えても現実だよね~。ゲームの世界に入っちゃったね~とお気楽に言いながら頷き合う2人。
「イングはどうしてるんだろう?」
イングリットを愛称で呼ぶクリフ。
自分達がいるのだからイングリットもこの世界に来ているのは確実だろう。
だが、スタート地点がバラバラなので彼がいつ魔王都へ来るのか検討がつかない。
「イングもたまにオカシイことするからな~。マトモなのは僕だけだし~」
メイメイは人差し指を頬に当てながら唸る。
だが、クリフは彼女の言葉を聞いて不思議そうに首を傾げた。
「え?」
「え?」
美少女狂いとアイテム狂いは、お互いどういうわけか首を傾げ合う。
どこか狂ってなきゃあんなクソバランスゲーでトップに君臨しねえわ、という他のプレイヤー達の言葉を彼等は知らない。
「ともかく、いつも夕方までここで読書しているんだ。夕方まで待って、イングが来なかったら宿屋に行こう?」
クリフは毎日の日課をメイメイに説明し、自分の宿泊している宿の良さを懇切丁寧に説明した。
そして彼女と同室に――2人部屋へ移動するのだ。
今夜はハッピーオールナイトだぜ、とメイメイの美少女フェイスと華奢な肢体を見ながら舌なめずりするが――
「うん。でも、部屋は別ね~?」
「……え?」
クリフのハッピーオールナイトは始まる前に終わった。
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メイメイと別れたレガドは魔王城に到着すると、軍の兵舎には戻らず自分が最も敬愛する相手の執務室へ向かった。
部屋の前に到着するとコンコンコンとノックをした後に声を掛ける。
「陛下。至急、ご報告したい事が」
「よい。入れ」
失礼します、と告げた後に扉を開き部屋の中へと足を進める。
部屋の中には魔王城の主である、魔王と4将の1人――宮廷魔法使いのアリク・ヴァルテーの姿があった。
「ほっほ。レガド。無事に戻ったようだな」
「アリク殿。貴方もいるとは丁度良い」
トンガリ帽子を深く被る老人アリク・ヴァルテーは太い木の枝のような杖でコツコツと床を鳴らしながらレガドの帰還を喜んだ。
「して、レガド。報告とは何だ?」
執務机の上で手を組む若い男性――彼の種族はインキュバス族。かなり血が薄まっているが悪魔族の血が流れている。
彼こそが魔王国の現最高権力者。
魔王ガイアス・アル・イシュレウスはレガドに視線を向けながら問う。
「ハッ。実は北西砦の戦闘中に――」
レガドは戦闘中に現れたメイメイの件を魔王へ全て報告した。
彼女が王種族であるドワーフと言っていた事、持っている装備は未知なる技術で作られていた事、既に解体されている制度である冒険者を名乗っていた事。
レガドが全てを報告し終えると、魔王ガイアスとアリクは顔を見合わせて頷きあった。
「陛下。これは確定でしょう」
「そう、だな……。ばあやの言っていた神託の件、恐らくその2人が件の者だ」
「……? どういう事ですか?」
魔王は疑問符を浮かべるレガドへ訳を話し始めた。
「実はな。君とエキドナが砦へ出向している間、ばあやが神託を受けた。神託の内容は3人の王種族が舞い戻るという事だ」
レガドは魔王の話を聞き終えると驚愕の表情を浮かべた。
「ま、まさか。メイメイ殿がその3人の内の1人だと?」
「そうだ。他にも魔王都で最近現れた薬師の青年。彼の種族は完全なる悪魔族だ。アリクが確認をして、今報告を受けていたところだ」
ドワーフ、悪魔。
どちらも神話戦争で滅ぼされた王種族。
「陛下! では、彼等を軍に――」
「ならぬ」
レガドが興奮した様子で言葉を発したが魔王がそれを中断させる。
「ばあやの話では、3人の王種族は神の代理人だそうだ。干渉することなかれ、そう神託が下った」
魔王の告げる神託の内容を聞いたレガドはガックリと肩を落とす。
「そんな……」
これで侵攻を食い止められる、と希望を抱いていた故にショックは大きい。
彼の様子を見た魔王は再び口を開く。
「だが、まだ確定ではない。3人目がまだ発見されていないからな。今日から君達の報告にあった人物を監視する。もしも王種族だと確定したら……なるべく干渉は避けよう」
「その方が良いでしょう。神の代理人として地上にやって来たのであれば、何かしらのアクションを起こすはずです。まずは彼等を監視して3人目の発見を急ぎましょう」
魔王とアリクが話し合う中で、レガドはメイメイの言っていた言葉を思い出した。
「そう言えば……メイメイ殿は魔王都で仲間が待っていると言っていました」
レガドの報告に魔王とアリクも頷く。
「ああ。アリクの部下が接触した青年も同じ事を言っていたそうだ。恐らく、そうなのだろうな」
神託にあった3人の内、2人は既に魔王都にいる。
確定ではない、確信はない。
だが、状況的にどう考えても2人が神の代理人だと思えてならなかった。
とにかく、干渉は控えて様子を探ろうという結論になったのだが、ここでレガドは1つの出来事を思い出して顔を強張らせた。
「……メイメイ殿を傭兵組合に登録させてしまったのですが」
メイメイが王種族、しかも上司である魔王が気にする人物という事を知らなかったので仕方ないのかもしれない。
だが、干渉するなという命に背いてしまったとも取れる。
「……」
「……」
レガドの言葉を聞いた魔王とアリクは「マジかよ。やっべぇ……」みたいな顔で固まった。
一方で、知らなかった故にやらかしたレガドは冷や汗が止まらない。
「よ、傭兵ならセーフなんじゃ?」
「しょ、招集しなければ大丈夫では?」
魔王とアリクも冷や汗を流しながら、どうにか手を回そうと脳をフル回転させた。
「申し訳ありません……」
レガドは素直に土下座した。
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